VES(Visual Effects Society)アワード受賞式開催!

2月5日(火)、ロサンゼルスにおいて、第11回VESアワード授賞式 [主催: Visual Effects Society(米視覚効果協会)]が華々しく開催された(※日本ではVESを『ベス』と誤読される事があるが、『ヴィ・イー・エス』と呼ぶのが正解である)。会場はビバリーヒルズにあるビバリー・ヒルトン・ホテル。ちなみにビバリー・ヒルトン・ホテルは、ゴールデングローブ賞の会場としてもお馴染みの場所である。

VESアワードは『VFX界のアカデミー賞』とも呼ばれ、世界中から応募されたVFX作品の中から、映画、テレビ(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、今年は全24カテゴリに及ぶ最優秀作品がVES会員の投票によって選ばれた。そして授賞式では、その受賞作品の発表及び表彰が行われた。会場にはタキシードやドレスに身を包んだVFX業界関係者がリムジンで乗り付け、ハリウッドの受賞式らしい華やかな雰囲気に包まれた。当夜集まったゲストの数は1,000人以上。これだけ沢山の人材が共にハリウッドのVFX業界を支えているのだという事を実感した瞬間であった。

では、そのVESアワード受賞式の模様を特別レポートの形でご紹介しよう。

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左から、ジェフー・オークン氏(VESチェア)、ナオミ・ワッツ、エリック・ロス(VESエグゼクティブ・ディレクター)

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賞のプレゼンターとして登場した、俳優アンディー・サーキス氏。氏はキング・コングやゴラムのモーション・キャプチャーを演じた事で知られる

今年の傾向

VESは毎年、優れた功績を残した人物に特別賞を贈っているが、その受賞セレモニーも行われた。今年は『スターウォーズ』(1977)を始めとする数々の作品で2度のアカデミー賞に輝き、VFX業界に多大な業績を残してきたリチャード・エドランド氏に生涯功労賞(Lifetime Achievement Award)が、そして映画 『ライフ・オブ・パイ』を手掛けたアン・リー監督にビジョナリー賞(Visionary Award)が、それぞれ贈与された。

※ ビジョナリー賞は先見的&革新的な功績を残したと認められる人物に贈られる賞。

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ビジョナリー賞を受賞した、映画 『ライフ・オブ・パイ』のアン・リー監督

今年の話題をさらったのは何と言っても『ライフ・オブ・パイ』 と『メリダとおそろしの森』で、それぞれが4部門で受賞を果たした。特に『ライフ・オブ・パイ』は、最高の栄誉である「映画部門:最優秀VFX作品賞」を始め、

  • 「映画部門:最優秀キャラクター・アニメーション賞」
  • 「映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」
  • 「映画部門:最優秀コンポジット賞」
の4冠を制した。

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4冠を征した「ライフ・オブ・パイ」のスーパーバイザー達。左から、ドナルド・R・エリオット氏、ビル・ウェステンホファー(リズム&ヒューズ)、ギヨーム・ロチェロン氏(MPC)

またピクサーが制作した3D長編アニメーション『メリダとおそろしの森』は、 アニメ-ション関連部門で

  • 「長編アニメーション部門:最優秀アニメーション賞」
  • 「長編アニメーション部門:最優秀キャラクター・アニメーション賞」
  • 「長編アニメーション部門:最優秀デジタル背景賞」
  • 「長編アニメーション部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレー ション賞」
を受賞。

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4部門で受賞した、『メリダとおそろしの森』のピクサーチーム

~今年の著名ゲスト

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左から、生涯功労賞を受賞したリチャード・エドランド氏、プレゼンターのハリソン・フォード氏、ジーン・リザーディ氏(VES)

VESアワード受賞式は、ゲストとしてハリウッドのセレブが毎年登場する事でも話題だが、今年の超サプライズ・ゲストは、なんと俳優のハリソン・フォード。リチャード・エドランド氏に贈られた生涯功労賞のプレゼンターとしての登場だったが、VESからの事前アナウンスも無く、当夜いきなり壇上に登場した大スターに、場内からはどよめきが起こった。

ハリソン・フォードは、その昔、とある低予算映画に出演しまして、”スターウォーズ”って名前の作品なんですけどね。その映画の中で私が操縦したミレニアム・ファルコンとかいう宇宙船を撮影したのが、彼なんですよ。それ以来の付き合いです。あの頃は2人ともまだ若造だったのに、今じゃあ立派なシニアですよ。

とユーモアたっぷりに、 しかも淡々とスピーチ。会場を沸かせた。また、自身の主演映画「THE IMPOSSIBLE」が複数部門でノミネートされた女優のナオミ・ワッツや、「ホビット」でゴラムを演じたアンディ・サーキスらもプレゼンターとして登場し、会場はハリウッドの授賞式らしい華やかな雰囲気に包まれていた。

