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非球面レンズを搭載したポータブルな筐体のカメラが、回転しながら8K32MPの360°静止画パノラマを撮影するというユニークな360°VRカメラ「Trisio lite 2」が登場した。
主な用途には不動産の物件、自動車の内覧、美術館、店舗等のバーチャルツアー制作を目的としたビジネスユースが想定されている。中国製の新製品のカメラであるが、メーカーが日本市場で販売するための技適等の認証を取得したということなので、早速この機会に詳細なレポートをお届けしたいと思う。
概要
Trisio lite 2は、パノラマのフィールドにフォーカスした製品を開発しているNanjing Hznovi Electronic Technologyという中国企業が製造している。本社は南京にあり、深圳に中国南部と海外市場を担当する支社がある。2014年に設立され社員は91人、内51人がR&D(研究開発)部門のメンバーだ。中国国内向けには、さまざまなモデルを用意しているようだが、海外向けには今のところlite2のみの販売となっている。
現在、コンシューマー向けで360°の静止画撮影が可能なカメラは、2個以上の複数のカメラ(レンズ)を内蔵して、ワンショットで全周を撮影するものが主流である。そのような撮影スタイルは手軽で良いのだが、本来、高品質な静止画の360°パノラマを制作する場合は、DSLRに魚眼レンズを装着して、パノラマ雲台を用いて水平方向と天頂、底面を分割して撮影。そのようにして得られた画像を、ステッチングソフトウェアの「PTGui」などで合成して仕上げていた。実際に今もそのようなスタイルで撮影しているプロのクリエイターたちも少なくない。Trisio lite 2は、この後者の原理を取り入れて、カメラを小型化し、専用のローテーターを付属するなど、ワークフローをシンプル化しして設計された新しい360°カメラとなっている。
Trisio lite 2のスペックは、以下の通りだ。
■仕様
- 絞り:F2.3
- 画角:185°
- イメージセンサーのサイズ:1/2.3
- 静止画の解像度:8,000×4,000 JPGのみ
- ISO:Auto
- 接続方法:Wi-Fi
- 内部メモリ:8GB(約7.1GBのユーザー空き容量)
- バッテリー容量:2480mAh
- サイズ:147mm×51mm×23mm
- 重量:150g
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Trisio lite 2のユニークな特徴
Trisio lite 2は、歪みの少ないF2.3の非球面レンズとソニー製のイメージセンサーを搭載し、8K32MPの高解像度の360°の静止画を撮影することが可能だ。具体的には付属のローテーターを取り付けて、「nodeRotate360°オート回転」と呼ばれる技術で、遠点と近点において視差が発生しないノーダルポイント(レンズの交点)上で、水平に回転しながら空間を分割撮影、画像を純正のアプリでステッチして合成、VRの標準フォーマットであるエクイレクタングラー(正距円筒図法)に変換する。
本体あるいはアプリ上のシャッターボタンを押すと、最初に周囲の環境(露出・ホワイトバランス)を分析するために、左に270°ほど連続回転して計測を開始。その後、右方向に90°ずつ回転しながら4回に渡って360°の撮影をおこなう。専用のアプリはAndroidとiOSに対応しており、20メートルの範囲でTrisio Lite 2をリモートコントロールしてパノラマ撮影をおこなう。撮影者は、カメラの動きに沿ってその背後にいるように移動していくと、写り込みを防ぐことができる。撮影後にデータをスマートフォンに転送すると、アプリによってステッチ処理がなされる。ステッチ後のパノラマ画像は、アプリで360°表示の閲覧ができる。
Trisio lite 2の「anySceneオート適応合成システム」と呼ばれる画像処理技術では、さまざまなシーンにおいてハイライトとシャドウのデティールを再現するHDR的な処理が施される。
また360°撮影では、水平を維持して撮影することが重要であるが、Trisio lite 2では斜めに傾いて撮影された場合でも、アプリの「leveling」機能で、後から水平に補正することが可能になっている。
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バッテリーやストレージについて
