日本で初めて映像に関わる領域を包括的に教育・研究する学部として2007年に設立された立命館大学の映像学部。2024年4月に大阪いばらきキャンパスに移転し、設備、機材などが刷新された。
最新の環境で新たにスタートした同学映像学部について、そして映像、音響編集のメインシステムとして導入されているMedia Composer、Pro Tools、Avid NEXISなどのAvidソリューションの使い勝手について、立命館大学映像学部の松陰信彦教授、山本浩史准教授にお話を伺った。
松陰 信彦(まつかげ のぶひこ)氏プロフィール
立命館大学映像学部 教授
1961年、大阪生まれ
日本映画・テレビ録音協会会員
1981年、フリーの録音助手として東映京都テレビプロダクションで『銭形平次』(主演大川橋蔵)、『桃太郎侍』(主演高橋英樹)などTV時代劇を中心に従事した後、映画『夢千代日記』『吉原炎上』『華の乱』など助手で参加し、1991年『真夏の少年』で映画録音技師デビュー。以後、映画・TVドラマ等で活動する。
主な作品歴
『魔界転生』、『男たちの大和/YAMATO』、『憑神』、『利休にたずねよ』、『海難 1890』、『エリカ 38』(整音担当)、『名も無い日』(整音担当)など、日本アカデミー賞最優秀録音賞、優秀録音賞をそれぞれ二度受賞。
山本 浩史(やまもと ひろし)氏プロフィール
立命館大学映像学部 准教授
1962年 高知県高知市出身
協同組合 日本映画テレビ編集協会 理事
一般社団法人 日本映画テレビ技術協会会員 京都支部幹事
東映京都撮影所にて平成元年より編集助手として映画『226』『わが心の銀河鉄道』『長崎ぶらぶら節』やTV12時間ドラマ『宮本武蔵』『暴れん坊将軍』などに携わる。
主な作品歴
教育映画『君に心のパス』(1993)編集者デビュー、『ドラマスペシャル 吉原炎上』(2007)、ドラマ『天才脚本家 梶原金八』(2014)、『チャンバラが消えた日』(2015)、映画『信虎』(2021)など
立命館大学映像学部の概要と設備
ー立命館大学映像学部について教えてください
山本氏:
立命館大学映像学部は、日本で初めて映像に関わる領域を包括的に教育・研究する学部として2007年に設立されました。今年4月に大阪いばらきキャンパスに移転し、関西の映像コミュニティを牽引しながら、そのネットワークをアジアへ、世界へとグローバルに拡張していくことを試みています。 映像学部は、映像を用いた社会課題の解決と文化的価値を創造し、アート、ビジネス、テクノロジーの3つの側面から映像を総合的にプロデュースする力の養成を目指します。このコンセプトを基礎に、「映画芸術」「ゲーム・エンターテインメント」「クリエイティブ・テクノロジー」「映像マネジメント」「社会映像」の5つの学びのゾーンを大枠の学習指針として設けており、「理論」と「実践」の往還的な学修をおこない、映像を用いた社会課題の解決とその基盤となる多様な価値創造を追求していく「プロデューサー・マインド」を育成するためのカリキュラムを編成・実施しています。
ー現在学部生はどれくらいいるのでしょうか
山本氏:
2023年度までは1学年あたりの定員は150名ほどでしたが、今年度(2024年度)からは240名となっていて、今年度は在校生と合わせて700名以上になっています。
松陰氏:
今年度は定員が増えているにも関わらず、競争率も上がりました。大阪いばらきキャンパスの映像学部が完成したことも大きいと思います。今後はこの環境を実際に見学してもらえるので、より競争率が上がるかもしれませんね。
ー立命館大学映像学部の特色は
松陰氏:
「映像の今を教える」というコンセプトで、指導する側に現職の人間がいますね。我々以外にも脚本や監督をされている先生もおられます。
山本氏:
いわゆる芸術大学や専門学校ではなく総合大学である、という意味でいうと、「作品を創って提出して終わり」ではなく、その作品についての解説論文を提出させています。作品制作を通して自分の研究課題を設けて、4年間学んだことの集大成を論文としてまとめる、ということですね。
ー作品を創るにあたって、学生に貸し出されている機材が豊富にありますね
松陰氏:
音響の機材でいうと、以前はショットガンマイク(MKH 416-P48U3)しかなかったのですが、立体音響についても授業で説明をしているので、実機があった方が違いがわかるだろうということでSENNHEISER MKH 418S(MS stereo マイク)、SANKEN CSS-50(XY 方式 stereo マイク)、RODE NT-SF1(Ambisonics マイク)なども導入しました。作品制作で自作の曲を演奏する学生もいるので、アフレコルームで音楽録りもしています。
また、学生たちには機材の金額をしっかり伝えるようにしています。これらは高価な機材で、消耗品などではなく長い期間大切に使う物なのだということを理解してほしいと思っています。
ーARRIのカメラも導入されているのですね
山本氏:
デジタルシネマカメラにも多くの種類がありますが、やはりARRIはステータスでもありますし、我々二人でいうと録音、編集の機材は実際にプロが使っているものにこだわっているわけですが、それと同じように撮影の先生も機材にこだわっていて、本気で学生と向き合っています。
松陰氏:
