txt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部
“Globally Connected:世界的なつながり”とは
各国のNetflixオリジナルコンテンツを見るのが日課になって随分と時間が経った。フィクション・ノンフィクションにかかわらず、国や地域、年齢や人種、性差や価値観を超えて楽しめる作品が多いのには驚く。リアルな学びが欲しいならば、今や本を読むより、旅に出るより、Netflixを見ながらハッシュタグを追いかけ世界各国の反応を見たりする時間を作ってみるのも良さそうだ…なんて、ふと思ったりすることさえある。
SXSWのレポートでも書いた通り、今世界の関心ごとは“Globally Connected:世界的なつながり”にある。そこで言う“世界”とはもちろん“国を超えて”という意味ではあるが、私はこれを“境界を超えて”と解釈している。もちろんそのつながりを担うのはテクノロジーだけではなくコンテンツだ。
ということで、今回は境界を超える“クロスボーダーカルチャー”を作りあげているコンテンツを3タイプの語りのフォーマットに分けて紹介していきたい。
Type01:“自分語り”で、フィクションとノンフィクションの境界をなくす
当事者達が強く自分語りをしてエンタメ化する
Netflixの中でも、私が特にここ数ヶ月間ハマっているのが、スタンドアップコメディだ。インド系移民二世のスタンドアップコメディアンであるアジズ・アンサリは、移民二世/ミレミアル世代である彼が体験した家族との衝突や恋愛のいざこざ、食生活などをネタに、人種差別や世代間のギャップを笑いに変え、社会に対してユニークな語りで投げかける大人気のコメディアン。彼らの作品が翻訳付きで見れるなんて、なんたる良い時代かと思う。
アジズが監督・主演を務めたNetflixドラマ「Master of None(邦題:マスターオブゼロ)」は、2017年にエミー賞も受賞し話題を呼んだのでご存知の方も多いだろう。多くのミレニアル世代が抱えているであろう“本当にこの人と結婚してもいいのだろうか?”という悩みや、出会い系サイトで出会った人との距離の縮め方など、アジズのコメディのネタにもなっているような実体験に基づいたかのように作られたエピソードを、日常シーンの中で描いていくほのぼのコメディ作品だ。
Netflixではシーズン2まで配信。主演のアジズがスキャンダルに巻き込まれたが、シーズン3の制作はNetflix的にはウェルカムとのことで期待が高まる
特に、エミー賞を受賞したシーズン2「THANKSGIVING(アメリカの感謝祭)」の回は傑作だ。脚本に助演のリナ・ウェイスが協力し、自らのセクシャリティがレズビアンであることを家族にカミングアウトするが最初はうまくいかず、それを毎年THANKSGIVINGのホームパーティで家族と分かち合っていく20年間のストーリーが、ゆったりとしたテンポで展開されていく。エミー賞の授賞式では“これは私自身の物語”とリナが話しているように、このエピソードは彼女の実体験に基づいて作られている。
HEY GRANDMA! @azizansari & @lenawaithe just won Outstanding Writing for a Comedy Series at the #Emmys. WE SAID, AZIZ & LENA JUST WON OUTSTA pic.twitter.com/KmqRyNoHYx
— Master of None (@MasterofNone) 2017年9月18日
エミー賞を受賞した「THANKSGIVING」でのカミングアウトシーン
従来からの固定化した価値観と葛藤するマイノリティの日常のワンシーンは、差別や偏見への理解を促し「世界をよりよくしている」ものだし、テクノロジーでは変えられない分野で、これからもっと伸びて欲しい分野だと私は考えている。
Type02:“その道のプロでも知らない世界”から、文化を丁寧に・深く描く
専門性を持つ者が知らない学びを共有する
次に、一風変わった料理番組をご紹介しよう。料理番組というと、ミシュランレストランのシェフの1日を追うようなドキュメンタリーや、旅をしながら各国の料理を楽しむ番組、シェフ同士の対決バラエティなど様々なあるが、Netflixオリジナルの「アグリー・デリシャス」は、食と文化をユニークに取り上げるドラマシリーズだ。
ニューヨークの人気ラーメン店Momofukuシェフ兼オーナーのデヴィット・チャンが自らプロデューサーを務めており、彼自身が世界各国の料理をとりまく価値観や文化を徹底的に探求していく。
例えば同じ“ピザ”でも、伝統的な薄生地ナポリピザと、ジャンクな厚みのある厚いシカゴピザでは考え方もスタイルも全く違う。また、その2つのカテゴリにも属さないピザを作るシェフに対してデヴィットがヒアリングをして、価値観の違いや、新しく生まれている文化について深く掘り下げていく。視聴後には、ただ単に「美味しそう~」と思うだけでなく、その食材や地域、文化に対した固定概念が崩されたり、今まで見えていなかった視点が得られるのが非常に面白いポイントだ。
