txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部
Virtual Cinema 2020最前線
10月にOculus Quest 2が発売され話題となりました。より安価で手軽なハードが登場してきたことで、VRコンテンツがいよいよ一般的に普及するきっかけとなるかもしれません。VRというとやはりゲームが注目されがちですが、映画やドキュメンタリー等の映像作品も徐々に盛り上がりを見せています。
SXSWでは4年前からFilm Festivalの中にVirtual Cinema部門を設けており、これまで様々な意欲的な作品が発表されてきました。技術の進歩が著しいこの部門では、毎年新たな発見があるため、SXSW全体から見ても非常に注目されているポイントです。そこで今回は、SXSW 2020のVirtual Cinemaノミネート作品の中から、特に面白そうなものをピックアップして、Virtual Cinemaの最前線を見ていきましょう。
ヒーリング効果|穏やかなバーチャル世界で癒しの現実逃避
心を閉ざした少女が自分の悲しみと向き合い、再び前を向くまでを描くのアニメーションVR作品。バーチャル世界での穏やかな暮らしを疑似体験する事は、殺伐とした現代を生きる忙しい人々にとって、最高の癒しコンテンツと言えるかもしれません。
VRタイムマシーン|失われてしまった世界遺産を体験
2019年4月、火災により半壊したパリのノートルダム大聖堂を、バーチャル上で復元したこのプロジェクトは、「アサシンクリード」シリーズで知られるフランスのゲーム会社UBIソフトが、ゲーム内の建築物データを元に作りあげました。VRであれば以前の美しい姿を再現できる上に、ゲームと同じ様に時間を越えて、物語性のあるコンテンツにする事も可能です。
他人の人生の疑似体験|最愛の人を失った悲しみを共有する
最愛の人を亡くした時、その悲しみから立ち直る事は誰にとっても難しいはずです。過去の幸せな記憶から別れの瞬間まで、記録としてVR映像にして残す事は、残された人にとって大きな意味を持つでしょう。更に他の人にも体験してもらうコンテンツに昇華した事で、最愛の人の死が見知らぬ誰かに影響を与える事となります。感情を共有する媒体としてVR技術が使用されている非常に興味深い作品です。
次世代インスタレーション|複合現実でアートの世界に入り込む
画像は企業Webサイトより引用
VRヘッドセットを装着し、スタッフに誘導されながら移動して体験するMR(Mixed Reality)のアートインスタレーション作品。視覚/聴覚に加えて、ドアノブを掴んだり、ピアノを弾いたり、触覚が加わる事でより深い没入感を得る事ができると言います。今はまだ体験するための大規模な展示が必要ですが、将来的には触覚を再現するVR機器が登場すると言われています。
VRドキュメンタリー|世界から見た福島原発事故からの10年間
2011年の福島第一原発事故とその後の除染活動や健康被害の問題について、スイスと米国の映像ジャーナリスト達が取材したVRドキュメンタリー作品。東日本大震災からもうすぐ10年が経とうとしている今、日本の原発問題に対する世界からの視点を得る事ができます。VRドキュメンタリ―の第一人者であるNonny de la Pena氏がプロデューサーの一人として参加しています。
ホラー映画に入り込む|ゲームと映画が融合したインタラクティブな新体験
化物が棲む山小屋に閉じ込められた主人公の視点で進むインタラクティブなホラー映画。ホラーが苦手な人は予告だけで恐ろしいですが、これが360°で繰り広げられると思うと、その恐怖に耐えられる気がしません。もしかしたら、ホラーこそがVRの最大のキラーコンテンツになるのではないでしょうか。
コントローラーいらず!|まばたきで時間を進めるVR映像作品
画像は企業Webサイトより引用
アイトラッキングの技術を応用し、まばたきで操作するVR映像作品。死後の世界で目覚めるところから始まり、目線がどこを見ているか、まばたきのタイミング等によって、ストーリーが分岐するように作られています。アイトラッキング技術はまだ多くの家庭用VRヘッドセットには搭載されておらず、普及するのは2~3年後と言われています。
まとめ
SXSWのFilm部門は、大きなスタジオが制作する作品からインディー作品までがフラットに並ぶのが特徴的です。VR技術を活用したVirtual Cinemaでは、単なる技術や表現の発表だけではなく、アートやエンターテインメント、そしてビジネスの未来を感じさせてくれる意欲的な作品が多く並びます。これからの未来がどのように進化していくかを覗いているようで、オンラインで開催されるSXSW 2021のVirtual Cinemaも楽しみです。
どのようなジャンルの作品であれ、作品のノミネートで最も重要になるのが、そのストーリーが人の心を動かす「共感」をどれだけ生み出せるか、という視点です。従来の映画に比べると、360°のVR映像作品は特に、圧倒的な没入感によって視聴者の心を大きく揺さぶる事ができるという利点があります。コロナ禍の今こそ、多くの人が自宅でVRゴーグルを装着して深い映像体験をする事で、VR市場の成長が加速していく契機となりそうです。
VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧ください。