フジカ ST605II[記憶に残る名機の実像] Vol.07メイン写真

富士写真フィルム(現 富士フイルム)の35mm一眼レフカメラは、1970年代初頭から1980年代半ばまで製造および販売が行われた。1970年代後半からとなるが、同社の35mm一眼レフに対する当時の私の印象は、ライバルと比較しちょっと華に欠けるところがあり地味に思えたものである。プロ用のハイエンドモデルが存在しなかったり、1980年頃までちょっと古めかしいM42スクリューマウントだったりしたことが理由として大きい。また、プロモーションにしても積極的な展開は残念ながら記憶にない。同じ35mmフィルムを使う同社のコンパクトカメラは相応の人気を古くから誇っていたし、プロやハイアマチュア向けの中判カメラや大判用のレンズ、そしてフィルムをはじめとする感材は圧倒的な支持を得ていたのとはちょっと趣が異なっていたように記憶している。

ところがである。最新のミラーレスとマウントアダプターで、その35mm一眼レフ用とする交換レンズで撮影を楽しんでみると写りのよいことに気づいてしまったのである。もちろんそれは当然のことで、先の大判用のレンズや中判カメラの人気が高かった理由のひとつはそれであるし、古くはL39マウントのレンジファインダー用交換レンズにしても未だ評価は高く、中古市場でも安くない国産オールドレンズのひとつに数えられているくらいだ。そうなると、この交換レンズで撮影を楽しんでみたいと思う気持ちがさらに強くなってくるとともに、本来の相棒である富士写真フイルムの35mm一眼レフで撮影してみたいという欲望がメラメラと湧き出てきたのである。

早速中古カメラ店やネットオークションなどのぞいてみた。ターゲットは言うまでもなくL42マウントを採用するフジカSTシリーズ。富士写真フイルムの35mm一眼レフはそのほかバヨネットマウントを採用するフジカAXシリーズもあるが、所有するレンズなどからフジカSTシリーズとした。ちなみにM42マウントを採用するフジカSTシリーズには、開放測光方式と絞り込み測光方式のモデルが存在する。交換レンズも絞り値をカメラに伝える爪を備える開放測光用と、爪の無い絞り込み測光用のものがある。個人的には開放測光で絞り優先AEを搭載する最上位モデル「フジカST901」や、最高1/2000秒のシャッター速度に対応する「フジカST801」が欲しかったのだが、他のモデルも含め中古カメラ店などを巡ってもなかなか出会えない。富士写真フイルムの35mm一眼レフが市場に出回った玉数が少なかったことを改めて知ることとなる。ようやく馴染みの中古カメラ店からそこそこ状態のよい「フジカST605II」が入ったと連絡を受け、手にすることができた。

    Vol.07 記憶に残る名機の実像 フジカ ST605II
「フジカST605II」は1976年に発売された「フジカST605」の後継モデル。1978年に発売を開始し、それまでの絞り込み測光から開放測光へと進化したものである(露出はいずれもマニュアル)。マウントはM42スクリューマウントをベースに開放測光ができるよう独自の機構を組み込んだSTマウントとしている
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「フジカST605II」はフジカSTシリーズのエントリークラスに位置付けされるモデル。特徴としては最高シャッター速度1/700秒と開放測光とすることだろう。最高シャッター速度に関しては、クラス的に差別化のためにデチューンしたのではないかと察せられるが、発売された当時(1978年)でもモノクロはトライXなどISO(当時はASA)400が一般的で、カラーネガフィルムもISO400を大々的に売り出し始めた頃なので、1/1000秒でもよかったのでは、と思えてならない。開放測光については、時代的にようやくといった感じである。ちなみに先代モデル「フジカST605」(1976年発売)は絞り込み測光であったが、当時としてもちょっと古くさく感じられるものであった。露出計は追針式とし、シャッター速度はファインダー内にも表示される。スクリーンはマットのほか中央にスプリットとプリズムを備え、マニュアルフォーカスのフィルム一眼レフとしては一般的なスタイルとしている。

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STマウントはM42スクリューマウントをベースに開放測光ができるよう爪をマウント外周部に備える。絞りリングと連動するレンズ側の爪がカメラ側のこの爪を動かし、絞り値を露出計に伝える。なお、カメラ側には、M42スクリューマウントでありながら装着時のレンズ位置をロックする機構も備わっており、レンズをカメラから外す場合はその解除ボタンを押した状態で行う必要がある
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改めてじっくりと見ると、外観は35mmフィルム一眼レフとしてはコンパクトでスタイリッシュ。ペンタカバーの造形は美しく、「FUJICA」の書体や大きさもよく合っているように思える。「ST605 II」と記した文字も含めプリントでなく、エングレービングされているのも好感の持てるところ。トップカバーのシャッターダイヤル、フィルム巻き上げレバー、シャッターボタンはやや華奢な感じがしないでもないが、整然と配置され、当時としては悪くない仕上がりだ。プレビューボタン(絞り込みボタン)を備えているのも、クラスを考えれば誇れる部分だろう。シャッターボタンの感触も上々で、シャッター音も安っぽさのようなものは感じさせない。むしろワンクラス上のモデルのような感触と音である。フィルム巻き上げレバーにしても小刻み巻き上げはできないものの、適度なトルク感がありフィーリングはよい。エントリークラスとしては、なかなかいいつくりのカメラであるように思える。

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最高速1/700秒とするシャッターダイヤル。高感度フィルムを使った晴天屋外での撮影では使いづらいことも多そう。撮影可能枚数を表示するフィルムカウンターの窓は大きく、見やすい。フィルム巻き上げレバーのプラスチックの部分は予備角として先端を引き出すことができる
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さて、ようやく手に入れることのできた私の「フジカST605II」であるが、ファインダースクリーンがお世辞にも綺麗とは言えない。オーバーホールを知り合いのリペアマンにお願いしたいと思っているのだが、このところのフィルム高騰により、オーバーホールしても果たして存分に撮影が楽しめるのか悩ましい状況が続いている。もちろん現状でも撮影は問題ないのだが、やはり綺麗なスクリーンで被写体と対峙したいし、完璧な状態で撮影を楽しみたいと思うのはカメラ好きとしては正直なところ。同時に、地味だなんて思わず、もっと早く富士写真フィルムの35mm一眼レフカメラと出会っていればと深く後悔している。

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カメラ底部にある左のボタンは、巻戻しロック解除ボタン、右は三脚ネジ穴。三脚穴が光軸上としてないのは、エントリーモデルだからか?光軸上にあれば三脚への取り付けの際など三脚ネジ穴の位置の見当がつきやすいし、雲台への座りもよいのだが、なぜ外れた位置としたのかよく分からない。ちょっと残念に思える部分だ
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大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。