数多くのアニメ作品を手がける株式会社トムス・フォト。同社で映像編集を行っているエディターの佐野由里子氏、小須田一樹氏に、作業で使用しているAvid Media Composer、Avid NEXISの使い勝手などについて伺った。
――トムス・フォトについて教えてください
佐野氏:
弊社は制作総合ポストプロダクションとして、アニメをメインに様々な作品を手がけています。社内には、コンポジットなどアニメーション撮影を行うT.D.F.、デジタルペイントなどアニメーション仕上げを行うT.D.I.、映像編集を行うT.D.B.の3部門があり、我々2名はT.D.B.に所属しています。
■佐野氏担当作品
- 範馬刃牙
- 劇場版「それいけ!アンパンマン」
■小須田氏担当作品
- 劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」
- ルパン三世(TVシリーズ PartIV〜VI)
――Avid製品はいつ頃導入されたのでしょうか
佐野氏:
T.D.B.が立ち上がったのが2000年なのですが、当時はDSを使っていました。その後社屋の引っ越しがあり、DSも開発が止まるということで、2013年にMedia Composerに変更しました。現在Media Composerを3式運用しています。
――アニメ編集の流れを教えてください
小須田氏:
オフラインでは絵コンテどおりに撮影から上がってきた素材を繋ぎます。音はありません。この段階ではまだ色が塗られていないことも多いです。シーンのセリフや動きのタイミングなどを考えながら編集をして、完尺にしていきます。
その後、声優さんによるアフレコや音楽なども入れたダビング(MA)を終えた音に合わせて映像を仕上げていく作業がV編(映画・ドラマではオンライン編集)になります。V編の段階では細かなカットの描き直しによる差し替えや、エフェクトなどの仕上げを行います。その後、指定された形式での納品となります。
ですので、オフラインからオンラインまでの全てをMedia Composerで行っています。
――編集作業でよく使うMedia Composerの機能などを教えてください
クリップカラーをタイムラインで反映させる
小須田氏:
自分の場合は作品毎のプロジェクトを作り、そこにシリーズものであれば話数毎にフォルダを作り、その中に複数のビンを作っています。ビンは撮影から上がってくるロール毎(その日に仕上がった素材)に分けています。あとはバンク素材のみが入っているビンも用意します。
クリップ管理という意味では、ビンのクリップのクリップカラーを出来上がってくるテイク毎に分けて、それをタイムラインに編集した際にタイムラインのクリップで反映させる設定にしています。そうすることで、タイムラインで現在編集されているテイクがすぐに分かるようになります。
また、バンク素材についても、例えばキャラクターが5人いる場合はそれぞれに決まった色を指定しておけば、バンクのどのキャラクターのカットが使われているかもタイムラインですぐに確認ができます。
エフェクトを別トラックのギャップに追加する
小須田氏:
声優の台詞は基本的に撮り直しがきかず、編集で口の動きの部分だけ差し替えが発生することが多いので、最初のテイクはV1に編集して、その後の修正されたテイクをV2、V3に乗せていきます。監督、演出の方から「前のテイクが見たい」というリクエストがあるので、すぐに表示を切り替えられます。それぞれのテイクを別シークエンスに分けるより効率的です。
また、V編作業でエフェクトをよく使いますが、編集されているクリップではなくその上のトラックのギャップに追加しています。エフェクトの表示、非表示が簡単に切り替えられますし、V1のカットを差し替えれば同じエフェクトがかかった状態をすぐに再現できます。
佐野氏:
私もよくやる方法ですね。それと合わせて、重なっているトラックの、任意のトラックの非表示やそのトラックだけを表示するのが簡単なのも良いです。
エフェクトの効果を確認するためのシークエンスを用意する
小須田氏:
