はじめに

ロサンゼルスは「エンターテインメント・キャピタル」である。LAに住んでいると、他の場所ではなかなか体験出来ない「ハリウッドならでは」の映画に関連した貴重なイベントに参加出来る機会も少なくない。

今回は芸術の秋という事もあり、やや趣向を変えて、ハリウッド・ボウルで開催されたジョン・ウィリアムズによる映画音楽のコンサートの模様をご紹介したいと思う。

なぜ「VFX最前線」でコンサートのレポート?それは、ジョン・ウィリアムズが音楽を手掛けた映画は、VFXの歴史に直結する作品も多く、まさに本欄でご紹介するに相応しいイベントだからである。

ジョン・ウィリアムズ本人がロサンゼルス・フィルハーモニック(以降、LAフィル)を指揮し、自身が作曲した映画音楽の数々を演奏するという、非常に豪華なコンサートである。それでは、その模様をご紹介する事にしよう。

ジョン・ウィリアムズって、どなた?

シーズン開催が近くなると、郵送されてくるハリウッド・ボウルのフライヤーより

まず、ジョン・ウィリアムズをご存知ない方の為に簡単にご説明させて頂くと"「スター・ウォーズ」の映画音楽を作曲した人"と言うのが一番わかり易いだろう。また、今回の東京オリンピックにおいても、米NBCなどのオリンピック関連番組の冒頭で必ずと言って良い程流れた「オリンピック・ファンファーレとテーマ」も代表作の1つだ。スピルバーグ作品の数々や、スター・ウォーズ・シリーズ、ハリー・ポッター・シリーズなどのサントラを作曲した、ハリウッドを代表する映画音楽の作曲家である。

今年でなんと89歳(!)を迎えるジョン・ウィリアムズ氏だが、まだまだ現役である。今回も元気なお姿を見る事が出来て、大変嬉しく思った。

ハリウッド・ボウルとは

開場直後のハリウッド・ボウル。巨大な野外音楽堂である。背後にはハリウッド・サインが見える

ハリウッド・ボウルは、ハリウッド・サインに近い山の中腹の、広大な地形を利用して作られた野外音楽堂で、ロサンゼルスを訪問された際は是非訪れて頂きたい名所の1つである。特に毎年6月から9月のシーズン中は、クラシック、ジャズ、ロック、映画上映&生オーケストラによるサントラ演奏まで幅広いジャンルのコンサートが、連日連夜開催される。座席数17,376席という規模を誇っている。

John Williams: Maestro of the Movies

ハリウッド・ボウルにおけるジョン・ウィリアムズによるコンサートは過去20年に渡り、ほぼ毎年開催されている。例外だったのは、昨年の2020年シーズンはコロナの影響でハリウッド・ボウルが休止、そして2015年は同年末に公開された「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の作曲作業に専念するため、お休みであった。

昨年の2020年シーズンはコロナの影響で全てキャンセルになり、1年ぶりに開いたハリウッド・ボウル。Welcome Back!の文字がスクリーンに

そんな事情もあって、今回のコンサートは2年ぶりの開催となり、大勢のファンや観客で場内は満席であった。

コンサートは、前半と後半の、休憩を挟んでの2部構成である。以前はジョン・ウィリアムズが全曲の指揮を振っていたが、さすがにご高齢という事もあるのか、2016年以降、前半は映画音楽の作曲家デイビッド・ニューマンがタクトを取り、後半をジョン・ウィリアムズが指揮、という構成で行われている。

デイビッド・ニューマンは、代々「作曲家ファミリー」で、父親のアルフレッド・ニューマンも著名な作曲家であり、一族にも作曲家が多い。ジョン・ウィリアムズがアルフレッド・ニューマンと仕事をしていた頃、仕事場に遊びに来ていた少年がデイビッド・ニューマンで、その頃からのおつきあいだそう。そんなご縁から、このコンサートの前半を務めるようになったというエピソードが、過去のコンサートで紹介されていた。

ステージ前半の第1部はデイビッド・ニューマンの指揮で、ハリウッドの歴代の名作の数々を、ジョン・ウィリアムズが編曲したスコアによって演奏された。LAフィルの演奏をバックに、ステージ上のスクリーンにはさまざまな名作映画が映し出された。演奏とタイミングをピッタリ合わせて編集された各映画作品のハイライト・シーンが上映され、素晴らしかった。

ハリウッド万歳(Hooray For Hollywood)

  • 映画「アラビアのロレンス」から抜粋(Excerpts from Lawrence of Arabia)
  • 映画「パリのアメリカ人」(An American in Paris)
  • 映画「ゴッド・ファーザー・メインテーマ」(The Godfather Waltz)
  • 映画「麗しのサブリナ」からテーマ(Theme From Sabrina)
  • 映画「カサブランカ」(Casablanca)
  • 映画「ハリー・ポッターと賢者の石」より、ハリーの不思議な世界(Harry’s Wondrous World from Harry Potter and the Sorcerer’s Stone)

