[映像人のカメラ・アクセサリー2022]レンズ編説明写真

レンズ沼

この記事を読んでいるほとんどの方は「レンズ沼」にはまっている、もしくは、はまりそうになった経験をお持ちだろう。「沼にはまる」とは趣味に熱中・没頭して、もはや抜け出せない状況を指す言葉で使われている。

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レンズは、焦点距離、明るさ、レンズマウント(カメライメージセンサーサイズ)、単焦点/ズーム、シリーズ・価格(レンズの材料、機構、コーティングの種類)、カメラメーカー純正品/サードパーティー品、特殊タイプ(魚眼、ティルト・シフト、マクロ、アナモフィック等)と、選択肢が非常に多く、その掛け合わせで無数にある。

それ故、レンズ選びは難解だ。まずは、カメラメーカー純正品の標準ズームレンズを1本手に入れて、撮影したい作品や仕事に応じて、ワイドと望遠系のレンズをズームレンズもしくは単焦点で追加していくのがレンズ選びの入り口だろう。ただ、それでは済まないのが「レンズ沼」の恐ろしいところだ。

カメラボディだけでは撮影不可能で、レンズが必要になる。レンズの原材料の質や研磨加工、コーティング技術の向上により、安くて良いレンズが手に入るようになり、昔ほど、レンズの値段の差が画に現れにくくなっているが、それでもやはり、「ちょっとしたところで大きな差」が出てくる。

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コシナはガラスの熔解からレンズの生産を手がけていた。右が熔解に使用するガラスの原料。この原料を熔解すると、左のようなガラスの塊になる

常日頃、より映像の描写力を高めたい、自分が追及するクリエイティビティを発揮したいと理想を追い求めるクリエイターからすれば、「ちょっとした差」でこだわりたいところだろう。また、レンズの描写力、性能だけでなく、それにレンズの持つ個性が合わさってくると更に厄介だ。特に、いい意味でクセの強いオールドレンズが加わるとそれこそ、底なし沼だ。レンズの数だけ、個性があり、その個性が味となってユーザーを魅了してやまず、取りつかれるように次から次へとレンズを購入してしまう。これが「レンズ沼」の実態だろう。

少々、脅かすような話をしたが、沼にはまるのもレンズ選びの醍醐味だと思う。抜け出せた先にはきっと、何か見えてくるものがあるはずだ。誰もが通る道として、ぜひ一度ははまってみていただきたい(笑)。

静止画撮影用と動画撮影用のレンズ

静止画撮影用と動画撮影用レンズは選ぶポイントが少し違っている。静止画撮影と動画撮影の大きな違いは、記録している時間の長さと、記録している最中に撮影パラメータが変動するかである。

静止画撮影は、長時間露光撮影は別として、1秒よりも短い時間で像をとらえる。それに対して、動画撮影は数秒から数分、数十分と長い時間連続して像を捉える。また、静止画撮影は被写体を時間軸で切り取り、撮影パラメータを決定した状態で記録するのが原則であるのに対し、動画撮影は被写体、環境の変化に応じて、撮影パラメータを変え、最適化し、その繰り返しで連続記録するのが原則だ。

それぞれレンズに求める性能も違えば、設計思想が違って当たり前であり、静止画用のレンズが動画撮影では使いにくいのは当然の結果である。テレビ放送や映画撮影用レンズが、動画撮影に特化して進化を遂げてきたのは当然の流れだ。

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キヤノンのテレビ放送用レンズ

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映画撮影用レンズ

一眼動画の黎明期から、放送用レンズやシネマレンズなど、マウントアダプターを介して装着して、ズーム、フォーカス、絞り(アイリス)をマニュアルまたは電動でコントロールして使われてきた例も多数見受けられた。ただ、レンズやフォローフォーカスの取り付けのためにリグが必要であったり、レンズも大きく、重くなるため、撮影案件によって使い分けが必要だ。

また、4K以上の撮影解像度でフォーカス合わせがよりシビアに難しくなったことで、マニュアル操作の限界やモニタリングの課題が出てきた。最近ではこのような組み合わせで使用するケースが減ってきているように感じる。