長いシリーズ物になると、毎回使うようなお約束のエフェクトというものが出てきます。それらのエフェクトを、V1にクリップが編集されているタイムラインのV2のギャップに追加してあるシークエンスを作っています。これにより、そのタイムラインを見れば必要なエフェクトをビジュアルで確認して選ぶことができるので、そのシークエンスをソースモニターに呼び出して、必要な部分だけをその時に作業しているシークエンスに編集するということをしています。
佐野氏:
ビンにエフェクトを保存することはもちろんできますが、アイコンを変えることができないので、視覚的に確認できる良い方法ですね。
――Media Composerの安定性についてはいかがでしょうか
小須田氏:
30分の作品で大体300~350カットぐらいになります。また、劇場作品の場合は1500~1800カットぐらいになるのですが、作品の尺やカット数が増えてもレスポンスにはあまり違いはありませんし、再生が不安定になるようなこともありません。
また、プロジェクトを起動する際にかかる時間についても、長編やテレビのシリーズものが全てはいっているような重いものですと、他社のソフトだととても時間がかかってしまう場合があるのですが、Media Composerではあまり変わりません。
Avid NEXIS上での並列作業で効率アップ
――Avid NEXISはいつ頃導入されたのでしょうか
佐野氏:
Avid NEXIS | E4を2019年に導入しました。容量は120TBで、4Kにも対応できるパフォーマンスになっています。
――Avid NEXISを導入されて作業効率は上がりましたでしょうか
小須田氏:
どの端末でも自由に作業ができるのがいいですね。
佐野氏:
それまでは、何らかの事情で端末を移動しなければならない場合は、それぞれの端末に付いているローカルのHDDを他の端末に繋ぎ直して作業を続行する、といったこともありました。それと比較すると利便性はかなり上がりました。
また、撮影から上がってきた素材をAvid NEXISにコピーしたり、それらの素材をインポートする作業を別端末で行うことで、編集作業を止めなくてよいのは非常に効率的です。
――近年はNetflixなど配信ベースも多いのでしょうか
佐野氏:
近年増えてますね。配信コンテンツも多いですし、配信先行でその後テレビ放送という流れもあります。ですので、Media Composerでは、配信用プロジェクトを完成させてから、テレビ用を作る場合もあります。
また、現在はNetflixに納品するIMFパッケージを他社ソフトを使って出力していますが、Media Composerから出力されるIMFパッケージも認定されると手間が省けて良いなと思います。
――Media Composerに今後求める機能などあれば教えて下さい
佐野氏:
インターフェース上で、ビンやエフェクトパレットなどはフォントサイズを自由に変更できますが、その他の部分がモニターの解像度が高いととても小さくなってしまい、見辛い場合があります。そのあたりも自由度高く変更できると良いなと思います。
また、以前のDSにあったような、タイムラインのクリップに追加した個々のエフェクトが、クリップの上に積み上がって表示されるような仕組みがあると便利だなと思います。今はステップインしないと見えないので、なんらかのインターフェースの切り替えなどがあると良いかなと思います。
小須田氏:
エフェクトを編集している際、パラメータを表示させたまま前後のカットも含めプレビューできると良いなと思います。ソースレコードモードに戻るとエフェクトのパラメータ表示は消えてしまうので、作業しているクリップの少し前の任意の場所からプレビューして、またエフェクトモードに戻るのが少々面倒な場合があります。
――エディターとして普段から気をつけていることはあるでしょうか
小須田氏:
編集作業中に監督、演出などの人たちが自分から少し離れたソファーに座って話していることが多いですが、その会話をよく聞いて、私に直接言われてなくても彼らが話しているシーンの画を見せるなどの気遣いが大切だと考えています。
佐野氏:
エフェクトのレンダリングなど、画が止まっている時には何か会話をして「今何を待っているのか」という疑問を持たせないように心がけています。このような編集の現場でのコミュニケーション能力がとても大切ですね。
トムス・フォト インタビュー動画
※旧株式会社トムス・フォトは、2024年4月1日「株式会社トゥーンアディショナルピクチャーズ」に社名変更