COLAVOLEX DB21 PRO[中判カメラANTHOLOGY] Vol.20

デジタル専用設計のビューカメラ

COLAVOLEX DB21 PRO[中判カメラANTHOLOGY] Vol.20
レンズ前面が白く見えるのは、センターフィルターを装着しているため

今回は2008年に共同写真要品株式会社から発売された「COLAVOLEX DB21 PRO」をご紹介する。中判デジタルのみを扱うこの連載、20回目にして初のビューカメラとなる。

COLAVOLEXには2種類あり、今回ご紹介するDB21 PRO(通称V1)は建築写真向けのカメラだ。広角に特化したコンセプトで、このスタイルのビューカメラとしては軽量コンパクトな設計となっている。

ライズ・フォール可能なのは前枠だけだが、前後枠ともに横シフト・ティルト・スイングが可能。レンズとバック側の中心を出すためのピン(先端が黄色の部分)があり、そこを基準に操作をする。各可動部の調整ノブには独立したロック機構があり、細かい調整後に確実なロックが可能だ。

またデジタル専用設計ということで、小さいだけでなく後枠自体がデジタルバック用のスライドパーツとなっており、フィルム機にスライドアダプターを装着するよりもフランジバックを稼ぐことができる(24mmまで無限遠が出る)。

レンズからデジタルバックを繋ぐシンクロケーブルが必要になるものの、操作はフィルムでの撮影と変わりない。

COLAVOLEX DB21 PRO[中判カメラANTHOLOGY] Vol.20
左のピントグラスで構図とピントを合わせ、撮影時にはスライドさせる

後に発売された「COLAVOLEX V2」は、主にスタジオでの商品撮影を想定した高精度なビューカメラで、現在でも広告分野で活躍するSinar P3の競合機である。DB21(V1)と同じく広角でのフランジバックを確保しつつ、より強度があり精密に操作できる別物のカメラだ。重量もDB21より2kg近く重い。

製造元はTOYOブランドで有名な「サカイマシンツール」。発売元の共同写真要品株式会社(プロ向けの老舗販売店だった)はなくなってしまったが、現在でもCOLAVOLEXはメンテナンスが可能だ。

サカイマシンツール

ビューカメラやフィールドカメラをお使いで「TOYO」ブランドを知らない人はいないであろう、国産大手のサカイマシンツール。

COLAVOLEX DB21 PRO[中判カメラANTHOLOGY] Vol.20

言ってみればCOLAVOLEXはTOYOとの共同開発製品であり、本機「COLAVOLEX DB21」は「TOYO VX125」との共通点も多い。また「COLAVOLEX V2」に関しても、ほぼ同じものが「SMT PRO M24」として、現在でもTOYOから継続販売されている(受注生産)。

レンズボードもトヨフィールドと同じ規格だし、各種デジタルバック用のマウント(V、H、Mの3種)など、パーツの入手やメンテナンス面での安心感は大きなプラス要因である。

COLAVOLEX DB21 PRO[中判カメラANTHOLOGY] Vol.20
V2は構造的な強度、各可動部の精度が違う

実は筆者もCOLAVOLEX V2を個人所有したことがあり、中古購入時に問題があった箇所を、ショップを通してサカイマシンツールさんで修理していただいたことがある(しかし残念ながら仕事で活躍することなく手放してしまった)。

Schneider Kreuznach APO-DIGITAR XL 35mm F5.6

凹みボードに装着されたAPO-DIGITAR 35mm

シュナイダーはすでにビューカメラ用レンズから撤退してしまったが、この「Schneider Kreuznach APO-DIGITAR XL 35mm F5.6」はかなり評判が良く、一時は定番となっていたほど有名な超広角レンズである。ちなみに645フルフレーム機で使用する場合には135判換算22mm相当の画角となる。

歪曲収差も少ない上に90mmのイメージサークルを持っているため、645フルフレーム(53.9×40.4mm)センサーで縦に±16mm、横に±13mmのシフトが可能だ(理論値)。4433センサーだと縦±23mm、横±20mmとなりもっと自由度が高くなる。

シュナイダーにはさらに広角の「APO-DIGITAR XL 24mm F5.6」も存在するが、こちらは48×36センサー用でイメージサークル自体が645フルフレームをカバーしていない。

超広角レンズは周辺減光が大きいため、写真の光量落ちを防ぐ「センターフィルター(中央部分にNDがかかった補正フィルター)」がシュナイダー純正品としてラインナップされていた。現在では入手困難だが、今回一緒にお借りすることができた。

蛇足だがこのレンズ、Phase One IQ280などのダルサ製80MPセンサーでは深刻な不具合が発生するらしく(当時の海外掲示板情報)デジタルバックとの相性など、しっかりリサーチする必要がある。現在でもそれなりに高価なレンズでもあるし、まずはプロショップのレンタルで試すことをお勧めしたい。

風景を撮る

試写を兼ねての風景撮影である。使用したデジタルバックは私物のPhase One IQ260。

テキスト
Schneider APO-DIGITAR XL 35mm F5.6 / Phase One IQ260 / ISO 50 1s f/11
※画像をクリックして拡大

広角レンズということもあり、ピントグラス上で像がハッキリ見えるのは中央だけで、しっかりとフレーミングを確認するのは難しい。また超広角ゆえ繊細なピント合わせが必要になるが、10倍のルーペを使うことで何とかピントを掴むことができた。

嬉しい誤算だったのは、使用したデジタルバックIQ260のライブビュー機能が実用的だったこと。フェーズワンIQシリーズでは、CCD搭載モデルであっても単体でのライブビューが可能となっている。色の判別もできないほど(知らない人なら壊れていると疑うほど)荒いプレビュー画面ではあるが、この薄暗い環境での構図確認と、拡大表示でのピント合わせには問題なく活用できた。といってもピント合わせに苦しむのは同様である。