以前は自前で一眼のカメラを用意する学生も多かったのですが、今はARRIを使いたいという学生が多いですね(笑)。
ーカメラは他にもあるでしょうか
松陰氏:
Canon XF605が35台あります。授業で使う分と自主制作やゼミ課題、卒業制作などで使えるように台数を用意しています。また、音声レコーダーも高回生向けにZOOM F8n Proを15台、他にもSigma SS-332Rex MK-IIをカメラと同じ台数用意しています。
山本氏:
XF605は4K、Logなどに対応していますし、撮影についての基礎を身につけるためのカメラですね。その後、興味のある学生は自分で一眼カメラなどを入手することもあります。
ー導入されている映像編集の設備について教えてください
山本氏:
映像編集実習室には、教員用も含めるとMedia Composerを31台用意しています。HDでの編集が十分にできる環境で、4K素材の編集にも対応しています。また、ビデオI/Oと出力される映像を確認するためのモニターには、実際の現場に則したこだわりを持ちたいと考えました。全端末がAvid NEXISに繋がっています。
ー音響編集の設備についてはいかがでしょうか
松陰氏:
音響編集実習室にはPro Toolsを23台用意しています。ここでは整音などについて話をしますが、その際はパソコンのスピーカーやヘッドホンで音を聞きます。その後、MAルームで作業をすると音のモニタリング環境が全く違うので、そこでの作業でまた音ががらりと変わります。そのような体験が学びにつながると考えています。
「MA Room 1」と「MA Room 2」は、ナレーション収録などが可能な部屋を挟む形で配置されており、必要に応じてその場で音声を追加することが可能。当然、これらも全てPro Toolsで操作できるよう設計されている。
松陰氏:
ちなみに音響編集室には、ノイズリダクションのプラグインは敢えて入れていません。低回生の時から後からでもノイズが消せるとわかると、現場での録音が「とりあえず」になってしまいます。まずはしっかりと現場で録音するということを学んで欲しいと考えています。
また、音響編集実習室はAvid NEXISには繋がっていません。学生それぞれでSSDやHDD、USBメモリを使っており、専用のNASでバックアップを行なっています。作業に必要な容量が小さいこともあり、自前のメディアを使ったローカルでの作業も体験できるようにしています。
この他にも、フォーリーサウンドの制作に特化したフォーリールーム、Dolby Atmos対応のエディットルームなど、音響制作の最高峰とも言える設備が用意されている。
ーAvid NEXISの運用について教えてください 山本氏: ワークスペースは学生ごとにIDを割り当てて運用と管理をしています。
以前は30名のクラスが5つあると150台のHDDを管理しなければならず、それだけで大変な労力でしたが、Avid NEXISがあれば、最初にそれぞれの学生へのワークスペースの割り当てが必要ですが、それが終われば特にやることはないので管理が非常にしやすくなりました。Avid NEXISとの連携で様々な場所からフレキシブルにアクセス可能
また、物理的な接続をほとんど気にしなくていいというのも安心できます。学生が使用する場合、ローカルストレージではシャットダウンが完了する前に外したり、アンマウントせずに接続を外すといった初歩的なミスもあったりしますので、そういったところに気を使う必要がないというのは大変楽になりました。
各生徒のワークスペースは様々な場所からアクセスが可能ですので、編集実習室で素材を取り込み、編集室で編集作業をして、スクリーニングルームで色を調整するといったことができています。その度にストレージを持ち歩く必要がないのが楽ですね。
実習で制作を行なっていく場合、編集担当者が複数人いたりします。ローカルストレージだと結局は1人しか作業できませんが、Avid NEXISは同時に作業を進めることが可能というのも大きなメリットですね。誰かが素材の取り込み、リネームをしつつ、他の誰かが編集をして、さらに他の誰かが編集済みの部分の色を調整するといったことを実際に実習で行なっています。
Avid NEXISのストレージは400TB用意しており、学生1人もしくは2人につき500GBを割り当てています。この春学期で運用してみて、低回生では500GBは余りすぎることがわかったので、少し少なめに調整し、秋学期では高回生の学生の容量を1TBに変更しようと考えています。このような調整がいつでも自由に行えるのも大変助かります。
試写、視聴環境も充実
山本氏:
スクリーニングルームは30人分の客席、客席後方の編集用スペースに5席を設置した試写室で、DCPデジタルシネマ 5.1chおよび7.1ch上映、4K Blu-RayのDolby Atmos(ホーム仕様)再生、またスクリーン上映を行いながら、Media Composer、Baselight for Avidプラグインなどで編集、カラーグレーディング作業を可能としたポスプロスタジオとなっています。
以前のキャンパスでもシアター教室はあったのですが、授業等で使うことも多く、学生が気軽にラッシュを見るということがなかなか出来できませんでした。今回の計画時に280席あるシアター教室が出来ることも分かっていたのですが、教室ではない試写室の必要性を考えていました。これでやっとラッシュが観られ、スクリーンに上映しながら編集やカラーグレーディングができる念願の部屋が完成しました。