動画撮影用レンズで求められるポイントとは

時間とともに変化する被写体を狙った構図で捉え続けることができるか

構図を変えるには自ら動いて変えたり、レンズの焦点距離を変えて画角を変えるかだ。何を撮るか、どんなシーンで使うかで変わってくるが、自分の撮影で良く使う焦点距離のレンズを用意しておけば良い。自分のペースで時間をかけて撮影できる案件ばかりであれば、単焦点レンズを広角、標準、中望遠、望遠で複数揃えるのが理想だ。

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パナソニックの動画撮影に最適なF1.8単焦点レンズシリーズ。サイズや操作性は統一されており、ジンバルやドローン使用時のバランス調整の負担を軽減できる

ただ、多くの現場では時間や予算の制約があり、短い時間でその現場でのベストパフォーマンスが求められる。静止画撮影においても同様であると思うが、特に動画撮影においてはよく使う焦点距離のズームレンズを持っておくのが便利だ。軸となる標準のズームレンズを1本持っておき、広角や望遠の単焦点を補う形で持っておくと良いだろう。または、広角のズームレンズと中望遠ズームレンズを用意して、広範囲の焦点距離を押さえるのも良いだろう。予算に余裕があるのであれば、広角、標準、望遠のズームレンズを1本ずつ持っておくのがベストだ。

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写真左からRF15-35mm F2.8 L IS USM、RF24-70mm F2.8 L IS USM、RF70-200mm F2.8 L IS USM

被写体を捉え続けるという意味では、フォーカス合わせが非常に重要だ。ビデオカメラのセンサーサイズと違い、ミラーレスカメラのイメージセンサーサイズは格段に大きくなり、フォーカス合わせがよりシビアになる。また、撮影解像度の高精細化により合焦しているか否かが、より分かりやすく目立つようになってしまっている。時間とともに変化する被写体にマニュアルでフォーカスを合わせ続けるのは非常に難しく、熟練の業が必要になってくる。そういった意味ではオートフォーカスの機能が必須だ。

より速く、正確で自然なフォーカス合わせがオートで出来るか。オートとマニュアルの切り替えやオートフォーカス中でもマニュアルで意図したフォーカス合わせが出来るかなど、AF性能が優秀なレンズを選択するのがベストだ。

もう一つ重要なのが手持ちで動きながら撮影する場合はいかに手ブレを押さえられるかも必要で、手ブレ補正機能の優秀さも求められる。手ブレ補正の性能においては、違和感なく、より自然に手ブレ補正を得られるかがポイントだ。

意図する描写を表現できるか

昨今のミラーレスカメラはボディの性能が格段に上がっているので、付けるレンズによって撮れ高が大きく変わってくる。解像感が高く、明るく、色収差が抑えられ、歪みが少ない優秀なレンズを予算と相談しながらいかに揃えるかが最初のポイントだ。次のステップで、色味やボケ味が自分の意図する描写に近い好みのレンズにいかに出会えるか、見つけられるかがポイントだが、ここが中々難しいところだ。とにかく情報を集めながら、レンタル等で試してみるしかないだろう。

特に味を追求しないユーザーであれば、まずはメーカー純正レンズのラインナップの中から選択するのが良いだろう。ズームレンズにおいてはなるべく明るく、F値はドロップしないレンズがいい。複数本持っているならなるべく同じ明るさもしくは近いもので揃えるかがポイントだ。

F値でいえばF2.8通しが理想だが、明るさを一定に保つにはレンズの材料や作り方も難しくなり、価格は高くなる。また、カバーする焦点距離も狭くなる(ズーム倍率が低くなる)傾向が出てくる。最近のミラーレスカメラは感度も高く、低ノイズ化も図られているので、予算的に難しければF4.0通しのもので揃えるのも良いかと思う。

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OMデジタルソリューションズ
動画撮影に最適なM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm

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富士フイルム
動画撮影者には待望のXF18-120mmF4 LM PZ WR

