txt:手塚一佳 構成:編集部
話題をさらう「Xperia PRO」。その価値は?
ソニー製プロ向けスマートフォン「Xperia PRO」は映像や報道のプロ向けの特別なスマートフォンだ。2月10日の発売に先立ち、メディア向けに「Xperia PRO」およびα連携に関してごく短時間ではあるがハンズオン体験の機会を得たので報告したい。
なお、ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)企画マーケティング部門企画部企画1課の生雲稔敬氏および、企画マーケティング部門プロダクトマーケティング部テクノロジーコミュニケーション課の間下健介氏によるXperia PROの説明を受けることができた。開発側による説明は本当にありがたい。
読者諸賢はご存じの通り「Xperia PRO」は発表と同時に大きく話題となっている。その話題の中心はなんと言っても「希望小売価格税込250,800円前後」というスマートフォンの価格帯を超えたその発売予想金額だろう。もちろん、プロ向き機材であるから、一般ユーザーにとってその価格のメリットがあるかというと微妙な線かもしれない。しかし、果たして、この価格に見合うメリットが我々映像のプロにあるのだろうか?
結論から言うと、この「Xperia PRO」は、十分に我々映像のプロにとっての価値がある、と言える。今回はそのあたりについてご紹介したい。
ベース機「Xperia 1 II」との違い
まず、この「Xperia PRO」は業務カメラによくあるように民生機のベースモデルが存在する。それは「Xperia 1 II」というソニー製フラッグシップスマートフォンだ。
ベース機の「Xperia 1 II」は、次世代通信5G(Sub6)、最新の高速CPU Qualcomm Snapdragon 865 5G Mobile Platform、内部メモリ8GB、SSD128GB、4000mAhの大容量バッテリー対応の水平3840画素×垂直1644画素のディスプレイ画素数を誇るスマートフォンで、ソニーαシリーズのカメラ技術を導入することで、スチルムービーともに高い品位を保っている。
特に映画撮影用プロフェッショナルカメラ「CineAlta」開発チームが監修したシネマ撮影専用機能「Cinematography Pro」が、映画さながらの画作り・質感・色表現を実現させているのが我々映像屋にとってなじみ深い部分だろう。
ベース機「Xperia 1 II」のリアの3つのツアイスレンズカメラはレンズそれぞれにセンサーが備わっているため切り替え時に一瞬のブラックアウトこそ生じ、連続して画角を切り替えながらの撮影こそできないものの、非常に高品位であり、スチル撮影や、スモールセンサーにおける映像カット制作としては十分に業務利用に耐えるレベルの映像を生み出せる。
「Xperia PRO」はこのベース機をもとに大きく業務用に改造した機材となる。両者を比較しながら違いを見てみよう。なお、この「Xperia PRO」は開発機であり、実際の発売実機とは異なる部分もあるのでご注意されたい。
まず、一目でわかるのがボディの材質の違いだ。また、大きさも明らかに違う。これは「Xperia PRO」が5Gの中でも最新のミリ波に対応したことによるものだ。5Gには今普及中の従来周波数帯を利用したSub6と、今回「Xperia PRO」に搭載された将来普及予定のミリ波が存在している。
ミリ波採用で、特に上りの通信速度での速度上昇が見込める。6GHz帯未満のSub6だと上りの速度は最大182Mbpsだが、ミリ波ならこれが480Mbpsとなり、膨大な映像データもあっという間に送信することができるだろう(各携帯網キャリア毎の制限はあるので注意は必要だ)。
各種定番のストリーミングアプリだけでなく、ソニー独自のFTPサーバー接続ソフト"Imaging Edge Transfer&Tagging addon"アプリも用意されており、これにより、映像業界のファイルやり取り定番のFTPアップロードを本機単体で行うこともできる。
ミリ波は直進性が高く、また高エネルギー電磁波のため遮蔽されやすいため、アンテナの方向が大切になる。そのため「Xperia PRO」には4つのミリ波専用アンテナが追加され、さらに、専用のミリ波視覚化ソフト「Network Visualizer(ネットワークビジュアライザー)」が搭載されている。
そのため、アンテナの分本体が大きくなり、また、背面材質もミリ波を妨げにくいエンジニアリングプラスチックへと変更されている。
ミリ波の特性上追加のカバーを追加することは避けるべきなので、この「Xperia PRO」は基本的にカバーやバンパーを付けず、裸で使う機材となる。希望小売価格税込250,800円前後という「Xperia PRO」の価格を考えると落下トラブルなどは想像したくない。そのため、カバーの代わりに非金属の背面リングなどの使用を考えるべきかもしれない。
背面リングであれば上下左右のアンテナとは干渉しないので、影響が少なめに落下防止ができるだろう。また、液晶面にはアンテナはないので、液晶面のカバーフィルムは付けても問題はなさそうだ。