Trisio lite 2はTHETA Xの1350mAhやInsta360 ONE X2の1630mAhバッテリーを上まわる大容量の2480mAhのバッテリーを採用しており、駆動時間(満充電時、気温25度の環境で3時間以上)が長く保たれるように設計されている。バッテリーの充電状態については、カメラから起動時に音声でアナウンスされる。写真を保存するためのストレージは、8GBのメモリーが内蔵(実質約7.1GBのユーザー空き容量)されているので、約358枚程度のパノラマ写真が撮影できる計算だ。
筐体の重さは150gと、Insta360 ONE X2と同程度で非常に小型軽量となっている。レンズキャップ等の用意はないが、専用のキャリングケースが付属され、レンズとカメラ本体を保護する。
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PCツールを用いての拡張的な利用法
Trisio lite 2は、モバイルデバイスの専用アプリ以外に、WindowsとmacOS向けにPC用のツールが用意されている。Trisio lite 2で撮影されたJPGファイルは、一回の360°の撮影時に記録される4つのファイルが特殊な保存形式でパッケージ化されているのだが、PC用ツールを用いることで、このパッケージ化されたファイルを1つずつ抽出することができ、また改めてステッチすることもできる。
このツールを用いるメリットとしては、抽出したファイルをPTGuiといったプロ向けのサードパーティーのステッチソフトを用いて、マニュアルによる精細なステッチ作業をおこない高品質な成果物を得ることができるという点にある。
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競合機種との比較
Trisio lite 2はワンショットタイプではないので、最初の周囲の環境の計測に10秒程度、計4回の撮影に約26秒、スマホへの転送に17秒ほど時間が掛かる。「anySceneオート適応合成システム」がHDR的な処理を施していることを鑑みても、例えばQooCam 8K Enterpriseの「SuperHDR」の処理時間が20秒程度なので、それに比べれば、多少、所要時間を要することは否めない。
ただし、撮影後の画像を競合機種と比較してみると、クオリティーにおいては秀でたものを確認した。
今回はTrisio lite 2の他に、THETA X、THETA Z1、Insta360 ONE X2、Insta360 ONE RS、QooCam 8K Enterpriseで撮影、計6機種を比較してみた。撮影モードは、Trisio lite 2の「anySceneオート適応合成システム」以外はすべてHDR撮影のJPGである。価格や解像度の違いは抜きにしても、Trisio lite 2の解像感は良好で、色味はクセのないクリーンな発色だ。何より、天頂付近などレンズの周辺は別として、色収差が抑制さていることに驚いた。
Trisio lite 2の注意点としては、分割撮影の際の時間差があるので、被写体が動く環境では、ゴーストの発生となるから基本的には使用は向かない。無人の室内空間等の撮影をお勧めする。また、比較した他機種には、DNGで撮影してRAW現像処理を施したり、専用ソフトにステッチのモードの選択肢があるなど、別の意味でのアドバンテージを持っている場合があることもご承知おきいただきたい。
作例比較1-色収差等
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作例比較2-狭い空間での撮影
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まとめ
Trisio lite 2は、コンシューマー向けのTHETAやInsta 360のシリーズのようなワンショットで360°撮影をおこなう仕様と違い、分割して撮影するというプロセスが必要であるが、画質面においては、全周に渡ってレンズのスイートスポットを利用できるし、ステッチ面では、水平部分に余裕を持ったオーバーラップがあるのと、視差のないノーダルポイントで回転して撮影していることと併せて有利である。さらにはPTGuiのような高度なステッチソフトを用いれば、よりステッチエラーのない細かいステッチ処理をおこなうことができるというメリットがある。動画の撮影機能はないが、静止画に専念して360°撮影を業務で導入したい方や、DSLRを用いるほどではないが、丁寧にバーチャルツアーを制作したいという方には、その入門機として、取り組みやすいモデルだと思う。
もちろん、モバイルアプリによる自動的なステッチ処理も備わっているので、手軽に360°撮影を楽しむこともできる。
WRITER PROFILE
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