OnAvid Vol.14

俳優の賀来賢人さんが企画し、日本のみならず、海外でも大変な注目を浴びているNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」。その編集を担当した編集技師の洲﨑千恵子氏、堀善介氏、編集助手の初鹿紗梨氏に、クラウドを使用した制作のワークフローと、編集で採用したAvid Media Composerの使い勝手などを伺った。

    忍びの家 House of Ninjas
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Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中
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左:初鹿紗梨氏、中央:洲﨑千恵子氏、右:堀善介氏

また、Netflixの編集スタジオを管理、運営しているオムニバスジャパンの山﨑和広氏、柿崎博孝氏には同作品でのサポート体制について伺った。

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左:山﨑和広氏、右:柿崎博孝氏

クラウドベースの編集ワークフロー

――みなさんのお名前とこれまでのキャリアを簡単に教えてください。

洲﨑氏:

編集の洲﨑と申します。キャリアは、助手を含めると30年ほどになります。

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洲﨑 千恵子(すざき ちえこ)氏

2020年、第43回日本アカデミー賞にて、「閉鎖病棟-それぞれの朝-」で優秀編集賞を受賞。助手を含めたエディター歴は約30年。
これまでにNetflix作品では「御手洗家、炎上する」などを手掛ける。
「忍びの家 House of Ninjas」では第1話、3話、5話、8話を担当。

堀氏:

編集の堀と申します。私は、助手から含めると25年ぐらいになります。

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堀 善介(ほり ぜんすけ)氏

近年では2024年1月公開「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」の編集を担当。助手を含めたエディター歴は約25年。
これまでにNetflix作品では「全裸監督(シーズン1/シーズン2)」などを手掛ける。
「忍びの家 House of Ninjas」では第2話、4話、6話、7話を担当。

初鹿氏:

助手の初鹿と申します。堀さんに助手としてついたのが始まりで、そこから10年ほど一緒にお仕事をさせていただいています。

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初鹿 紗梨(はつしか さり)氏

近年では2023年2月公開の映画「デブリーズ」の編集を担当。アシスタント歴は約10年。
「忍びの家 House of Ninjas」では洲﨑氏、堀氏をサポート。

――「忍びの家 House of Ninjas」はどういった物語でしょうか。

堀氏:

忍びという題材ですが、実のところは家族の話ですね。バラバラだった家族が一つにまとまっていく、という話です。

撮影期間は2022年9月から翌年2月のおよそ6カ月間。
撮影で主に使用したのはARRI ALEXA MINI LF、ARRI ALEXA LF、その他にもDJI Ronin4D Zenmuse X9、同社製のドローンなどを使用して撮影された。


――編集のワークフローについて伺います。まず素材の準備はどのような流れだったのでしょうか。

初鹿氏:

撮影初日から、その日の分の素材をオムニバスジャパンさんがオフラインメディアに変換して、クラウドにアップしてくれました。そのファイルをプロジェクトに読み込み、担当の編集技師やエピソード毎に分けて整理をしていきました。
基本的には、撮影がある日には作業をして、いつでも技師さんが来て編集できるように準備はしていました。

洲﨑氏:

洲﨑フォルダー、堀フォルダーがあって、それぞれの中に担当話のフォルダーを作ってくれていましたね。

――編集技師お二人の分担はどのようにされたのでしょうか。

堀氏:

洲﨑さんが1、3、5、8話、残りを私が担当しました。今回、監督がデイブ・ボイル氏の他に2名いたので、撮影スケジュールを考慮して、編集を複数エピソードで同時進行させるための割り振りですね。撮影は1話からの順撮りではなく、全話にまたがってバラバラに行われました。

洲﨑氏:

1話のシーンの撮影も、ロケの最後の方でしたね。

――監督が3名ということで苦労されることもあったのでしょうか。

洲﨑氏:

特に問題はなかったですね。今回の3名の監督はお互いに作品に対してすごく意思疎通されていたので、現場でも3人の監督が入って、別の組の時でも監督さんが揃っている場合もあり、非常に統一感がありました。

堀氏:

複数の監督がいる場合、それぞれが自分の色を出そうとすることもあるのですが、今回はおそらくデイブがやりたいことをみんなで叶えていこうという統一感があったと思います。

――撮影中も編集は行われていたのでしょうか。

初鹿氏:

撮休の際に監督に編集室に来てもらう形で行いました。

堀氏:

最初に入ったのは私が担当している4話で、アクションを3日間まとめて撮影した日があって、そこが繋がったものが早く見たいということで、早々に私が繋げて見てもらいました。撮影が始まってまだ1カ月も経っていない頃ですね。

洲﨑氏:

この段階はラフスケッチみたいなものなので、それで全てが決まってしまうわけではありません。ラフにつないでおいて、いつでも監督が見られるように準備しておく、という感じですね。全部揃ってからまた編集し直すことは大前提です。

堀氏:

6、7話が先にクランクアップしたので、本来の編集はそこから始まりました。その後、全話の編集を一応終えた段階で全8話を通しで見て、さらに様々な箇所の微調整を行いました。

