マミヤRZ67+フェーズワン

名機「Mamiya RZ67 Professional II」は、縦横のレボルビングが可能な電子式6×7フォーマット・カメラの2型である。

この連載の第5回にもLeaf Aptus22(48×36センサー)との組み合わせを紹介しているが、本来は6×7判のミディアム・フォーマットということもあり、少しでも本来の画角に近い、大型センサーで使いたいと思うのが人の心だろう。今回は645フルフレームのデジタルバック「Phase One IQ260」を装着する。

筆者がRZ67を使用していた10年ほど前には、マミヤ純正のデジタルバック用アダプター「HX705」が5万円前後で販売されていた。当時はこの金属板が5万円もするのかと少し悩んだりしたものだが、現在は中古品がその何倍もの金額で取引されるなど、そもそもの入手が困難となっている。

本記事が、これからマミヤRZをデジタル化する方の参考になればと思う。なお、マミヤRZの機種ごとの違いやLeaf Aptusシリーズでの使用に関しては連載第5回で特集しているので、そちらをご覧いただきたい。

フェーズワン IQ260

今回使用するのは「Phase One IQ260」。その名の通りフェーズワンIQ2シリーズの60MPモデルで、2012年の発売とはいえFireWireやUSBだけでなく無線でのテザー撮影も可能な、比較的新しい世代のデジタルバックである。

センサーサイズは645フルフレーム(53.9×40.4mm)と、現在主流の44×33センサーよりも面積で約1.5倍の大きさ。採用された60MPのダルサ製CCDセンサーは、16bit記録による色情報の芳醇さや発色傾向が135判デジタルカメラとはかなり異なるため、一般のカメラと比較してジャジャ馬のように言われることもあるが、中判CCD機としては非常に扱いやすい素直なRAWデータが得られる(当時の業務機らしく、JPEG記録ができないRAW専用機である)。

「写りに個性は欲しいが、カメラに過度な主張をして欲しくない」筆者にとっては、ある意味到達点となる最高の写りだと感じている。

低感度域で最大のポテンシャルを発揮するCCDセンサーということで、文句なしの高画質データが得られるのはISO50~100まで(妥協しても200まで)となるが、画素数を1/4(=1,500万画素)にして高感度耐性を2段分上げる「Sensor+」という機能を活用することで、筆者の基準ではISO800までは十分に実用できると感じている。万能ではないが、この機能があるおかげである程度暗いシーンにも対応でき、他に何台もカメラを持ち歩く必要がないのが素晴らしい。「Sensor+」使用時にも画角はクロップされず、その画質も良好だ。

RZ67用のアダプター事情

デジタルバックには様々なマウントが存在するが(主にマミヤ、ハッセルV、ハッセルH)、中判デジタル全盛期に各所からRZ用アダプターが登場しているため、基本的にはどのマウントのバックでも使用可能だ。

私物のデジタルバックIQ260(Mamiya / Phase Oneマウント)に合わせて、アダプターを購入することに決めたものの、かつてマミヤが販売していた純正アダプター「HX705」は現在、欠品となっている。

ここ1年ほど中古市場にアンテナを張っていたが一向に出物がなく、もし出たとしても定価の5倍以上の値がついているケースもあり、あまりに高額なものには手を出しにくい(ハッセルVマウント用のRZアダプターは中古でよく見かけるので、Vマウントバックをお持ちの方の方が敷居が低そうだ)。

そこで目をつけたのが、米オークションサイトのeBayで販売されている3Dプリンター製(FDM方式)のアダプターである。工業製品としてのクオリティではないと説明があるが、219ドルと安価で販売され、問題なく使えたとする購入者の評価もそれなりにある。

中央が今回購入した3Dプリンター製アダプター(樹脂製)

他に選択肢がなく、しぶしぶ購入してみることにした。

円安の影響で送料を合わせると4万円程度。関税と通関料で2,100円かかったので、お買い得感があるとは言いづらい。

また、シンクロケーブル不要でExif記録も可能なデジタル対応機「Mamiya RZ67 Professional II D」と専用アダプター「HX701」も存在するが、こちらはさらに入手困難である。

デジタルバックとの接続

マミヤRZ67はレンズシャッターを採用しているため、デジタル化の難易度は低いと言えるだろう。IQシリーズのデジタルバックを使用する場合、専用のマルチコネクターケーブル(型番:50300143)をレンズのシンクロ端子に接続し、カメラモードを「Aerial(RZ67ProIIDでも可)」レイテンシーを「ゼロ」に設定するだけで完了する。ビューカメラで使用する場合とまったく同じである。

旧型のコダックCCDを搭載したP/P+シリーズ機には(P40+、P65+のみダルサCCD)レイテンシーの設定がなく、ウェイクアップケーブル(センサーをONにするボタンを押してから、5秒以内にシャッターを切る)が必須となっていた。

ただしレイテンシー「ゼロ」では、常にセンサーがONの状態になり、かなり熱を持ってしまうという弱点もある。今回は7~8月の炎天下での使用となり、こまめに電源を切るなどとにかく気を使った。長時間連続で使用する場合や、夏場の野外には注意する必要がある。また、IQデジタルバックでもウェイクアップケーブルを使用するという方法もある。

ピント問題の検証

試写したデータを見るとすべて後ピン傾向で、思ったところにピントがきていない。使用したマミヤRZ67の精度が出ていない可能性も考えたが、今回購入した3Dプリンター製のアダプターを疑うのが先だろう(3Dプリンターはどうしても誤差が生じやすい)。