SXSWでも愛されているやんちゃなデヴィッドがともかく食べまくって語りまくる
デヴィッドは自身も韓国二世の米国人。韓国二世だからこそできる、アジア料理でもなく西洋料理でもない、新たなジャンルを作ろうというヴィジョンを彼は持っている。そんな彼が、各国のシェフからインスパイアされる感覚が視聴者にも伝わってくる。同じ専門性を持つ者同士が、その専門性に留まらずに広い範囲で価値観を掘り下げることで、料理に興味がない人でも楽しめるコンテンツに仕上がっていると言えよう。それは、何に対しても貪欲なデヴィッド自身がプロデューサーであるからこそできる技なのだと私は考えている。
Type03:あえて“さまざまな視点”からひとつの物事を描く
違う視点を入れ込みながら、その本質を考えさせる
最後はNetflix以外の作品にも目を向けたい。以前のSXSWレポートでもお伝えしたアート「Life Underground」。これは世界中の地下鉄に乗車している人々のライフストーリーをつなげる試みで、世界14都市以上の映像が地図上にプロットされていくインタラクティブドキュメンタリーだ。今もまだそれは広がり続けている。
世界各国の地下鉄に乗っている普通の人のライフストーリーをつなぐ
家族観や夢、愛や働き方、若者像などのテーマから、世界各国の人々のライフストーリーを見ることができる。共通するところも、全く違うところもあるユニークなストーリーが続くが、それを連続して見ていると気候や服装や電車の中の行動の違いにも気づくようになり、自分にとっての日常と非日常が入れ混じる不思議な感覚を味わえる、まさに「今っぽい」作品だ。
Life Undergroundは、撮影対象者に様々な視点を盛り込んだ作品だが、これと同じような傾向があるのがジャーナリズム界隈でキーワードとして上がっている「Cross-Border Journalism(国境を超えたジャーナリズム)/Collaborative Journalism(協働ジャーナリズム)」の流れだろう。これは1人のジャーナリストだけでなく、会社や国を超えたジャーナリストが連携をして、一つの事柄をともに描いていく手法を言うらしい。ジャーナリズムの権威・ピューリツァー賞でも「コラボレイティブ部門」が数年前に設けられたことでも、この分野への期待がわかるだろう。
2017年より始まったコラボレイティブ・ジャーナリズムサミットが出した解説動画(英語)
動画を見ると、会社を超えたコラボレーションが業界では話題になっているようだが、ここではもう少しオルタナティブな、インタラクティブな他の事例を見ていこう。
世界各国の大気汚染を知ることができるインタラクティブドキュメンタリー#DeepBreath
世界的に大気汚染は深刻な問題だ。世界中の人々の90%が悪質な空気を吸い込んでおり、2018年ではPM2.5をはじめとする大気汚染で700万人が死亡したとWHOは発表し、世界的な連携がより求められている時代へと突入した。この#DeepBreathは、さまざまな国のジャーナリスト達が連携し、アフガニスタン、中国、エジプト、インド、ネパール、ポーランド、アメリカ、メキシコ等の国境を超えて、大気汚染を伝える作品に仕上がっている。
“さまざまな視点”を支える新サービス
この#DeepBreathの制作の裏には「Hostwriter」という世界的なジャーナリストのコミュニティサービスの存在が大きく関わっている。
ベルリンを本拠地にするNPO法人が運営するHostwriterは、ジャーナリストを家に泊まらせてあげる/作品に対するアドバイスする/共同執筆者として立候補する…といった、ジャーナリスト同士のマッチングプラットフォームだ。現在では、136ヵ国・3662人のジャーナリストが登録をしているそうだ。
Hostwriterは、「ジャーナリストのためのカウチサーフィン(airbnbよりも古くからある旅行者達の民泊コミュニティサイト)」とも呼ばれている
Hostwriterは、本年Googleが開催する社会起業家への寄付プロジェクトGoogle Impact Challengeにおいて受賞し、50万ユーロ(約6400万円)の寄付を集め、活動を加速させていくと予想がされている。
自らの主張を深めるためには、今まで客観的な視点を掘り下げていく姿勢がとられていたことが多いように感じる。しかし、Type01や02のような【当事者性】はリアルなものを求める今の若い視聴者の心を捉えることにつながるだろう。
また、Type03のような【多様な視点】を入れ込むことで、制作者自身が持っている無意識のバイアスを気づき、その上で視聴者とともにどれだけ考察を深めていけるかも、今後の一つの流れではないかと感じた。
ぜひ日本からも、このような試みが増えることを期待したい。残りの夏、そういう作品をもっと探していこうと思う。
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