洲﨑氏:

撮影期間中から監督を交えての編集をしていたので、クランクアップした時には半分ぐらいはイメージの統一ができていましたね。編集自体は4カ月程行いましたが、当初はもっとかかる予定でした。

堀氏:

編集技師が2人いて、監督も3人いたというのが大きいと思います。監督が1人で編集部も1人だったらもっと時間がかかったと思います。

――クラウドでの編集作業はいかがでしたか。

洲﨑氏:

第1話を編集して次が第3話となると、間の第2話がどんな風になるのかなと思い、自分が担当しない話の雰囲気とかトーンとかを知りたかったので、堀さんが組んでいるラッシュも見られたらいいなと考えた時に、今回のクラウドサーバーがものすごく良かったです。
このシステムでなければ2人は全く別の部屋で別々のデータでの作業になるので、他の技師さんの部屋にお邪魔するのを遠慮してしまうんですけど、堀さんにご了承いただいて同じプロジェクトに全てのデータを入れてもらいました。

堀氏:

僕は自分の担当分だけの素材を見ることが多いのですが、洲﨑さんのすごいところは、自分の担当分以外も全部見ていましたね。

洲﨑氏:

堀さんとは今回初めてお会いして、しかも1つのシリーズを二人のエディターで作業するという、めったにない進め方だったのですが、堀さんはとても気さくな方で、お話がしやすかったです。

堀氏:

僕も話しやすかったです。

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インタビュー中も終始和気藹々な洲﨑氏、堀氏、初鹿氏

洲﨑氏:

私が1話を編集している時に、隣で4話を編集している、といったことも多く、作品のトーンやお互いのエピソードについての感想や、あがってくるラッシュについて「ここはどう思った」などの話ができたのは、やはり同じプロジェクトで作業できたということが、気持ち的にも距離が近かったのだと思います。
また、回想シーンなどでは他のエピソードから持ってくることもあるので、そのシーンをそのシークエンスで直接確認することもできました。

堀氏:

とても新鮮な体験でしたね。

洲﨑氏:

また、普段日本映画の制作の現場ですと、編集部に与えられるPCは1台なので、それを助手と技師が交代で時間を分けて、1台のPCでやらざるを得ないのですが、今回は全員個別の部屋が使えたので、全員が同時に稼働できました。これが最高に幸せでした。
編集技師それぞれに助手さんがいて、4人が同時に作業できていたので、一緒に食事にいくこともありました。

堀氏:

あの日々は楽しかったなぁ笑。

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洲﨑氏が着ていた、デイブ監督からプレゼントされたスタッフパーカー

初鹿氏:

準備の段階では、メディアのコピーの時間がなかったのがよかったですね。また、当然ですが、ハードディスクがいっぱいなりそうだからちょっといろいろ消してとか、そういうドキドキ感もなく、容量の心配とかもせずにできましたし、同じ階で編集技師さんたちが作業されていたので、素材に対してわからないことがあれば直接すぐ伺いに行けました。

今回技師さん同士が仲が良かったので編集部としてもすごく良い雰囲気でやらせていただけました。多分部屋がそれぞれあって、それぞれの作業ができつつ同じ空間にいるので、コミュニケーションが取りやすかったのだと思います。

そして、1人1台PCを用意していただいているっていうのはすごく大きくて、なおかつ同時にプロジェクトにアクセスできるっていうのが本当に作業効率が良かったです。

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洲﨑氏:

音楽のデータを監督が持ってきて、編集中にこれを乗せたいんだけど、とおっしゃっることがありました。編集してる部屋に監督がいて、編集者がいる状況で、助手さんが助手さんのお部屋に行って、その音楽をインポートして、タイムラインに乗せてくれて、戻ってきて、今乗せましたって言うと、そこですぐ確認できたりとか、そういうことも多かったですね。

――リモートでの作業についてはいかがでしょうか。

堀氏:

リモートで作業できたことが一番効率化に繋がりましたね。

洲﨑氏:

セキュリティが守られた状態でオフィシャルに自宅リモートできました。

堀氏:

これはなかなかないですよね。音響とかは編集室の環境の方が間違いなく良いのですが、家で、ふと思いついた時にすぐに編集できるのが良かったです。料理が好きなので、料理を作りながら「あのシーンはああすればいいな」と思った時にその場で編集できました。

――リモートでの作業はどのくらいの割合だったでしょうか。

洲﨑氏:

結構多かった気がしますね。4割ぐらいでしょうか。

堀氏:

自分もそれぐらいですね。全く操作性も変わらなくて、ネット環境さえ整っていれば全く問題なく作業できました。

初鹿氏:

私は子供がいることもあり、働ける時間が短い中で勤めさせていただいていて、以前は帰らなければならないが帰れない、みたいな状況が結構あったのですが、今回は自宅でもできるので「帰ってから夜やります」とか、子供が熱を出してしまって編集室に行けない時は「家で作業させてください」と言うことができたので、個人的にはすごく助けられたと思います。