もちろんCMOS搭載のデジタルバックを使用する場合は、ピントグラスは不要になるだろう。

    テキスト
画面左下を等倍切り出し ※画像をクリックして拡大

肝心の写りはというと、もう流石と言うしかない。135判デジタルカメラが成熟する以前には、この過剰なクオリティを求められた時代が確かにあったのだと実感する。

建築物をスティッチ撮影

COLAVOLEXをお供に埼玉県狭山市へ。緑豊かな稲荷山公園内にある狭山市立博物館さんに撮影協力をいただいた。「COLAVOLEX DB21 PRO」が最も力を発揮するであろう建築物の撮影である。

立地的な制限や、画面外で改装工事が始まっていたこともあり、写真としては撮り直したい気持ちもあるのだが、あくまで作例ということでご覧いただきたい。

APO-DIGITAR XL 35mm F5.6は良いレンズだが、普通に使っては一眼レフで撮影するのと何ら変わりがない。ビューカメラの特性を活かし、セオリー通りにカメラの垂直を維持したままシフト操作(ライズ)で全体が写るようフレーミングする。

※なお、晴天下ではIQ260のライブビューは何も見えず機能しなかった。

左が一眼レフに35mm、右がライズをかけたもの(デジタルバックは同じ)

これでパース(遠近感)を補正することができたが、引きが取れなかった関係で画角的に35mmでは足りず、ビューカメラの構造を活かして「スティッチ」前提で撮影を行った。

デジタルバックを縦位置に装着し、後枠を横にスライドさせながら5枚撮影(気分で5枚も撮影したが3枚で十分だった)。ライズをかけたまま左右に20mmずつ動かしたため、イメージサークルがはっきりと認識できる。

こうして撮影したデータを合成するわけだが、Capture One Pro 22から搭載された自動スティッチ機能が活躍してくれる。とにかく簡単というしかない超便利機能である。

全体の色ムラやイメージサークル周辺部のマゼンタ被りに関しては、撮影時にキャリブレーション用のデータを別途撮影しておくことで、LCCと呼ばれる手法で補正をかけることができる(今回は手動で色調整した)。

そうして合成したものから、使える部分を切り出した完成形が下の写真である。

    テキスト
Schneider APO-DIGITAR XL 35mm F5.6 / Phase One IQ260 / ISO 50 1/30 s f/16 センターフィルター使用・5枚スティッチから切り出し
※画像をクリックして拡大

常設展示スペース

撮影時には企画展として「さかなクンのギョ苦楽展~さかなクンの世界とギョギョ魚水族館~」が開催されており、夏休み終盤ということもあって子ども連れの来館者が目立った(2024年10月14日まで開催)。

せっかくなので博物館内の常設展示スペースも撮影。かつてこの地に生息していた「アケボノゾウ」の骨格標本が展示されている。狭山市での風土や歴史が、出土品を通して感じられる良い常設展示である。

こちらもスティッチング用で、上下に23mm、左右に15mm動かしながら計6回撮影したものを合成。当然ワンショットの画角より随分広くなる。

また、このカットはF16で15秒間の露光となった。

長秒露光が苦手なダルサCCDだが、IQ260から実装された「長時間露光モード」を使用することで(べース感度がISO 140になる)15秒間の露光を繰り返してもノイズレスな美しいデータが得られた。

    テキスト
Schneider APO-DIGITAR XL 35mm F5.6 / Phase One IQ260 / ISO 140 15 s f/16 センターフィルター使用・6枚スティッチ
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まとめ

実測値で3.15kg(デジタルバック用アダプター込)とモノレールタイプとしては小型軽量が売りの、建築写真のために生まれたこのカメラ。手軽に高画質が実現したこの2024年に、業務での需要があるかと言われるとかなり厳しい。確かに写りは良いが、撮影と後処理に手間がかかり過ぎるのだ。

今回は先輩カメラマンさんに実機をお借りしたのだが、やはり長らく仕事では使用していないとのことだった。135判フルサイズ機の進化により、広めに撮影しパソコン上でパース(遠近感)を編集することで事足りてしまう。Web媒体であればまず判別はつかないだろう。

しかし、業務需要がないということは、趣味で使う層が安く購入できるということでもある。撮影時間を短くしたいとか、費用対効果などを考えずに楽しむ世界線は確実にある。

何しろ一級品の画質を持つデジタルバックを用いて、普通のカメラでは撮れない画が撮れてしまうのだ。最新のレンズは軽く100万円を超えるビューカメラの世界だが、趣味ならば旧型のレンズでも十分に写りを楽しむことができる。手間をかけた分だけしっかりと応えてくれる道具こそ趣味の醍醐味ではないか。

建築写真だけでなく風景写真にも同じくらい適性のあるカメラである。他の広角専用の小型カメラ(ALPA、CAMBO等)と違いヘリコイドの心配をせず、その辺で買ったシノゴ用のレンズがそのまま使えてしまうのが素晴らしい。また、広角だけでなく150mmくらいまでなら色々なレンズが実用できる。延長レールや蛇腹を交換することでポートレートやマクロ撮影まで、使い方次第で実現可能だろう。

使い方はシノゴとまったく同じ。前述のようにレンズボードはトヨフィールドと同一規格で、リンホフボードへの変換アダプターも存在するのでレンズも選び放題。必要なパーツは現在でも新品で入手できる。

あとは自分で試すのみ、と言ったところだろうか。


富永 秀和|プロフィール
1983年福岡生まれ。グラフィックデザイナーから転身した職業フォトグラファー。2013年に中古購入した中判デジタルでその表現力の虜となる。福岡のシェアスタジオで経験を積み2022年に上京。
総合格闘技(MMA)ファン。
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