今年の夏は東京でオリンピックが開催されたにもかかわらず、全試合無観客という事で自宅からテレビ越しに応援するいつもと同じオリンピックになってしまいました。本来であれば、現場でのスポーツ観戦は最高のエンターテインメントであり、多くの人々に熱狂と興奮を与えていたはずです。
1日でも早くこの新型コロナウイルスが終息し、以前のようにスポーツ観戦を楽しめる日常が戻ることを願い、今回はスポーツ観戦に関わる未来を予報してみたいと思います。特に近年のアスリートは、多くのスポーツテックに支えられていると言えるでしょう。自分自身や対戦相手の分析をはじめ、新技術を用いた高機能の靴やウェア等が次々に登場し、トレーニングや試合に取り入れられています。そんなアスリートを支える最新スポーツテックについても併せてご紹介します。
1.スタジアム全体がデジタルテーマパークに
Panasonic/Smart Sports Venues
パナソニックがCES 2018で発表した未来のスタジアムでのスポーツ観戦のコンセプトでは、観客がスマートグラスを装着する事でゲームを盛り上げる様々なXR演出が楽しめます。画面上で出場選手の情報等が閲覧できるだけでなく、ゴールやタッチダウンの際にわかりやすく文字が飛び出してきたり、チアガールの踊りが目の前で3D表示されたり、スポーツ観戦のエンターテインメント性を高めている事がわかります。
巨大スタジアムでのスポーツ観戦では、アスリートの表情や姿は遠目で見えない事が多く、大型ビジョンを見るかフィールド上の選手を見るか迷ってしまいます。このようなウェアラブルがあれば、その場の臨場感を感じながらも、非常に快適な観戦ができるのではないでしょうか。XRの演出次第では、スタジアム自体が巨大なデジタルテーマパークとして楽しめる可能性を感じます。
2.観客がハッキングできるスタジアムの望遠カメラ
スタジアムに設置されている望遠カメラを観客がスマホから操作でき、記念写真の撮影ができるサービス。アメリカではスポーツ観戦のハーフタイムや中断時に、会場の大型ビジョンに映し出されたカップルがキスをする"Kiss Cam"という遊びが恒例となっています。このように、会場のカメラに撮られる事がスポーツ観戦の記念になるという共通認識があるために生まれたサービスと言えるかもしれません。
日本ではオリンピックやワールドカップの時は盛り上がるけれど、普段からスポーツ観戦に行くファンは限定的で、特にマイナースポーツのファンコミュニティが育ちにくいと言われています。スタジアムへ行く事の価値を高めるためには、このような観戦以外のエンターテインメント要素をうまく取り入れていく必要があるのかもしれません。将来的には、遠隔でテレビ観戦している視聴者が、自分だけのカメラアングルを操れるようになったら面白そうです。
3.世界新記録の鍵は、パフォーマンスを向上させるスポーツウェア
KYMIRA SPORTの繊維から赤外線を発するように特殊な加工がされたスポーツウェア。着用する事によりパフォーマンスの向上、筋肉疲労の回復、痛みの軽減等に効果があると言います。どれほどの効果があるのか懐疑的ではありますが、多くのプロアスリートと契約をしており、これからどんどん広まっていく技術になるかもしれません。
着ているだけでアスリートのパフォーマンスが向上するのであれば、技術の進歩と共に新記録が次々と更新されるようになるはずです。そうなると、オリンピックのような競技大会の場では、このような拡張機能を持つウェアの是非に対する論争が起こるでしょう。
4.汗の成分を分析して配合する自分だけのスポーツドリンク
汗に反応するパッチを腕に張り付け、運動後にパッチをスマホカメラでスキャンする事で、運動によって失われた水分量やミネラル量がわかるという仕組み。運動時に摂取すべき適切な水分量や、最適なスポーツドリンクの種類をアドバイスしてくれるので、自分の身体に合った栄養補給が可能になります。
同じ環境下で運動していても発汗量には個人差があるので、アスリート向けだけでなく、人々の熱中症予防にも役立ちそうな技術と言えます。将来的には、今よりも多様なスポーツドリンクが市販され、個人個人の数値に合わせて選べるようになるかもしれません。このように消費スタイルが変わってくると、広告も大きく変化するでしょう。
5.シュートの軌道を分析して成功率をUPさせるAIコーチ
スマホと繋がるセンサー搭載のシュート練習用バスケットボール。シュートの成功率はもちろんの事、シュートを放った位置や力の入れ方等のデータを分析し、スマホアプリと連携して自分の癖や改善点をアドバイスしてくれるコーチングプランを提供しています。
また、個人練習用だけでなく、チーム指導者向けのアドバイスも行います。これまで人間が経験に基づき感覚的に行っていたスポーツの指導は、これからはデータに裏付けられたAIによるコーチングが主流になっていくのかもしれません。もしかすると将来的には、NBAの試合のボールにもセンサーが搭載され、スター選手のデータがコーチングに反映されるようになるかもしれません。
スポーツ業界において映像は「魅せる表現」としての役割が求められてきましたが、これからはスマートデバイスと連携する事で選手を解析しやすくなる「分析のサポート」という新たな役割が追加されてくることでしょう。
まとめ
今年のオリンピックはスケートボードやサーフィン等、ストリートカルチャーから生まれたエンターテインメント要素の高い新しいスポーツがオリンピック競技に採用された事も特徴的でした。画面越しに観戦していても従来の競技とは異なる雰囲気があり、スポーツの楽しみ方が次第に進化している様に感じますし、競技の中で映像が使われることも非常に多くなりました。
オーディエンスとしても、新たなテクノロジーを積極的に取り入れる事で、これまでにないエンターテインメント体験ができる可能性があります。スポーツから生まれるエンターテインメントの未来について、今後も注目していきたいと思います。
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