高解像度・広視野角が特徴のVarjo(ヴァルヨ)のヘッドマウントディスプレイ(以下:HMD)のシリーズは、グローバルな産業分野において認知され、高い評価を得ているデバイスだ。
人間の眼に近い解像性能と謳われ、仮想世界が現実世界と違和感なく融け込み、鮮明に視聴することができるMR向けヘッドセット「Varjo XR-3」。その改良系となる「Varjo XR-3 Focal Edition」の取り扱いが、国内で開始されたので、今回は視聴体験をレポートする。
Varjo社の概要
Varjo Technologies(ヴァルヨ・テクノロジーズ)社は、2016年にフィンランドのヘルシンキで設立されたVR/XR企業だ。現在、欧州、北米を中心に、45カ国で事業を展開している。Varjoとはフィンランド語で「影」を意味する言葉だ。
VarjoシリーズのHMDは高解像・広視野角が特徴で、人の眼に近い高画質なハイエンドのプロダクトがラインナップされている。
シミュレーションやトレーニング、設計、デザイン、医療、研究など、高精度なHMDを必要とする産業分野において、導入実績がある。自動車のナビゲーションや、フライトトレーニングなどが代表的な用途だ。同社のソフトウェアのパートナーの総数はおよそ280社である。
VarjoのMR/VRヘッドセットは、Unity、Unreal Engine、Autodesk VRED、PREPAR3D、VBS Blue IGなどの3Dプラットフォームやソフトウェアに対応。その数は増加しており、2022年には、40点のソフトのサポートが追加されている。
VarjoシリーズのXR/VRヘッドセット
Varjoでは、Varjo VR-3、XR-3、Aeroの3種のPC接続型の高性能HMDをラインナップしている。
VR向けヘッドセットのVarjo VR-3(以下:VR-3)。そのフルフレームBionic Displayは、中心視野において、人の眼のレベルと言われる視野1°あたり70ピクセル以上の最高レベルの解像度と115°の広視野角、sRGBの色空間の99%をカバーする色域の精度等により、仮想現実における細部のデティールまでを鮮明に再現することができる。また、視野の中心部分の被写体を高解像度で表示するテクノロジーのフォービエイテッド・レンダリングを実装している。
高速かつ高精度の200Hzのアイトラッキング(視線追尾)機能、正確に手の動きを捕捉するUltraleap Gemini(v5)ハンドトラッキング機能を搭載。フレネルレンズを使用していない非球面型の超広角レンズや瞳孔間距離(IPD)の自動調節機能、90Hzのリフレッシュレート(ディスプレイが画像の表示を毎秒何回更新できるかを示す)などにより、スムーズな映像の再生を実現。VR/3D酔いや眼精疲労を低減している。重量は、本体が594g、ヘッドバンドが386g、併せて980gとなっているが、バランスが良いせいか、あまり負担には感じない。ヘッドバンドは、汎用性が高い3点精密フィットで装着感も良く、本体のアクティブ冷却システムと相まって、長時間の装着にも耐えうる造りになっている。
Varjo XR-3(以下:XR-3)は、VR-3の基本的なスペックを踏襲しながら、本体の前面にLiDARセンサー、ステレオRGBパススルーカメラを搭載して、MR(複合現実)の機能が追加されたモデルである。20ミリ秒未満の低遅延と12メガピクセルのビデオパススルー技術により、高度な複合現実の体験を実現する。視野1°につき70PPD以上の高解像度とDCI-P3(米国の映画制作業界団体Digital Cinema Initiatives策定のRGB色空間の規格)の93%をカバー。リアルな映像の生成を可能にするLiDARによるデプスセンシング(奥行き認識機能)で、リアルタイムのオクルージョン(手前のオブジェクトが背後のオブジェクトに隠れて見えない状態)と3次元の再構築を行い、現実と仮想世界をスムーズに融合する。限定的な範囲に半透明に表示されるARのヘッドセットに比べ、広い領域に渡り、写実的な描写が可能となっている。
