KANDAO QooCam 8K Enterprise
txt:染瀬直人 構成:編集部
カメラ内側リアルタイムスティッチングの8K 30fpsの360°ライブ配信ソリューション登場
中国・深圳のKandao Technology社は、次世代の通信回線技術5Gを想定した8K VRライブ配信カメラQooCam 8K Enterprise(以下:Enterprise)を、9月17日に発売開始した。日本ではKANDAOの正規販売代理店にて2020年9月25日頃より出荷開始予定で、価格はオープンとなっている。
Enterpriseは、カメラ内でリアルタイム・ステッチ処理を行い、8K(7680×3840)360°、最大150Mbpsのライブストリーミングを実現する現時点では世界最小のデバイスとソリューションである。発売に一歩先駆けて、最速レビューをお届けする。
QooCam 8K Enterpriseのセットを開封したばかりの状態。ケースには、本体の他、長いUSB Type-C to Type-Cのケーブル、内蔵バッテリー用の急速充電器、説明書、保証書などが同梱されていた。(ヨーロッパへ出荷する際の電源アダブターは含まれていない。)概要
QooCam 8K Enterpriseの外観
KANDAOは2019年12月にまずQooCam 8Kの「スタンダード版」(以下:スタンダード版)を発売している。小さな筐体で超高解像度8Kの動画を撮影できるコンシューマー用VRカメラの登場は、世界に衝撃を与えた。それに先立ち2019年11月に北京で開催された発表イベントでは、スタンダード版の実力であった4Kライブ配信性能を上回る8Kの配信を可能とするEnterpriseの存在がすでに予告されていた。KANDAOは、今年の初夏にはEnterpriseの量産体制に入っていたが、日本の技適認可が降りるタイミングを待っていたため、9月発売となった。
Enterpriseのライブ配信以外のスペックは、QooCam 8Kと基本的に変わらない。1/1.7インチの2000万画素のイメージセンサー(Sony IMX204)を、2基搭載。10bitの色深度情報を持つ動画と、12bitのRAW形式の静止画を記録できる。
2.4インチのタッチスクリーンで、360°のインタラクティブなプレビューや各種設定を行えるインタフェースも、そのまま踏襲されている。3.5mmのステレオミニプラグ端子に外部マイクを接続すれば、高音質を実装することができる。本体サイズ179×57×33mmと、スタンダード版より高さが34mmほど縦長になり、重さは275gと30g増量した。
QooCam 8K Enterprise(左)と“スタンダード版”(右)の大きさを比較
Enterpriseの仕様において重要なポイントは、何と言っても、ライブ配信機能が大幅に強化された点にある。先に述べたように、スタンダード版が、4KまでのVRライブ配信性能であるのに対して、Enterpriseは8KのVRライブ配信が可能となっている。この性能アップにより、価格はおよそ3倍となった(スタンダード版の価格は税込67,100円)。それでは、ライブ配信機能の詳細を見ていこう。
Enterpriseの特徴であるVRライブ配信について
Enterpriseでは、背中合わせのデュアルフィッシュアイレンズから記録された映像を、ハイスペックなステッチングサーバーや、エンコーダーを必要とせずに、カメラ内部でリアルタイムステッチ処理をして、8K 30fpsのVRライブ配信を実現する。ライブ配信は、カメラ本体、モバイルアプリ、専用PCソフトのそれぞれから、設定および配信を操作できる。360°はもちろん、180°のVR配信も可能だ。ライブストリーミング時には、時間および周波数領域、空間領域のアルゴリズムの組み合わせにより、ノイズ低減処理が行われる。マルチフレーム画像(前後のフレーム画像)に従って、実際のノイズ位置を検出し、ノイズを除去している。画像のノイズを最大限に抑えることで、画像の細部が最適化されるのだ。
Enterpriseより、8K30fpsの映像をライブストリーミング中
Enterpriseから配信された8K30fpsの映像を、ローカルネットワークの環境で、WebサーバーシステムNginx(カスタマイズ済み)を用いて処理。Potplayerというプレイヤーでデモ再生した画面