ピントを無限遠に固定しF9~F11でテストするとボヤボヤの写り。明らかにフランジバックが狂っている。検証のためPRONEWS編集部よりHマウントアダプターとIQ260(こちらもHマウントの別個体)をお借りして再度テストを行ったところ、こちらはピントが合うではないか。

結果的に3Dプリンター製アダプターの厚みが少し薄かったようだ。eBayのセラーに問い合わせると、定規を撮影した写真が送られてきて、このように数字にピントを合わせて、実際にどれだけズレているかわかる写真を送って欲しいと返信が届いた。売りっぱなしではなくサポートまでしてくれるらしい。調整したものと交換が可能とのことである。

実はこの返信が届く前に、10倍ルーペでピントを合わせ、テザー撮影をしながら自己流で調整が済んでいたため、今回はそのまま使うことにした。ちゃんと写真が撮れるならそれで良いし、何より面倒である。

アダプターのデジタルバック接地面に黒パーマセルテープを貼り、ヘラで押しつぶしながら4枚重ねたところで全域でピントが合うようになったが、より精密に調整する場合はフィラーテープ(厚み0.01~)等で調整する方法もあるらしい。先人の知恵である(もちろんすべて自己責任だ)。

eBayで購入できる3Dプリンター製アダプターは金属ではないので、過度な期待はせずに自分で調整したり、海外のセラーと何度もやりとりする覚悟がある人には良い選択肢になるだろう。何しろ他に入手方法がほとんどないのである。

実写サンプル

今回使用したレンズは、RZ定番の標準レンズの110mm F2.8と、広角レンズの50mm F4.5の2本。

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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 110mm F2.8 W
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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 110mm F2.8 W
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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 110mm F2.8 W
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どれもF5.6~F11程度に絞って撮影している。ピントはかなりシビアになってしまうものの基本的にはしっかりとシャープに写る印象だ。

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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 110mm F2.8 W
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マミヤレンズはどれも逆光でフレアが出やすい傾向があり、この感じが個人的には好ましく感じる。カッチリと撮りたい場合には純正の蛇腹フードがマストである。

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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 110mm F2.8 W
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フィルム時代のマミヤレンズは硬くなりすぎず、デジタルバックとの相性が良いように思う。解像度は高いのに、ミラーレス時代の「写り過ぎる」描写とはまったく違うのが面白い。

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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 50mm F4.5 W
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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 50mm F4.5 W
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MAMIYA RZ67 Pro II / Phase One IQ260 / SEKOR Z 50mm F4.5 W
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広角50mmでのピント合わせは非常に繊細で、画角は広くとも焦点距離が変わるわけではない。マミヤRZ67の2型で追加された微動ノブ(通常のピントノブの隣に、より細かく調整できるノブがある)が活躍する。さすがに1993年発売のカメラだけあって、完全機械式の時代のものよりも断然ピント合わせがしやすい。改めて本機は良くできたカメラだと思う。

使用上の問題点

真夏の炎天下という、どのカメラにも厳しい条件とはいえ、これまで経験したことがないレベルでデジタルバックが熱を持った。IQシリーズは熱をアルミ筐体に逃がすヒートシンクのような設計だろうと推察しているが、レイテンシー「ゼロ」での常用は(特に夏場は)厳しいと感じた。旧型のP+デジタルバックを使う方が発熱が少ないし、内蔵ファンが常時回転しているLeaf Aptusシリーズを使う方が何倍も快適である。

またIQシリーズではタッチパネル液晶が露出しているため、体に当たって設定が変わってしまうことが何度もあった。スタジオ用途はともかく、趣味として野外でマミヤRZを使う前提で言うならば、やはりAptusが使いやすい。Aptusもタッチパネルの背面液晶ではあるが、ベゼルがあるため簡単には触れないし、触れることを防ぐ透明なカバーも付属している。改めて、あれは当時の環境下でよく考えられた設計だったのだと実感する。

それからもうひとつ。マミヤRZ67の長所として、ピント合わせが蛇腹の繰り出し(寄れる)、シャッターチャージがレバー式、バックの回転機構などが挙げられるが、そのどれもがシンクロケーブルが引っ張られたりして、とにかく取り回しが面倒(邪魔)なのだ。

かなり機能的なカメラで撮影体験自体は素晴らしいだけに、ケーブル不要な最終型「Mamiya RZ67 Professional II D」はどれだけ気持ちよく使えるのだろうとない物ねだりの妄想をしてしまった。

まとめ

筆者は「カメラをあれこれ操作するのを楽しむ」というよりも、理に適った最小限の操作で安定して動く「シンプルなカメラ」を好むタイプである。その意味で、マミヤRZ67とIQデジタルバックの組み合わせに問題がないわけではない。

だが冷静に考えると、これから業務用途でマミヤRZ67+IQデジタルバックを導入するカメラマンなど片手で数えるほどしかいないだろう。

趣味という観点で見るならば、細かな問題点もすべて「慣れ」で片付いてしまうのが現実だ。邪魔なシンクロケーブルもボディに這わせずぶらんと提げておけば意外と気にならなくなる。バックが熱くなったらカフェで休めばいい。カメラが重いと感じたら他の荷物を徹底的に減らし、筋力をつけるのだ。

写真体験としての楽しさも現実、極上データが得られるのも現実なのだから。


富永 秀和|プロフィール
1983年福岡生まれ。グラフィックデザイナーから転身した職業フォトグラファー。2013年に中古購入した中判デジタルでその表現力の虜となる。福岡のシェアスタジオで経験を積み2022年に上京。
総合格闘技(MMA)ファン。
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