オリンパス XA[記憶に残る名機の実像] Vol.09

オリンパスはカメラを小型軽量とすることに長けたメーカーであったことは今更述べるまでもないだろう。ハーフサイズの「オリンパス ペン」に始まり、同じくハーフサイズの一眼レフであるペンFシリーズ、そして多くの写真愛好家から長く愛されたフィルム一眼レフOMシリーズなどカメラの軽量コンパクト化は同社のカメラづくりにおける外すことのできないコンセプトと言えるものであった。もちろんそれはデジタル一眼レフ、ミラーレスについても同様で、カメラ事業がOMソリューションへ移管された現在も同様である。そのようなオリンパスのカメラのなかにあって、ギュッと機能の詰まった凝縮感の極めて強いフィルムコンパクトカメラと言えば、「オリンパス XA」(以下:XA)であることに異論を唱える者は少ないはずだ。今回はそのXAをピックアップしてみたい。

本モデルを語るにあたり、外せないのが35mmフルフォーマットのカメラとしてミニマムサイズなボディに、絞り優先AEとレンジファインダーを搭載していることだろう。

    テキスト
「オリンパス XA」はカプセルカメラXAシリーズの初号モデル。1979年に発売を開始している。プラスチック製の小型軽量なボディながら距離計を内蔵。露出は絞り優先AEとしており、マニア志向の拘りのモデルであった。発売開始時の価格は3万2,800円
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前者はレンズ左側にその絞り設定レバーを備える。設定できる絞り値は開放F2.8からF22まで、1段ステップとしている。カメラのカテゴリーを考えれば1/2段ステップでなくても不足を感じることはないだろう。ちなみに搭載するレンズはF.ZUIKO 35mm F2.8。この焦点距離では、絞り値による被写界深度とボケの大きさの変化は決して小さくはないので、絞り優先AEとしたことは作画指向の写真愛好家に強く訴求できるとともに、絞りが任意で選べること自体、当時巷に溢れるプログラムAEのコンパクトカメラと一線を画す証と言える。絞り羽根は4枚とシンプル。言うまでもなく絞り穴は四角形となるが、円形のいわゆる玉ボケを活かした撮影を楽しみたいのであれば絞り開放のF2.8で撮るべきだろう。ファインダーには、シャッター速度は表示されるものの、絞り値の表示がないのはちょっと残念に思える部分である。

    Vol.09 記憶に残る名機の実像 オリンパス XA
絞りの設定は、ボディ前面にあるスライダーで行う。開放F2.8から最小F22まで1EVステップでの設定を可能としている。絞り羽根は4枚。右上の赤いランプはセルフバッテリーチェックシグナルと言い、セルフタイマー使用時には点滅、バッテリーチェック時には点灯する
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レンジファインダーの採用については、同機構を採用するコンパクトカメラはこの当時ないわけではなかったが、基本設計の古いものが大半を占め、新規で登場したものとしては珍しい部類に入る。レンジファインダーと言えば測距精度の判断材料となる有効基線長が気になるところだ。まず基線長に関しては正確な数字は残念ながら発表されていないようであるが、実測したところでは16mmほど。M型ライカが69mm前後(モデルによって多少異なる)、M型よりも小型のライカCLが31.5mmなので、XAの基線長はかなり短い。ファインダー倍率についても発表されていないようで、覗いた感じからざっくりと0.6倍とすると、有効基線長は9.6mm前後と考えてよさそうだ。そのため測距精度はお世辞にも高くはないが、35mmという焦点距離、開放絞り値がF2.8であることなどを考慮すると、ピントの精度は近接撮影でないかぎりさほど問題になるようなことはないだろう。むしろ、虚像式ながら二重合致式とする距離計の搭載は、視認性もそれなりによくピントを合わせる楽しさが堪能できるとともに、マニアックに思える部分だ。

そしてもうひとつ書き忘れてならないのが、独特のカプセル型のボディである。スライド式のレンズバリアを備えるボディはそれまでのコンパクトカメラのスタイルに対する概念を大きく変えたと述べていい。「リコーFF-1」(1978年発売)などレンズバリアを備えるカメラはXA登場以前にもなかったわけではないし、プラスチック外装のカメラも珍しいものではなかったが、曲面、曲線を活かしたプラスチックならではのシェイプは国産35mmコンパクトカメラとしては初めてであり、極限まで贅肉を削ぎ落としたコンパクトなボディとともに、当時とても新鮮に映ったものである。しかもレンズバリアを開けるとレンズをはじめISO感度目盛り、距離目盛り、フォーカシング用のレバーなどが現れ一気にメカっぽい雰囲気となり、カメラとしての自己主張をし始めるのもこのカメラの魅力のひとつと述べてよいだろう。

    Vol.09 記憶に残る名機の実像 オリンパス XA
手に持つとこのカメラのコンパクトさがよりわかりやすい。ちなみに写真は筆者の手だが、どちらかといえば日本人男性としては小さいほうである。カプセルカメラXAシリーズには、その後いくつかのモデルが登場したが、距離計を内蔵し絞り優先AEとするモデルは本モデルのみである
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ご存知の方も多いかと思うが、XAの開発設計は、1959年発売の「オリンパス ペン」をはじめ、多くのカメラを世に送りだした米谷美久氏(1933年-2009年)によるものである。距離計を搭載したのも、絞り優先AEとしたのも、35mmフィルムカメラとしてミニマムサイズなボディとしたのも同氏の設計思想を強く感じるところであり、そのエッセンスがこのカメラにはギュッと詰まっていると言ってよい。また、レンズバリアを内蔵するカプセル型のボディは、その後の35mmコンパクトカメラのスタイルに多大な影響を及ぼしたことも忘れてはならない。残念ながらオリンパスは祖業でもあったカメラ事業に見切りをつけ撤退してしまったが、1979年5月発売の本モデルは、同社カメラ事業の華やかなりし時代を特に強く感じさせる一台と言っても過言ではない。

    Vol.09 記憶に残る名機の実像 オリンパス XA
レンズの焦点距離はスナップ撮影などでは使いやすい画角の35mm、レンズ構成は5群6枚とする。レンズ下部(写真ではフィルム感度の上)にあるレバーは距離計用。ピント位置の距離はファインダー下部(写真ではファインダー上部)に表示する
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大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。