最初にスマホやタブレットのアプリからストリーミングの情報を設定すれば、次回からはアプリ不要で、直接カメラから配信できる点も画期的だ。また、エンタープライズをネットワークに接続して、ライブストリーミングをすると、接続したネットワークのIPアドレスをQooCamアプリに入力することにより、アプリから遠隔操作することもできる。
Enterpriseのタッチスクリーンのモードの設定画面。「LIVE PRO」は、カメラ内ステッチできる性能を持つEnterpriseのみの機能だ。その場合は、Lanケーブルを経由する必要がある。その他、「180°LIVE」と「HDMI」の選択もある
本体やアプリ設定画面の「自動でライブ配信」をオンに指定すれば、Enterpriseの電源を入れると同時に、カメラ内で自動的にステッチがなされ、素早くライブストリーミングが開始される。また「10bit」をオンにすると、ライブ配信中の映像が10bitの色深度になる。
QooCamアプリのプレビュー画面。「360 live」と「180 live」を選べる。「Live Pro」は、カメラ内部のステッチング処理を行い、「ライブ」は、スマートフォンでステッチングされる
アプリの「ライブ配信の設定」の画面。「自動でライブ配信」をオンにしておくと、本体の電源を入れると、直ちにライブストリーミングが開始される。「インジケーター」をオンにすると、ライブ配信中にカメラのインジケーターが発光する。「タッチスイッチ」のオンとオフは、ライブ配信中に、カメラのタッチスクリーンをオンかオフに出来る。もし、外部電源がない場合、スクリーンをオフにしておけば、電源の節約ができる。「10bit」をオンにすると、ライブ配信中の映像が10bitの色深度になる
筐体の側面には有線LANポートが設置されているので、カメラを5Gルーターや屋内のポートにLANケーブルで接続した場合、PCを介さずとも、安定した配信を可能にする。rtmp、rtmps、そして、rtspの複数のプロトコルをサポートしている。
Enterpriseの有線LANポート
NTTドコモのシャープ社製5Gルーター「Wi-Fi STATION SH-52A」
また、本体の側面には、HDMI端子が用意されており、ステッチした映像を、リアルタイムに外部出力できる。出力可能なサイズは、1080(30、60fps)、4K(30fps、60fps)、8K(30fps)とされていたが、原稿執筆時点では1080や4Kは、30fpsのみが出力できる模様だ。早晩、アップグレードされることを期待したい。
本体側面のHDMI端子
ライブ配信中は、Type-Cケーブルにより、本体の3000mAhの内蔵バッテリーに対して給電が可能だ。給電が開始されると、バッテリーは完全に消費されなくなるが、充電するための余剰電力は予めキープされる仕組みである。
そして、Enterpriseを使って長時間のライブ配信をする場合は、バッテリーをより適切に保護するために、バッテリーの容量は意図的に50%に維持される仕様になっている。この仕組みを把握していないと、給電しているのにバッテリーが減っているように見えて、不安に思えてくるので注意したい。
Type-Cケーブルのポートは一つしかないので、給電用のケーブルとスマホに接続するケーブルを同時に使用する場合は、ケーブルを二つ接続(分配)できるアダプターを利用することになる
ライブ配信中は排熱用の内蔵ファンは停止する設計になっているので、長時間配信する場合は、筐体がかなり熱くなるので注意したい(アプリの「省エネ設定」において、ファンを「常にオン」に指定すれば、配信中も常にファンが稼働する)。
専用ライブ配信ソフト”QooCam Live”が、有償で用意されている
8月15日に新たにローンチされたQooCam Live(現在、Windows版のみリリース済み)は、Enterpriseのみが対応しているライブ配信用の専用ソフトウェアだ。このソフトを使用することによって、より詳細なパラメーターの設定を施した360°および、180°のVRライブ配信が可能になる。QooCam Liveは、別途、1000ドルのライセンスを購入することで利用開始できる(体験版はEnterprise購入者は1ヶ月間、無償で試用可能)。
露出や色温度などの画像調整、ロール、ピッチ、ヨーなどの方向調整のほか、ピクチャーインピクチャー機能を実装しているので、パソコン内のローカルに保存したビデオあるいは静止画、HDMIキャプチャー、RTMPライブストリーミングなどを、ライブ配信時に画面内に挿入することができる。さらには、360°の映像の天頂や底面に、ロゴ(パッチ)を配置して、スタンドなどの余計なものを隠すことが可能だ。