違和感がなく、スムーズに動画が撮影できるか

静止画用のレンズの機構上、フォーカスを調整するときに画角が変わってしまうフォーカスブリージング(フォーカス時の画面変動)が起こってしまうことが多い。メーカー側も動画用途を意識してフォーカスブリージングを最小限に抑えたレンズを各社リリースしているので、そういったレンズを選ぶ方がいい。

また、記録中のズーム操作において低速で一定のスピードで行いたい、より自然に行いたいというユーザー向けにパワーズーム(電動ズーム)機能搭載のレンズが少しずつ増えてきている。パワーズームがあると、被写体に迫る、もしくは後ろに引いていく表現に便利で、ミラーレスカメラでの動画撮影環境は大幅に向上しつつある。

パワーズーム搭載レンズは現在ソニーやパナソニックから対応モデルが発売中だ。ソニーはAF機能搭載の電動ズームレンズ 「FE PZ 16-35mm F4 G」や、APS-C対応AF機能搭載の電動ズームレンズ「E PZ 10-20mm F4 G」(2022年6月24日発売)など、ラインナップを拡充中で、富士フイルムもパワーズームレンズ対応の「フジノンレンズXF18-120mmF4 LM PZ WR」を2022年9月に発売予定だ。キヤノンやニコンはパワーズーム対応製品をラインナップしていないが、今後の対応に注目したい。

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ソニー
FE PZ 16-35mm F4 G

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ソニー
E PZ 10-20mm F4 G(2022年6月24日発売)

レンズ関係のアンケート結果発表

今回の映像人のアンケート調査でレンズについて、大雑把ではあるがレンズをどのように選んで使用しているか、所有しているレンズマウント、良く使うレンズについて聞いてみた。

Q.使用するレンズについて、もっとも当てはまる選択肢をご回答ください。

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今回の調査結果から、ミラーレスカメラのレンズ選びで重視しているのは、カメラボディと同じメーカーの純正レンズを選択することのようだ。続いてサードパーティ製のレンズを選択、撮影案件によって色々なレンズを使い分けるであった。

Q.お持ちのレンズのマウントをお教えください(複数回答可)。

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カメラ所有率と同様、ソニーEマウントの所有率が高かった。続いて、EFマウント、マイクロフォーサーズマウントとなった。

Q.あなたがよく使うレンズについて、具体的なメーカー名、機種名をお教えください(複数回答可)。

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各種マウントともに標準ズーム、広角ズーム、中望遠ズームの所有率が高く、単焦点レンズで足りないところ補完したり、好みの焦点距離のレンズを勝負レンズとして持っているユーザーも多いようだ。サードパーティ製のレンズにおいてはSigmaを支持するユーザーが多かった。

この後、映像人を代表して実際のユーザーにレンズはどう選び、使い分けているのかをインタビューしてみたので紹介したい。

「私がレンズを選んだ理由」インタビュー

キヤノン RF24-70mm F2.8やZEISS ZM Distagon 35mm F2を選んだ理由

湯越慶太

東北新社OND°所属のシネマトグラファー。福岡出身。新しいカメラ、レンズはとりあえず試さずにはいられない性格です。

仕事では案件に応じていろいろなレンズを使い分けるので、この1本というものを選ぶのはなかなか難しいです。プライベートやスチルの仕事ではキヤノンのEOS R5を使うことが多いのですが、仕事ではRF24-70mmはAFの速さ、汎用性などからほぼ必須です。

プライベートの撮影ではRF-Mマウントアダプターをつけて、レンジファインダー用のレンズを取り付けて小回りの効く状態にしておくことが多いです。以前はNOKTON classic 35mm F1.4を使っていたのですが、開放の柔らかさに少し飽きたため、最近はよりシャープで硬いZEISSの交換レンズを愛用しています。ただ、そのうちそのシャープさにも飽きてくる気がしています(笑)。