堀氏:

とても贅沢な環境でした。他の仕事でもこうなるといいなと、つい欲が出てしまいますよね。

――今回Media Composerを選ばれたのはどのような理由でしょうか。

洲﨑氏:

やはり安定性ですね。一時期他のソフトも使いましたが、録音部とのデータのやりとりやコンフォームデータの信頼性などでトラブルがあったので、今はMedia Composerのみ使用しています。

――Media Composerの機能で気に入っているものはありますか。

洲﨑氏:

言語化が難しいのですが、編集している時にフイルム編集の延長でやれている、という感覚があります。また、オールラッシュが終わった後、録音部さんが作業を進めている状態で編集に変更点があった時に、ロケータにコメントを追加して、リストにして書き出したものを渡せたのがとても便利でした。

堀氏:

シークエンスの一部にイン、アウトを打って、その部分をコピーしたものをソース側に表示して、その一部分に改めてイン、アウトを打って別の場所に使う、という作業をよくします。とても便利ですね。

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初鹿氏:

Netflix作品では、バレチェックやピクセルエラーなどのQC(品質管理)の作業をメディアをもらう前に行っていただくというフローがあるのですが、Media Composerの場合その情報をALEファイルで受け取ってマージすることで、当該クリップのコメント欄にその情報が表示されます。これによってクリップの把握、管理がとてもしやすかったですね。

――Media Composerへの要望はありますか。

洲﨑氏:

英語圏の仕事が増えてきているので、英語字幕を載せる機会が多いですし、逆に英語のお芝居に日本語をセリフ分載せるということもあります。そういった場合にはSubCapエフェクトを使っているのですが、もう少しだけ機能が豊富で処理の軽いタイトルのツールがあると良いなと思います。

オムニバスジャパンのサポート体制

オムニバスジャパンの山﨑氏、柿崎氏に「忍びの家 House of Ninjas」でのサポート体制についてお話を伺った。

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柿崎 博孝(かきざき ひろたか)氏

オムニバスジャパンに入社後、番組、広告部門の営業職を経て、現在は、Netflix施設のコーディネートを担当。

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山﨑 和広(やまざき かずひろ)氏

オムニバスジャパンに入社後、CG部で技術を担当。現在はNetflixの施設において主にシステム的な技術サポートを担当。

柿崎氏:

当社(オムニバスジャパン)と、当社の親会社である東北新社、Netflixさんでパートナーシップを結ばせていただいて、当社の本社であるCREATORS HUB@Akasakaの施設内にて、Netflixさん独自のシステムでクラウド上で編集できる専用スタジオを2022年から運営しております。

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    テキスト
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――「忍びの家 House of Ninjas」での作業について

山崎氏:

コーディネートという点では、柿崎が施設のコーディネートや、各編集室のスケジュール管理をしておりました。 撮影した素材はまずこの施設に入れていただいて、施設内のデイリーズという場所でバレチェック、QCを行います。 バレた部分については、コメントを追加してALEファイルでデータ出し、映像素材と共にクラウド上にあるAvid NEXIS 共有ストレージサーバーに専用回線でアップロードして、編集部で編集していただきます。

編集中にうまくいかないことやトラブルが起きた場合には、我々の技術サポートチームがサポートを行いました。我々で解決できなかったものに関しては、さらに海外のサポートチームにエスカレーションして解決をしました。
海外とは時差がありますが、こちらが夜の間にアメリカのチームで調査してもらって、こちらの朝には解決している、という良い場面もありました。世界中どこからでもアクセスできるクラウドの利点の一つだと思います。
ちなみにMedia Composerに関しては、トラブルというほどのものはなく、安定して運用することができました。

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複数の監督、複数のエディターが、協力して1つのストーリーを形にするという、Netflixとしては新たな手法に臨んだ「忍びの家 House of Ninjas」。
様々な立場、環境のスタッフが、ストレスなくクリエイティブに没頭できる環境の一端を、Avid製品が担っていたことが垣間見えた。

「忍びの家 House of Ninjas」はNetflixにて好評配信中だ。
本作をまだ見ていない方は、是非視聴してほしい。

「忍びの家 House of Ninjas」ストーリー

伝説の忍者=服部半蔵の血を引く"忍びファミリー"=俵家。優秀な"忍び一家"だったが、最悪な事件により大事な家族の1人を失った一家は、"忍び"であることを捨て、一般庶民にまじり平穏な生活を送っていた……はずだった。事件以来バラバラになってしまった家族の心、そんな俵家を何としてでも"忍び"に復帰させたいBNM(=忍者管理局)だったが、国家を揺るがしかねない恐るべき事件が起きてしまう。さらに恐るべし陰謀が浮かび上がる。BNMの指示により半ば強引に巻き込まれていく俵家。そして、俵家に近づく謎の存在。果たして、俵家に待つ運命とは――

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」Netflixにて独占配信中

WRITER PROFILE

小池拓

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。