写真を見て、液晶の色がベース機の「Xperia 1 II」と「Xperia PRO」とで明らかに異なっているのがおわかりいただけるだろうか?「Xperia PRO」のディスプレイはアスペクト比が21:9の6.5型、4K HDR有機ELを搭載し、このスペック自体は「Xperia 1 II」と同じだが、「Xperia PRO」ではソニー製マスターモニターを基準とした色味調整を個体毎に行っているのだ。
これは言わば、調整済みの業務モニターと同じ扱いと言える。もちろん、将来的にキャリブレーションがずれてきたときや、特殊環境でキャリブレーションを変えたい場合には「Xperia 1 II」にも搭載されている「ホワイトバランス」設定で再設定ができる。
これにより、撮影部隊各個人手持ちのモニターで完全に調律された環境が得られるわけで、特に過密を避け、リモートワークの進むコロナ禍の今、こうした小型業務モニターが手元にあるというのは大変に心強いだろう。もちろん小型業務モニターや収録機は各人各社持っていると思われるが、統一規格で、なおかつスマートフォンという現場に持って行き忘れにくいものとして存在しているのは最終的なバックアップ的な存在としても期待できる。
正直、残念ながら小型業務モニタや収録機は色味の個性が強すぎる事が多い。事前調整するにしてもメーカーが異なっていたりしてかなり大変だ。もちろんそのためにSonyのマスターモニターが存在しているが、この密を避ける世情ではみんなで同時に頭を付き合わせて1つのモニターを見るというのもなかなか難しい。
もちろんちゃんとしたモニターの存在は必須だが、各チームの色調整はこの「Xperia PRO」で指定する、というのも夢物語ではないだろう。また、ノートPCなどでのカラーグレーディング時に、HDMIから映像を出力して色味を確認する、といった使い方も想定できる。
最大のプロ機の特徴「HDMI入力搭載」
「Xperia PRO」のプロ仕様のディスプレイの機能を生かし切るためにHDMI入力端子がついているのは本機最大の特徴だ。このHDMI入力はピンチタップによる拡大縮小などのスマホ操作が可能で、中央以外の部分の拡大ができるのがとても便利だ。ピントを中央以外に合わせたいときに「Xperia PRO」を使って本体モニターとは違う部分の拡大を行えば、精緻なピント操作が行えるだろう。フォーカスプラーに持たせたい機材だ。
このHDMIは、4Kまでのほとんどの入力信号に対応する予定のようで、実際今回も、ソニーα1の他、α7 III、筆者持参のLeica SL2-SからのHDMI出力の受像に成功している。この辺は実機の発売を待ちたいが、期待していいのではないだろうか。
また、HDMIの映像は現状では内部収録はできないが、様々な映像ストリーミング配信アプリに映像データを渡すことができる。また、あくまでも現状は内部収録部分のアプリがないだけの様子なので、その部分のアプリがサードパーティか何かで出れば、内部収録も可能と思われる(とはいえ、Android仕様の限界で、スマートフォンのSDカードは最大96MB/s程度、安全値で30MB/s程度なので、4Kそのままの収録は難しいだろう)。
なお「Leica SL2-S」のHDMI出力はLogがかかっているが、これはフラットなLogのまま表示されている。現状「Xperia PRO」の画面にLUTを当てることはできないが、ストレートな映像が見られるだけでも価値は高い。
もちろんスマートフォンとして「Xperia PRO」本体のみでも撮影は可能であり、ベース機の「Xperia 1 II」と同じ性能での「Cinematography Pro」での高品位撮影が可能だ。この場合にも、調整済みのモニターは他のカットとの色味の統一に威力を発揮するだろう。
スマートフォンとしては「おさいふケータイ」がついていないなど、余分な部分を削り取ってはいるが、筆者含め、仕事でスマホを使っている場合にはそういう課金通信にスマホを使うことは考えにくいので、非常に妥当だ。
また「Xperia PRO」の本体メモリは12GB。本体内SSDはなんと驚きの512GBだ。「Cinematography Pro」は収録速度の関係で内部SSDにしか収録できないので、この内部SSDの大きさは頼もしい。さらに、スチルや、収録後の映像は最大1TBのmicroSDカードにコピーすることができる。映像データは膨大なので、こまめにデータを逃がしたいところだ。
このように「Xperia PRO」は間違いなく映像のプロ用の業務機として大きくワークフローに役立つ事が予想される。希望小売価格税込250,800円前後という金額は、業務モニター+超高速データアップローダー+スマートフォン+512GBという膨大なストレージという性能を考えれば、決して高いとは言えない。発売は2021年2月10日。各社携帯網キャリアからは発売されず、SIMフリーフォンとしての発売のみとなる。
この「Xperia PRO」は、発売後、さらに詳細をお伝えできればと考えている。実に楽しみな機材だ。