キヤノンRF24-70mm F2.8 L IS USM

Vol.02 映像人カメラ・アクセサリー[映像人のカメラ・アクセサリー2022]説明写真

特に気に入っているところは、AFの圧倒的な速さと精度です。EOS R5と組み合わせて使うようになってから、フォーカスについて心配することがほぼ無くなりました。

ZEISS Distagon 1,4/35 ZM

Vol.02 映像人カメラ・アクセサリー[映像人のカメラ・アクセサリー2022]説明写真

コンパクトさとヘリコイドの粘り、開放でもシャープな描写力が気に入っています。レンズの描写力、味という議論になると、まずは単焦点レンズの話題になることが多いです。実際各社からシャープなもの、柔らかいものなどたくさんのバリエーションのレンズが発売されており、選ぶのが大変なほど。しかし、現行ズームレンズとなると各社実用一辺倒な印象です。スチルではRF24-70mmの実用性に助けられることが多いのですが、ムービーではフランスのAngénieux社の古いシネマ用ズームレンズをよく使います。ズームでありながら柔らかい味があるというレンズなのですが、現行の各社のズームレンズには実はそういった方向性があまりないのです。

実は中古屋で激安で入手できるような古いズームレンズは、撮影してみると逆光には弱かったり、タル湾曲、糸巻き湾曲が出まくるなど、結構「面白い」ことがわかり、密かにちょくちょく使っています。単玉の開発が一段落したら、各社にはぜひとも「新品で味のあるズームレンズ」に着手してもらえないか、密かに期待しています。

富士フイルムX-T4を選ぶ理由

パナソニック LEICA DG SUMMILUX 12mm / F1.4 ASPH.を選んだ理由

平林勇

映画監督・映像ディレクター。短編映画が、カンヌ、ベルリン、ベネチアなどの映画祭で上映される。 2019年、長編映画「SHELL and JOINT」が完成。

実勢調査レンズ編説明写真

私がメインで使っているレンズは「LEICA DG SUMMILUX 12mm / F1.4 ASPH.」です。基本的な描写力や解像力が素晴らしいことはもちろんですが、プロダクトとしての形や大きさや重さのバランスも良く「持っていたい」と思わせるレンズです。

私は長編映画を作る時にこのレンズを買いました。単焦点レンズ一本で、映画の全部のシーンを撮り切ると決めて、そのレンズを探す中でこのレンズと出会いました。低照度の撮影が得意なGH5SとF1.4の組み合わせを使えば、照明機材無しで多くのシーンを撮れると思ったからです。そして「メーカー希望小売価格、税込198,000円」というところにも惹かれました。「これは大勝負に使っていいレンズじゃなかろうか」と思ったのです。

私はパナソニックのレンズデザインが好きなので、マイクロフォーサーズの25mmで、F1.2やF1.4の絞りリングがあるレンズが出たら、プロダクト的な魅力として買ってしまう気がしています。そして、そこそこ高価だとより買いたくなります。「勝負できるレンズ」が好きなんでしょうね。

富士フイルムX-T4を選ぶ理由

ニコンNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sを選んだ理由

村上岳

撮影から編集まで手がけるビデオグラファーとして東京を中心に活動。2016年明治大学を卒業。在学中からフォトグラファーとして活動し、その後ビデオグラファーに転身。企業VPを中心に2019年は海外での撮影経験もあり。Z 7のRAW対応にテンションが上がりすぎて、3ヶ月で18本自主企画をRAWで撮影したリールをTwitterにアップ。9万再生のプチバズりしました。

実勢調査レンズ編説明写真

私が選ぶ1本は「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」です。筆者は現在ニコンのZ 9をメインのボディとして使用、その前はZ 7と、どちらも約4500万画素のフルサイズセンサーを持った高画素機です。Zシリーズのこのレンズを選んだ理由は高画素の性能を最大限引き出せるからという理由と、ボディの機能で撮像範囲が指定でき、APS-C部分を使用するDXモードのクロップを使えるので、24-70mmは36-105mmで使うことができ、実質24-105/f2.8として使用できるので重宝しています。

また、レンズボディ横にファンクション機能が割り振れるのでAFロックを指定しておくとZ 9の優れたAFと意図的にフレームアウトさせ、フォーカスをそのままに余韻を残したい時などに便利です。

ニコンさんへ要望ですが、今後ギアが彫られてるシネレンズ作って欲しいですね(笑)。