
2025年1月に続き、5月末にもソウルを再訪した。前回の印象を補足しつつ、今回の現地観察から得られた気づきと、日本へのヒントとなりうる4つの事例を紹介したい。
ソウルの街を変えるLED化の波
韓国・ソウルでは、都市のあらゆる場所にLEDディスプレーが張り巡らされていると言っていい。とりわけCOEXモールやカンナム周辺では、地下鉄構内の壁面、ビルの外壁に至るまで、視界の多くをLEDが占拠している。この現象は単なる流行ではなく、国家戦略と助成政策によって意図的に推進されてきたものである。
韓国政府は、LEDディスプレー導入費用の最大50%を補助する制度を設けている。これにより、企業や自治体は大幅なコスト削減の恩恵を受け、LEDの導入が加速度的に進行した。特に「自由表示区域(サイネージ特区)」に指定されたCOEX周辺や北昌洞では、LEDが都市設計の中核的要素となっている。また、カンナムの「メディアポール」は第3世代へとさらに進化し、都市インフラの一部として定着している。
興味深いのは、これらのLEDが「韓国国内企業」の製品とされつつも、実際にはその多くが中国製であるという点だ。韓国企業は中国製パネルを輸入し、国内で最終組立を行うことで政府助成の条件を満たす。この仕組みにより、韓国LED市場が急成長を遂げている。
日本でもLEDディスプレーの需要は今後、街頭メディアやエンタメ領域を中心に高まることが予想される。ただし、韓国のような大胆な公的支援が実現するかは未知数だ。民間主導が前提となる中、都市計画との連携や、品質とコストのバランス、輸入部材の扱い方など、複合的な戦略構築が求められる。

LCDとの住み分けと今後の主流
現在、ディスプレーの分水嶺はおおよそ5〜60インチ。従来はLCDが使われていた駅や商業施設の柱巻き広告も、次々とLED化されている。柱全面を覆う大型LEDは、視認性・演出力ともに向上し、その存在感を強めている。これは日本のJR新宿駅や秋葉原駅でも同様の傾向が見られる。
たとえば100インチクラスの表示では、LCD9面での構成をまだ見かけることがあるが、LEDと比較するとベゼルが気になって仕方がない。LCDとLEDの価格差が縮まりゆく中で、適材適所での利用が着実に進んでいくだろう。
気になった事例5選:ソウルのリアルサイネージ事情
ここからは、今回の訪問で特に印象に残った4つの事例を以下に紹介しておく。それぞれに独自の課題や可能性があり、日本でも検討すべきヒントがある。
地下通路の歩行帯サイン
地下鉄通路に設置された歩行帯の矢印サインが、混雑状況に応じて動的に変化する仕組みになっていた。通勤ラッシュ時に、センシングによって制御されていると見られ、まるで高速道路の可変情報板のような運用。これはシンプルだが「センシングサイネージ」の好例といえる。

穴開きLEDディスプレー
250mmや500mm角のLEDユニットを使ったディスプレーに、あえて一部のパネルを未設置のまま「穴」を作っている例が見られた。光と抜けの対比を使ったデザイン的手法とも解釈でき、未活用部分を意図的に演出に活かす柔軟性を感じた。

とにかくセンイル広告が多い
センイル広告とは韓国発祥の推し活文化で、ファンが推しのタレントの誕生日などにお祝い広告を出稿することだ。広告費はファンクラブやクラウドファンディングで集められることが多い。日本よりも広告費が安いので実現できている部分もある。
ただし、一部にはセンイル広告に擬態したマーケティングという事例もゼロではないようだ。日本でも事例があるのだが、その規模感がまるで違う。正確な統計データはないようだが、少なくとも5億円以上の市場規模である。深圳でもかなり目立ったセンイル広告が日本で根付くかどうかは、まだわからない。

タッチパネルサイネージと"無言の設計不備"
観光案内用のタッチパネル式サイネージが歩道に設置されていたが、何台かがバイクに"駐車"されていた。これは物理的な筐体デザインや配置、周辺との関係性に「ここに停めてはいけない」という空気感を作れていない証左。コンテンツや意匠設計を含めたUX全体の再考が必要だ。


LEDラッピングバスの走行
夜、ホテルの窓から見下ろした街を、LEDで全身ラッピングされたバスが3台連なって走っていった。電動バスをベースにした広告専用車両と思われる。以前日本でも検討されたが、当時はコストと蓄電池容量や重量の問題で実現には至らなかった。しかし、今や技術・インフラともに実用域に達しつつある。


LEDディスプレーは単なる映像表示機器ではなく、都市の魅力やブランドを構成する“第二の皮膚”とも言うべき存在になりつつある。ソウルの事例は、日本がこれからどのようにLEDと都市を結びつけていくかの参考資料として、多くの示唆を与えてくれる。
今年1月に訪問したときの記事はこちら。
WRITER PROFILE

