ミノルタ X-700[記憶に残る名機の実像]メイン写真

「ミノルタ X-700」(以下:X-700)は、派手さこそ少ないものの堅実なつくりなどから、「ミノルタ XD」(以下:XD)とともにミノルタ一眼レフを代表するモデルと個人的には思っている。売れに売れた「ミノルタ α-7000」が代表モデルだろうという意見も多いかと思うが、米ハネウェルの特許を侵害しているとして賠償金165億円を支払うことになった「ミノルタ・ハネウェル特許訴訟」がこのカメラの背後にはついつい見え隠れしてしまうのと、その後祖業を捨てた経緯を考えると、感情的にはそれ以前の、MF時代のモデルを挙げたくなるのである。

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X-700は1981年に発売。翌年AEロックを備えたが、その後は製造を終える1999年まで目で見える部分の変化はない。AEロック非搭載モデルにはシルバーカラーも存在した。写真は「オートワインダーG」を装着した状態。レンズは反射望遠レンズのRFロッコール250mm F5.6
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そのX-700であるが、まず注目は撮影モード。XDで珠玉の撮影モードとも言えるシャッター優先AEを採用しなかったことだ。同撮影モード搭載のために、レンズの仕様をそれまでのMCロッコールからMDロッコールへと変えたにも関わらず、である。ユーザー個々の考え方や被写体の状況などにもよるが、シャッター優先AEは一般に出番が少なく搭載しなくても問題ないと判断した結果なのだろう。その代わりという訳ではないが、プログラムAEを新たに搭載。自分の経験から言わせていただくと、たしかにシャッター優先AEよりもプログラムAEを選択することが多いので、これは妥当な選択と言ってよいように思える。なお、XDにはプログラムAEは搭載されていなかったが、被写体が露出連動外の明るさになると自動的にシャッター速度を変更する「超自動露出撮影」機能が備わっていた。いずれにしてもX-700の撮影モードは、より実用的なものになったと述べてよい。

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撮影モードは、プログラムAEと絞り優先AE、そしてマニュアルを搭載する。シャッターボタンは半押ししなくても、指を置いただけで露出計が作動する。巻き上げレバーの上質な操作感は、ミノルタの良き伝統を引き継いでいる
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ファインダースクリーンにアキュートマットを採用していることもX-700を語るうえで忘れてはならない部分だ。このスクリーンはミノルタが独自に開発したもので、明るいうえにピントの山が掴みやすいというマニュアルフォーカスを楽しむ写真愛好家にとって堪らない特徴を持つ。実際ファインダーを覗くと、その明るさに驚かされるし、ピントを合わせるのがより楽しくなってしまうほど。ちなみにアキュートマットはハッセルブラッドのVシリーズなどにも純正のスクリーンとして採用されていたので、その実力は実証済みだ。この技術はミノルタ(コニカミノルタ)からソニーへと引き継がれ、フルサイズのデジタル一眼レフ「α900」に採用されたが、それ以降の実績は残念ながらなく、過去の技術になりつつある。

ミノルタらしいところとしては、巻き上げの感触や操作性のよさがあるだろう。フィルム巻き上げレバーの操作感については、「ミノルタ XE」をはじめ歴代同社フィルム一眼レフはスムーズなものが多いが、本モデルもそれを継承。その操作感はモータードライブやワインダーを使うのはもったいなく思えてしまうほどである。同時にシャッターボタンを押したときの感触も良好。指をシャッターボタンに軽く乗せるだけで露出計が起動するのもよい。一眼レフの基本的な扱いさえ知っていれば、初見でも使いこなすことができるシンプルで分かりやすい操作性もこのカメラのよき部分だ。

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左側エプロン側面には、レンズ着脱ボタン(上)と絞り込みレバー(下)に加え、レリーズ用のネジ穴(中央)を備える。電気的な接点を用いた方式でないのが、時代を感じさせる。「MPS」とはミノルタ・プログラム・システムの略
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そのほかX-700の特徴としては、AEロックを備えていないモデルと、備えているモデルがあることだろう。1981年の発売であるが、それから1年ほどの間に発売されたモデルはAEロックを備えておらず、それ以降のモデルはAEロックを備えている。ちなみにAEロックのスイッチはカメラ前面部にあり、セルフタイマーと共有としている。また、ボディカラーにはブラックのほかシルバーが存在していたのも初期モデルの特徴。生産台数は少なく貴重である。なお、製造は当初日本であったが、後年は韓国と中国に移っている。

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カメラ銘の下にAEロックとセルフタイマーを兼ねるスイッチを備える。押し下げるとAEロック、上げるとセルフタイマーとなる。写真はセルフタイマーをセットした状態。初期のモデルは、この部分はセルフタイマーのみとしている
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純正のアクセサリーが充実していたことも注目しておきたい。フィルムの巻き上げにはモータードライブとワインダーが選べたほか、自動撮影等を可能とするマルチファンクションバッグや、日時などをフィルムに記録するクォーツデータパック、ワイヤレスコントローラーなどをラインナップ。MDロッコールおよびNew MDレンズの充実したラインナップも含め、ちょっとしたシステムカメラと述べてよいものであった。ちなみにX-700の価格は、XDが8万4,000円(ブラックボディ)であったのに対し、6万9,000円(ブラックボディ)と比較的手に入れやすいプライスタグとしていた。そのため1981年の発売時には世界初を謳った両優先AE機XDもラインナップされていたが、瞬く間にミノルタ一眼レフカメラの主役に躍り出たことは言うまでもない。

現在の中古市場でのX-700は、ボディ単体で1万円から2万円ほど。AEロックのない初期モデルやシルバーカラーはなかなか市場に出てこないが、後年のモデルはタマ数も多く探しやすい。ファインダーの様子やシャッターボタンの反応、裏蓋を開けたときのモルトの状態などを確認して購入を決めるとよいだろう。レンズはオートロッコール、MCロッコール、MDロッコール、New MDレンズが使用できるが、プログラムAEを使いたければ、X-700と同世代のMDロッコールかNew MDレンズを選ぶとよい。

今回の記事作成で、所有するX-700を久しぶりに防湿庫から取り出した。バッテリーを入れ、いざシャッターを切ろうとするとうんともすんとも動かない。知り合いのリベアマンに訊いたところ、どうやらシャッターボタン周辺の電気系統の故障ではないかとのこと。どちらかと言えば故障の少ないカメラらしいが、時折このようなトラブルが見受けられるという。


大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。