Vol.10 Cutters Studios Tokyo 佐々木幸氏インタビュー。信頼度の高い安定性と使いやすさでワークフローも柔軟に[On Avid]

ポストプロダクションに留まらず、プロダクション、オリジナルコンテンツ制作など幅広い業務を行なっているCutters Studios Tokyo。同社でエディターおよびディレクターとしてミュージッククリップ、ショートフィルム、ウェブCMなどを手がける佐々木幸氏に、業務で使用しているAvid Media Composerの使い勝手や気に入っている機能などについて伺った。

――佐々木さんのエディターになるまでの経緯を教えてください

佐々木氏:

中学生の頃から映像の仕事がしたいと漠然と考えていました。高校生の時に学園祭で放映する映画の編集をした際に、寝る間を惜しんで作業をしました。その時に「それぐらい楽しいということは私は編集が好きなんだ」と感じました。
その後アメリカの大学に進学して映像学科に入りました。卒業後にCutters Studios Tokyoに入社し、4年間のアシスタント時代を経て、エディターになりました。
1枚の画を作り上げる作業と、作品の流れを構築していく作業は映像の中でも全く違うスキルが必要ですし、全く違う分野だと思っています。私は全体を構築していく、パズルを完成させていくような作業が向いているなと思っています。
また、2021年からディレクションも行っているのですが、企画の段階で編集のことを考えることもあります。その場合は編集も自分で行いますが、エディターとしての他の監督との仕事も楽しいですし、どちらも楽しんでいます。

佐々木幸氏の主な作品

  • RADWIMPS「カナタハルカ」ミュージックビデオ
    映画「すずめの戸締まり」主題歌
  • 竹内まりや「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」ミュージックビデオ
  • Nike「NIKE塾 Ft. WOO!GO! by 新しい学校のリーダーズ 」
  • 大塚製薬 オロナミンC 「湧きあがるものを信じる。夏」篇
  • 三井住友銀行「ともに、前へ」
  • Pantene #PrideHair この髪が私です。「ふたりの元就活生が、いま、伝えたいこと。」
  • 資生堂 アルティミューン「Power Is You」
  • Porsche Japan「#Unstoppable」「Dreamers. On.」シリーズ(※監督・編集)

――Media Composerにはいつ頃出会ったのでしょうか

佐々木氏:

大学ではテレビプロダクションと映画プロダクションで学科が分かれていました。映画は必ずMedia Composerを使うことになっていたのですが、私はその時にはテレビプロダクションを選択しました。そこではMedia Composer以外のソフトがメインだったのですが、いずれ必ずMedia Composerを仕事で使うだろうと思っていたので、映画学科のテキストとMedia Composerのソフトを自分で購入して勉強したのが最初ですね。
Cutters Studios Tokyo入社後、会社で本格的にMedia Composerを覚えました。ちなみに学生の頃に買ったMedia Composerは今も当時の環境のまま自宅にありまして、時々使うこともあります。

――Media Composerを使っていて良いと思うのはどんなところでしょうか

とても「きっちり」している

佐々木氏:

自分に正しい知識があって正しく使っていれば、その力を発揮できるソフトだと思っています。私にとっては楽器のようなイメージで、上手く弾けないのは楽器が悪いのではなく、自分がちゃんと理解できていないからだ、と思えるソフトです。
編集を始めた頃は「感覚的にやりたい」「あまりよく分かってないけど、とにかく繋ぎたい」という感じになりがちですが、入社してアシスタントになった最初に、先輩達から映像の基礎知識やコーデック、変換などについて学びました。「感覚的にやることも必要だが、基礎の部分をしっかり理解できていないとプロとは言えないんだよ」とクリエイティブな話とともに技術的な話を沢山聞きました。
そういったことが理解できていれば、Media Composerはとても使いやすいですし、安定しています。そういう意味ではアシスタント時代は筋トレのようなもので、アシスタント時代があったから今できていることは多いですね。

チームでの作業がしやすい

佐々木氏:

弊社ではメインのエディターとアシスタントがチームで作業をしています。Avid NEXISに保存している同じプロジェクトにそれぞれが別端末でアクセスします。
アシスタントの作業としては、まずは素材の整理ですね。画音を合わせる、シーン順に並べるなどエディターがすぐ作業を始められるように準備をします。素材のやりとりは、専用のビンを作っておいて、そのビンに渡す素材を入れたら閉じる、を繰り返しています。
また、編集作業中にクライアントから「他にこういうイメージに合うカットはあるかな」といったリクエストがあった場合に、アシスタントも素材のチョイスをエディターと一緒に行ったりもします。
作業の手伝いだけでなく、そういったクリエイティブなことを行うのもアシスタントとして参加する意義の1つだと考えています。私も当時そうやって鍛えられました。
また、ビンを使って様々なコミュニケーションもとっています。例えば、同じような音楽のファイルが複数ある場合に、それぞれいつ追加したファイルなのかといった情報をカスタムコラムに入れておくことで、毎回聞かなくても見ればわかるようにしています。他にもクリップカラーやマーカーなど、何をどのように使うかをチームですり合わせて作業を進めると、作業中のコミュニケーションが非常に効率化されます。