筆者も、これらの映画のハイライト的なクリップは部分的にテレビなどで目にした事はあっても、映画全編を通してキチンと鑑賞した事がない作品が多い。「麗しのサブリナ」のテーマでは、オードリー・ヘプバーンの歴代ヒット作品の映像も含まれており、「ローマの休日」や「ティファニーで朝食を」などが併せて上映された。

オードリー・ヘプバーンの映画はなかなか観るチャンスに恵まれず、今回のコンサートで美しい映像の数々を見て「一度、鑑賞してみたいなぁ」と感じた。ハリウッドのエジプシャン・シアター等で時々特集上映が開催されているので、もしヘプバーン特集があれば是非足を運んでみたい。

こちらのクリップはYouTubeに上がっている、もう10年程前の同コンサートのオープニングの模様だが、歴代の名作映画の映像に合わせてサントラを生演奏する様子が、ハリウッド・ボウルの観客の歓声も交えて紹介されている。映画の歴史を音楽で振り返る、このコンサートの素晴らしさを垣間見る事が出来るクリップである。

さて、休憩を挟んだステージ後半。オーケストラ・メンバーがステージに揃うと、いよいよ御大、ジョン・ウィリアムズがステージに登場した。足どりもしっかりしていて、まだまだお元気そうである。

ジョン・ウィリアムズといえば、例年のコンサートでは白のジャケットで登場する事が多かったが、この日は珍しく黒のスーツであった。

冒頭でご挨拶する、ジョン・ウィリアムズ(会場のスクリーンを撮影)

今年は東京オリンピックが開催された事もあり、演奏曲の中には「オリンピック・ファンファーレとテーマ」が含まれていた。この曲の演奏前、ジョン・ウィリアムズはこう挨拶した。

オリンピックと言えば、私たちの友人である故コービー・ブライアントが思い出されます。彼は、みなさんと同じようにハリウッド・ボウルをこよなく愛し、何度も足を運んでいました。オリンピックでも、2度ゴールドメタリストに輝きました。コービーは2017年、このコンサートで短編アニメーション「親愛なるバスケットボール」のポエムを朗読してくれました。みなさんの中にも、その時にご来場されていた方がいらっしゃると思います。今回は、歴代オリンピックの映像と共に、この演奏を、コービーに捧げたいと思います。

9月4日に演奏された「オリンピック・ファンファーレとテーマ」のクリップより

この日の、第2部後半ステージの演奏曲目は下記の通り

  • オスカーへの序曲(Overture to the Oscars)
  • オリンピック・ファンファーレとテーマ(Olympic Fanfare Theme)
  • 映画「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」組曲から(Suite from The BFG)
  • 映画「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」より、バイク・チェイスのスケルツォ(Scherzo for Motorcycle and Orchestra from Indiana Jones and the Last Crusade)
  • 映画「レイダース/失われたアーク(聖櫃)」より、マリオンのテーマ(Marion’s Theme from "Indiana Jones and Raiders of the Ark")
  • 映画「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」より、ハン・ソロの冒険(The Adventures of Han)
  • ヨーダのテーマ(Yoda’s Theme)
  • 映画「スター・ウォーズ」より、王座の間とエンド・タイトル (Star Wars Theme / The Throne Room and End Title)

アンコール

  • 映画「スター・ウォーズ エピソード5/ 帝国の逆襲」より「帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」(The Imperial March from The Empire Strikes Back)
  • 映画「ET」よりフィナーレ(From E.T. the Extra-Terrestrial)
  • 映画「レイダース/失われたアーク」より「レイダース・マーチ」(End Credits from Indiana Jones and Raiders of the Ark)
  • この日は前半と後半で、全16曲が演奏された。

    アンコールで「帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」が始まると、満員の観客席からは一斉にライトセーバーが乱舞した。これだけの数のライトセーバーが舞うと、壮観である。

    「ダース・ベイダーのテーマ」では観客席で何千本というライトセーバーが舞う

    ジョン・ウィリアムズによれば、観客席でライトセーバーが乱舞するこの光景は、"ハリウッド・ボウルで「自然発生」した、ここでしか見られない風物詩"なのだそう。当初、ライトセーバー持参者はごく少数だったのが、毎年どんどん増え続け、とうとう観客の大半が持参するようになってしまった(笑)。今では、コンサート当日に売店でもライトセーバーが販売されるようになり、おそらく年で最もライトセーバーが売れる日に違いない。

    持ってくるのを忘れたり、会場に着いてから"これがないと困る"と思ったら、ハリウッド・ボウルの売店で購入可能。ライトセーバーが 10ドル(1000円相当)はお買い得。(ハリウッド・ボウルのギフトショップにて)

    おわりに

    このような、大変興味深く、素晴らしいコンサートであった。ハリウッド・ボウルはハリウッドのチャイニーズ・シアター付近から徒歩でも10分程で行く事ができ、6月~9月のシーズン中にロサンゼルスを訪れる際には是非訪問して頂きたい場所の1つである。ここでのコンサートは、きっと良い思い出になる事だろう。

    ▶ハリウッドボウル公式サイトはこちら

    WRITER PROFILE

    鍋潤太郎

    鍋潤太郎

    ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。