この部屋は試写機能に特化していて、教室としての機能はあえて備えていません。
しかし、この部屋をぜひ教室として使いたいという先生も多いですね。(笑)
松陰氏:
自分たちのことながら、とても贅沢な部屋ですね。シアター教室があってさらにこのような機能を備えた部屋があるわけですから。
ーこの環境について、学生さんからの反応はいかがでしょうか
松陰氏:
ソフトの機能を全て覚えるということよりも、今の状態からこんな風に変更すると、より作品の質が上がるとか、こういう風に変えることで伝わり方が全く変わる、ということを体験してもらうことが重要だと思っています。こういう風にするには、どこをどう変えていけばいいのか、という学びが学生たちを伸ばしていくのだと考えているからです。そういう意味で、「自分が望めばどこまででもできる」施設と機材がそろっているのはとても大きなことだと思います。
この春の授業で、5.1chの作品がすでに4本作られました。Dolby Atmosに対応したシアター教室で、「自分が作った5.1chの作品を見たい」という思いに応えられる環境があるというのはとても大切ですね。
山本氏:
映像についても、「しっかりした環境でなければカラーグレーディングはできないんだよ」ということを、実際にそのような環境で作業をすることで理解してもらえていると思います。このスクリーニングルームの運用が始まってからは、我も我もと、ここで作品の仕上げを希望する学生が多いです。
Avidソリューションを導入した理由
山本氏:
私達の所属している映画芸術ゾーンでは、やはり映画というコンテンツが中心にあります。実際にアカデミー賞にノミネートされた作品のほとんどがMedia Composerで編集されています。私自身も普段使っていますが、特に長尺の場合、その安定性、信頼性などの面でMedia Composerにかなうものはありません。
また、操作の面では、Media Composerではタイムラインのクリップを選択する際にワンクッション置きますが、これはとても大切なメリットだと思っています。例えば1000カット編集されているタイムラインで意図せずクリップが選択、移動できてしまうとしたら、編集者としてこれほど怖いことはありません。ユーザーが設定して初めてクリップを選択できるというワンクッションは長尺の編集でとても大切です。ですので、学生にもまずはMedia Composerを基本として覚えてほしいと考えています。
Avid NEXISもメディアサーバーとして歴史があり、これまで培ってきたノウハウは、まさに信頼性につながっています。また、Avid NEXISはAvid製品でありながら、Premiere ProやDaVinciが端末であっても全く問題がないというのもいいですね。
松陰氏:
音については業務ではPro Tools一択という状態ですね。Pro Tools自体、自分の思い通りに非常に細かく音の調整ができますし、ここでも導入しているAvidのVideo SatelliteのシステムによってMedia Composerとの同期もとても楽です。また両ソフト間でのデータの行き来も年々楽になってきていますね。
ー今後、Avidに求める機能はありますか?
山本氏:
これまで大きく操作性が変更されていない、そしてバージョンが違っていてもいかなる時代のプロジェクトも開くことができるというのは、プロユースのアプリとして当たり前でありながらとても大切なことで、絶対的な魅力と言えると思います。そういうことができない他社ソフトもあるので、この部分は是非今後も続けてほしいと思っています。
もう1つは、Media Composerだけで簡易的な感じで良いので、DCPのフィニッシュができるようになって欲しいです。また、オンラインシステムとしては、もう少しエフェクト関係を進化させてもらえればと思います。
松陰氏:
Macで動かしていますが、MacのOSのバージョン、Pro Toolsのバージョン、サードパーティプラグインのバージョンについて、もう少し交通整理してもらえると良いなと思います。当校にはさらにVideo Satelliteもあり、Media Composerのバージョンも考慮しなければならないので、そのあたりをわかりやすくしてもらえると良いと思います。 また、細かい文字が見えにくくなってきているので、指定した場所の文字を一時的に大きく表示するような機能があると助かるなと思います。
ー最後に、立命館大学映像学部の今後の展開はどのようにお考えでしょうか
松陰氏:
おかげさまで、大阪いばらきキャンパスに新設されたこの施設は、関西のみならず東京の方々からも大変注目いただいています。
山本氏:
そのような状況もあるので、施設の稼働率をもっと上げていきたいと考えています。
松陰氏:
例えば、立命館の卒業生に監督やプロデューサーとして企画を持ち込んでもらい、学生をインターンとして参加させることで、この施設のみで作品を創ることも可能でしょう。そのようなことも今後検討していきたいと考えています。
インタビュー後、外に出ると空にはまるで映画のワンシーンのような大きく鮮やかな虹がかかっていた。 映像・音響制作の最高峰とも言えるこの環境で学んだ若者が、あの虹の橋を越えて活躍する日は、決して遠い未来の話ではないのだ。