YouTubeやFacebookあるいは、その他のサーバーへ配信する際に必要となるURLなどのストリーミング情報を入力する際にも、スマホから行うよりも作業がしやすいだろう。
Enterpriseのみに対応しているライブ配信用の専用ソフトウェアQooCam Live(Windows版)
QooCam Liveのインターフェース
QooCam Liveで設定したピクチャーインピクチャー画面
QooCam Liveで、天頂にロゴを配置した様子
まとめ
スムーズな高解像度8K VRライブ配信を実現するためには、高速大容量で低遅延のインターネット回線である5Gを利用できることが望ましい。国内では今年から5Gサービスが開始されているものの、5Gが利用できる通信可能施設やスポットなどのエリアはまだ限られており、8Kライブ配信に対応しているサーバーも少ないのが現状である。筆者が検証した9月中旬の時点では、5G利用エリアにおいても上りのスピードは思いのほか遅く、残念ながら5Gの恩恵はあまり感じられなかったのが正直な印象だ。
一方、中国では5Gの基地局の建設が進み、9月時点では48万拠点が設けられ、エンドユーザは6000万人を超えている。昨年からは、HuaweiやChina TelecomのCloud VRサーバーのサービスも開始され、また、動画配信アプリHuyaも8Kのライブストリーミングに対応するなど、5Gと高解像度VRライブ配信ソリューションの充実が先行している。
そんな折、NTTドコモは28GHz帯(ミリ波)を利用した5Gサービスの提供を、2020年9月23日から開始すると発表した。ミリ波を利用した5Gサービスの通信速度は、提供開始時点では受信時最大4.1Gbps、送信時最大278Mbps。2020年冬以降になると、送信時最大480Mbpsにスピードアップされる模様だ。対応エリア内においては、3.7GHz帯/4.5GHz帯を利用した5Gサービスよりも、さらに高速通信が可能になるとアナウンスされているので、今後は5Gの通信速度の高速化に期待が持てそうだ。
また、同じくNTTドコモからは、エンタープライズ向けにLive EX 8KVRという高精細映像伝送ソリューションサービスが、3月より提供開始されている。これは、ユーザー自身が遠隔地からでもあたかもその場にいるような臨場感を体験できるVR映像をリアルタイムに配信可能にするソリューションで、必要な機器、撮影、配信までを全てドコモが提供する。鑑賞者の視聴領域のみを高解像度化することで、効率的に高品質映像を配信できる“パノラマ超エンジン技術”を活用することにより、高解像度、かつ高フレームレートでのスムーズな視聴を可能としている。このように日本における高解像度VRライブ配信の通信環境、プラットフォームは、徐々に整いつつある状況だ。
話をEnterpriseに戻そう。これまでにもKANDAOのObsidian Rを用いたKandao Live 8Kシステムや、最近ではTECHEの360Anywhereなどのように、8Kライブ配信を実現できるVRカメラやシステムは存在していた。しかし、ハイエンド向けで価格が高額であったり、中には海外では発売されているものの、まだ日本国内の技適が取得されていないケースなどが見られた。その点、Enterpriseは、ハイエンドモデルに比べれば数分の1の値段であるから、この小型の筐体で8K 30fpsのVRライブ配信を達成できることを鑑みれば、コスパの良いカメラと言えるのではないだろうか。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、様々なイベントやライブ、展示会などが、中止や延期、規模縮小を余儀なくされたが、その結果、ますますVRライブ配信に注目が集まることとなった。今年5月、KANDAOは中国の通信会社China Mobileと提携して、中国の絶景地でEnterpriseを使用したVRライブ配信のデモを行っている。コロナ禍によりステイホーム中の市民が、VRライブをアプリやHTML5のストリーミングにより視聴し、まるで観光地にいるような臨場感を自宅で体験した。日本でも今後、5G通信利用可能エリアの拡大と、8KVRライブ配信を可能とするサーバーなどの環境が整ってくれば、この先進的なVRカメラであるQooCam 8K Enterpriseのアドバンテージが、最大限に活かされることになるであろう。
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