最先端のハンドトラッキング機能であるUltraleap Gemini(v5)を実装。手の動きを正確にキャプチャーして、現実世界の如く、直感的にバーチャルのオブジェクトを操作することが可能になっている。また、インサイドアウトトラッキングにより、ベースステーションを用いない形の運用も可能だ。XR、AR、VRの切り替えも容易になっている。取得された視線追跡データは、訓練の分析や研究にも活用することができる。
これらの上位モデルについで、2022年1月に国内で発売されたアドバンスドモデルが、Varjo Aero(以下:Aero)だ。アイトラッキング機能、IPD調節機能、可変解像度レンズを搭載。ディスプレイは、2880×2720のミニLED・LCD(最大35PPD)×2枚が用いられ、リフレッシュレートは90Hz、視野角は水平115°、対角134°となっている。
今回は、XR-3とAeroで、筆者がキヤノンEOS SYSTEMで撮影した8K180°3DVR動画を視聴してみた。再生には、DeoVR Video Playerを利用した。VR動画視聴の際のパフォーマンスは、アプリに依存することになるので、CG等を体験する際の最高の解像度のスペックではないものの、それでもXR-3の視聴は、スタンドアロンのVRヘッドセット等とは一線を画すもので、次元の違う美しい表示と滑らかな再生、そして、没入感については、思わず感嘆の声を上げてしまうほどのクオリティーである。XR-3とは価格差のあるアドバンスドモデルとはいえ、Aeroも従来のVR動画視聴体験の高画質を達成しており、満足度は高かった。。
Varjo XR-3 Focal Editionについて
Varjo XR-3 Focal Editionは、2022年末から国内での取り扱いが開始された。XR-3のスタンダードモデルで利用できる機能はすべて含まれており、その上で、光学系に改良が施されている。
搭載されているMRカメラシステムの最適な見え方は、スタンダードモデルの45~250cmに対して、より近距離の30~80cmの範囲となるように、チューニングされている。それにより、手元の計器類のパラメータやダイヤル、テキスト等の視認性が極めて良好だ。また、セキュリティ対策が強化され、無線通信機能を取り外したnon-RFモデルの提供も用意されており、オフライン環境の状態で、ユーザーがアカウントを作成せずに操作することも可能となる。ただし、GPUの要件としては、NVIDIA RTX A6000以上が必須であるなど、高いPC性能が必要となるモデルである。
実際にVarjo XR-3 Focal Editionで、手元の資料を観察してみたところ、細かい文字まで、鮮明に視認することができた。もともと、XR-3の基本性能として、遅延がなく、細かい文字やエッジをくっきり表示する視力1.0相当の描写性能があった訳だが、XR-3 Focal Editionの光学系の改良により、実用的、実践的なMR体験を、より高度に実現できる仕上がりになったといえるだろう。
ソリューションについて
Varjoでは、ローカル内のPCやNVIDIAのグラフィックカードに依存することなく、クラウドの仮想環境で複数のPCを繋げてレンダリングを実行、シームレスなコラボレーションを実現する「Reality Cloud」のソリューションを用意している。クラウドのコンピューティングを利用することで、重いレンダリング作業をクラウド上で実行することができるのだ。
また、カメラやスマホで撮影した仮想コンテンツを、ニアリアルタイムに共有して、遠隔でHMDで視聴することができるプラットフォームの「Teleport」というサービスを2023年中のローンチを目指して準備中である。当初、仮想コンテンツの内容は、室内をスキャンしたものなどになるが、将来的には人体等のオブジェクトなどの3Dモデルも想定されているようだ。近い将来、他社製品のレンダリングも可能になる予定とのことだ。VarjoのXR APIを使用したり、マスクを作成してXRの設定を構成するなど、Varjoのヘッドセットと互換性のあるアプリをさらに活用するための開発者向けのVarjo Lab Toolsも利用可能である。
Varjo XR-3 Focal Editionの価格については、株式会社エルザ ジャパンの営業まで、お問い合わせいただきたい(sales_md@elsa-jp.co.jp)。