非常に信頼度の高い安定性

佐々木氏:

システムが落ちることはまずありません。これはMedia Composerの一番の強みだと思います。もちろん、ユーザー側がプロジェクトに紐づいているフォーマットを踏まえて素材のコーデックやフレームレートの確認などの準備をして「正しく使う」ことが前提となります。そのような準備ができていれば、「知らないうちに知らないことが起こってしまっている」ことはありません。もし意図していない状態になればユーザーにそれを伝えてくれます。Media Composerと私の間でコミュニケーションが取れている感じがしています。
自由度を優先するソフトもありますが、それによって安定しなくなってしまうのでは意味がありません。一番集中したい作業中に「落ちた」「よくわからないけど再生しなくなった」みたいな事態の復旧に時間を使わなくて良いというのは本当に大事だと思っています。

ビン単位でファイルになっている

佐々木氏:

Media Composerはビンの単位でファイルになっているので、リモート作業だった時はビンを1つ作って必要なファイルを入れてそれをメールで送り、メディアは双方で同じものを共有するという仕組みを使っていました。プロジェクト全体をコピーする必要がないのが良いですね。また、バックアップをとる時も急いでいる時はプロジェクト全体ではなく必要なビンのみバックアップコピーするということもよくやります。

キーボードでのトリミング

佐々木氏:

トップ、テイル、Extend(スプリット編集)は非常によく使います。もう無意識で動かしているような感覚で手に馴染んでいます(笑)。レスポンスも申し分ありません。

バージョン間での互換性

佐々木氏:

関係各所の全てが常に最新バージョンにしているわけではありません。外部で作業をする、機材を借りる、自宅で作業をする、それぞれで様々なバージョンが混在します。Media Composerではプラグインや新機能を除けば、バージョンに関係なくプロジェクトを開くことができます。どのような環境でも問題なく作業を続けられるのが素晴らしいです。

Pro Toolsに渡せる情報量の多さ

佐々木氏:

私がディレクションをする作品の場合、Media Composerでクリップのマーカーに「ここの音を上げて」など必要なコメントを入れてMAのスタッフにAAFを渡しています。そういった情報が先方に伝わるのが非常に便利です。
また、私がMedia Composerで編集をしている段階である程度サウンドデザインも行っているのですが、なぜこの音をいれているか、どうしてこの音量なのか、どうしてこのエフェクトなのか、編集のタイミングに関わる音、SEなどの編集位置など、そういったタイムラインで行った作業の情報がこちらの意図としてちゃんと伝わっているという安心感があります。
こういった情報がないと考えが伝わらず、戻ってきたものを見てまた伝えなければならないということになりがちなので、そういったことがなくなるのはありがたいです。

――佐々木さんが編集する際に心がけていることはあるでしょうか

佐々木氏:

まずは素材をしっかり把握することですね。時間がない案件でも、できるだけ全て見て覚えて編集にのぞみます。
もう1つは、アメリカにいた時にお世話になったディレクターに「良いエディターは整理整頓ができる人だ」と言われまして、それから整理整頓を心がけています。これは素材管理だけでなく、シークエンスで編集する際も同じで、急いでいるとシークエンスが汚くなってしまいがちです。でもそうならないようになるべく「綺麗に」編集することで、ケアレスミスも減ります。もちろん素材管理も大切で、整理されていることで作業全体が早くなります。作業前の素材の整理にはしっかりと時間をかけています。
また、編集中では「細かいところを無視しない」ということでしょうか。編集は1フレ、2フレの違いを積み上げていく作業なのでそれを大切にしています。そしてそのカット点については人物やカメラの動き、フォーカスなどと同時に「感情の流れが分かるように」ということを意識しています。

――ご自身でディレクションもするようになって変化はあったでしょうか

佐々木氏:

私がディレクションするようになると、編集以外も含めたもっと広い視点で作品を見るようになるので、編集作業ですべきこと、しなくても大丈夫なことといった判断もできるようになりました。それがエディターとして作業する時にも活かせるので、編集とディレクションには相互作用があるなと感じています。
ただ、私が良いと思っていなかったものが実は良かったのだと気づくような、別の目線を取り入れるというのがエディターの存在意義だと思うので、1人で全部やるのはもったいない場合もあると思います。それぞれの良いところを上手く使い分けたいですね。

――Avid製品にリクエストなどあれば教えて下さい

佐々木氏:

これまでに築いてきた、編集に対する設計思想というか姿勢のようなものを崩さず、ハイエンドなブランドであり続けてほしいなと思っています。私はMedia Composerを「自分の役割が分かっている人が上手く使える道具」だと考えています。そのようなソフトであり続けて欲しいと思います。
また、弊社はフレックス制やリモートにも柔軟に対応しているので、Avid | Edit On DemandやAvid NEXIS | EDGEのようなリモートのソリューションには興味があります。現在は素材を持って帰って自宅で作業をしていますが、素材の移動が必要なくなると会社に来る手間も省けます。ワークスタイルがより柔軟になるのではと思います。

佐々木幸氏インタビュー動画

WRITER PROFILE

小池拓

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。