海外で活躍する日本人のノミネート

今年の話題として外せないのが、海外で活躍している日本人のノミネートである。今年は『ライフ・オブ・パイ』の海のシーンで使用された、海面生成ツールやシェーダー開発を担当したリズム&ヒューズのエフェクトTD長谷川 祥氏が、同社のクルー3名と共に「映画部門 最優秀デジタル背景部門」でノミネートされていた。惜しくも受賞は逃したものの、海外で活躍する日本人がハリウッドの桧舞台で認められた功績は大きい。

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リズム&ヒューズの長谷川 祥氏ご夫妻。長谷川氏は「ライフ・オブ・パイ」でノミネート

さて、今年は日本からの作品が1本もノミネートされなかったのが残念だ。過去には日本の作品がノミネートを果たしており、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分にあるのだ。来年のVESアワードでも、奮って日本からの作品応募を期待したいものである。

第11回VESアワードの受賞作品一覧は下記のとおり:

「映画部門:最優秀VFX賞」 LIFE OF PI

  • Donald R. Elliott
  • Susan Macleod
  • Guillaume Rocheron
  • Bill Westenhofer

「映画部門:助演VFX賞」THE IMPOSSIBLE

  • Felix Berges
  • Sandra Hermida
  • Pau Costa Moeller

「長編アニメーション部門:最優秀アニメーション賞」BRAVE

  • Mark Andrews
  • Steve May
  • Katherine Sarafian
  • Bill Wise

「放送部門:最優秀VFX賞」GAME OF THRONES: Volar Morghulis

  • Rainer Gombos
  • Steve Kullback
  • Sven Martin
  • Juri Stanossek

「映画部門:助演VFX賞」BOARDWALK EMPIRE: Episode 308

  • John Bair
  • Parker Chehak
  • Paul Graff
  • Lesley Robson-Foster

「ゲーム部門:リアルタイム・ビジュアル賞」CALL OF DUTY: BLACK OPS II

  • Jason Blundell
  • Barry Whitney
  • Colin Whitney

「コマーシャル部門:最優秀VFX賞」Nike: BIOMORPH

  • Rafael Colon
  • Aladino Debert
  • David Liu
  • Nicola Wiseman

「博展部門:最優秀VFX賞」DESPICABLE ME: MINION MAYHEM

  • Heather Drummons
  • Joel Friesch
  • Brooke Breton
  • Chris Bailey

「映画部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞」LIFE OF PI: Richard Parker

  • Erik De Boer
  • Sean Comer
  • Betsy Asher Hall
  • Kai-Hua Lan

「アニメーション部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞」BRAVE: Merida

  • Travis Hathaway
  • Olivier Soares
  • Peter Sumanaseni
  • Brian Tindall

「コマーシャル / 放送部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞」GAME OF THRONES: Training the Dragons

  • Irfan Celik
  • Florian Friedmann
  • Ingo Schachner
  • Chris Stenner

「映画部門:最優秀デジタル背景賞」THE AVENGERS: Midtown Manhattan

  • Richard Bluff
  • Barry Williams
  • David Meny
  • Andy Proctor

「アニメーション部門:最優秀デジタル背景賞」BRAVE: The Forest

  • Tim Best
  • Steve Pilcher
  • Inigo Quilez
  • Andrew Whittock

「コマーシャル / 放送部門:最優秀デジタル背景賞」GAME OF THRONES: Pyke

  • Rene Borst
  • Thilo Ewers
  • Adam Figielski
  • Jonas Stuckenbrock

「映画部門:最優秀バーチャル撮影賞」THE HOBBIT: AN UNEXPECTED JOURNEY

  • Matt Aitken
  • Victor Huang
  • Christian Rivers
  • R. Christopher White

「コマーシャル / 放送部門:最優秀バーチャル撮影賞」ZombiU

  • Dominique Boidin
  • Leon Berelle
  • Remi Kozyra
  • Maxime Luere

「映画部門:最優秀モデリング賞」THE AVENGERS: HelicarrierRene Garcia

  • Bruce Holcomb
  • Polly Ing
  • Aaron Wilson

「映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」LIFE OF PI: Storm of God

  • Harry Mukhopadhyay
  • David Stopford
  • Mark Williams
  • Derek Wolfe

「アニメーション部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」BRAVE

  • Chris Chapman
  • Dave Hale
  • Michael K. O’Brien
  • Bill Watral

「コマーシャル / 放送部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」Guinness: CLOUD

  • Tom Bussell
  • Neil Davies

「映画部門:最優秀コンポジット賞」LIFE OF PI: Storm of God

  • Ryan Clarke
  • Jose Fernandez
  • Sean Oharas
  • Hamish Schumacher

「放送部門:最優秀コンポジット賞」GAME OF THRONES, Episode 210: White Walker Army

  • Falk Boje
  • Esther Engel
  • Alexey Kuchinsky
  • Klaus Wuchta

「コマーシャル部門:最優秀コンポジット賞」Chevy 2012 Silverado

  • Dominik Bauch
  • Nicholas Kim
  • Benjamin Walsh
  • 「学生部門:最優秀VFX賞」NATALIS

    • Daniel Brkovic
    • David Kirchner
    • Jan-Marcel Kuehn
    • Tom Ferstl

    WRITER PROFILE

    鍋潤太郎

    鍋潤太郎

    ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。