txt:江口靖二 構成:編集部
ニューヨークの街角に設置された新しいデジタルサイネージ端末「LinkNYC」とは?
ニューヨークのLinkNYC
ニューヨークでは、「LinkNYC」と呼ばれる街頭設置型の新しいデジタルサイネージ端末が2016年1月からスタートした。3rdアベニューから導入が始まり、今後2028年までかけてマンハッタンの歩道上に120メートル間隔で7,500台設置予定とされ、総工費は2億ドルだという。すでに数十台のシステムが稼動中で、早速現地に行ってみた。
設置工事が完了しネットワーク接続を待つもの
LinkNYCの主な機能は以下の通りである。
- ギガビットフリーWi-Fi
- 全米内無料公衆電話
- 緊急電話911
- 簡単な旅行案内、イベント案内
- WEBブラウジング
- マップ(Google Map)
- USB充電器
では動画で全体を把握していただこう。
運用は基本的に広告費で賄われる。筐体は完全屋外設置で、高さ3メートルほどのジュラルミン製であり、極めて頑丈である。自然換気のみでエアコンはない。電源もネットワーク回線も全て地下から供給されており、筐体デザインは非常にスッキリとまとまっている。
スリムでシンプルなデザインのLinkNYC
55インチLCDには赤外線カット用フィルターのシートが貼られている。今の設置状況だとディスプレイは南面と北面に向いており、特に南面は完全に直射日光にさらされる。ディスプレイ輝度は1000から1500カンデラ程度と思われ、直射日光が当たった状態でも視認性は保たれている。
直射日光があたっている状態
LCDは広告を表示するのみで、タッチ操作はAndroidタブレットが筐体の歩道側側面に組み込まれている。ここでタッチした結果の表示はLCDに表示されることはなく、あくまでもAndroidタブレットだ。全米無料通話のために自分のイヤホンやヘッドセットを接続することも可能である。また接続されているギガビットWi-Fiはなかなか高速で、筆者が試したところ100メガ以上の速度が出ていた。足回りの回線は、このためにあらにギガビットネットワークを敷設しているとのことだ。
Androidのタブレット端末が組み込まれた歩道側の側面部
タッチパネル部分
Wi-Fiの接続認証は特になく、オープンで接続するが、別途接続プロファイルをインストールすることでセキュアな接続をすることも可能になっている。
設置は3rdアベニューから行われているので観光客が多いエリアではなく、2016年2月現在はタッチして利用している人は少ない。Wi-Fiは立ち止まって接続している人がまばらに見られる。LinkNYCでは、観光情報の提供は重視されておらず、観光客に特化したサービスというよりも住民向けのサービスという位置づけのようである。
LinkNYCのような検索機能を搭載したデジタルサイネージ端末では、タッチパネルは大型で、タッチ操作するディスプレイと結果などを表示するディスプレイが同じであるケースがほとんどだ。ところがLinkNYCは、55インチの広告表示用のディスプレイと、10インチ程度のタッチパネル(それはAndroidタブレットそのものであるが)に完全に分かれている。広告表示は広告のみで、タッチパネルは操作結果が表示されるのみである。
これにより、操作によって広告放映が中断することはないので、媒体価値を損なわれることがない。運用費を広告で賄うためにはこれは重要なポイントだ。また、この広告用のディスプレイも比較的高い場所に設置されているので、歩道側からも車道側からも視認性は極めて良好である。それだけ広告媒体としての価値が高いということになり、広告費を多く得ることができ、それで運用費をまかなえるのではないだろうか。
さらによく見ると、広告用のディスプレイの上部にはカメラが搭載されている。少なくともこのカメラは、その設置位置からして視聴者属性を識別するものではないことが想像される。ここから先は筆者の推測であるが、このLinkNYCは、単なるデジタルサイネージとか、観光ガイドとか、フリーWi-Fiなどのようなサービス提供することだけ目的ではないのではないと見ている。
例えばこのカメラは監視カメラとして機能していると思われる。マンハッタンに120m間隠で設置されることで防犯機能が強化され、これによって警備警戒コストが削減できる。また公衆電話が激減している中で、緊急通報のためのアクセスポイントもはやり必要だ。これも結果としてコストが削減できるという計算が働いているのだろう。あくまでもトータルで見た場合に、このLinkNYCへの投資は十分投資価値あるいは、コスト削減効果があるに違いない。
筐体上部にはカメラが取り付けられている。これは明らかに監視カメラだろう
東京オリンピックでも、これに似たようなデジタルサイネージ端末が設置されるだろう。観光やフリーWi-Fiも結構であるが、きちんと広告として成立させ、さらにトータルでの収支計算やコミュニケーション設計されるものに登場してもらいたい。