2025年10月30日、東京国際フォーラムにて、株式会社フォトロン、アビッドテクノロジー株式会社、株式会社メディア・ソリューションズの3社協業による「ANIME TALKING JAM」が開催された。本イベントでは、アニメ制作の現場を支えるプロデューサーやエディターなどの制作関係者が登壇し、実際のワークフロー事例や日々の業務で培われた知見が共有された。

今回のセッションには、「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」でリードエディターを務めたネイサン・シャウフ(Nathan Schauf)氏が登壇。本イベントにあわせ、制作の舞台裏について改めて話を伺った。

ネイサン・シャウフ(Nathan Schauf)氏 プロフィール


2020年にソニー・ピクチャーズ・アニメーションへ加わり、以降さまざまなアニメーション作品の編集に携わる。長編から短編まで、幅広いジャンルのプロジェクトで経験を積んできた。

最新作「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」ではリードエディターとして参加。物語全体のリズム設計から演出の方向性づくりまで深く関わり、作品の魅力を最大限引き出す編集ワークを担当した。

ANIME TALKING JAM

「ANIME TALKING JAM」では、海外アニメ制作の現場で活用されるワークフローが多角的に紹介された。第1部では、長編アニメーション作品「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」をテーマにしたトークセッション(同時通訳あり)が実施され、ソニー・ピクチャーズ・アニメーションのリードエディターであるネイサン・シャウフ氏が登壇した。

セッションの進行(モデレータ)はAvid Technologyのマット・フューリー(Matt Feury)氏が務め、制作過程における編集の役割や、Avid Media Composerを軸としたワークフローの活用について、対話形式で深掘りしていった。

膨大な素材管理を支えるAvidの運用ノウハウや、音楽・演出との連携方法など、現場ならではの知見が詰まった内容となった。

左:ソニー・ピクチャーズ・アニメーション ネイサン・シャウフ氏、右:アビッドテクノロジー マット・フューリー氏

「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の制作秘話 リードエディター・ネイサン・シャウフ氏に聞く

長編アニメーション作品「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の編集を担当したネイサン・シャウフ氏に、ステージ終了後あらためて話を伺った。

――まず経歴を教えてください。いつ頃から映像編集に興味を持ちましたか?また、今の仕事を始めたのはいつ頃ですか?

シャウフ氏:

初めて映像制作をしたのは高校生のときです。父が持っていたビデオカメラを使って撮影をし、Avidで編集しました。
その後、奨学金を得てスポーツ放送のための勉強を始めたのですが、映画を作りたいという思いが捨てられず、映画製作の仕事を探しました。
初めてアニメーション映画の製作に関わったのは、2003年です。

――アニメ制作に関わったのはなぜですか?

シャウフ氏:

まず、好きだったからです。ワーナー・ブラザーズのアニメが好きで、よく観ていました。
アニメは、やりたいことは何でもできます。実写映画だと、例えば同じシーンを3回撮ってテイクを比べ「テイク1がベストだ」と思ったらそれを使って終わりです。
でもアニメなら本当に気に入るまで何百回でも作り直せる。アニメの可能性は無限で、想像できることは何でも形にできるんです。
それは本当に素晴らしいことだと思います。

――普段のアニメ編集はどのような工程で行いますか?

シャウフ氏:

まず、ストーリーを作るために絵コンテを書いたら、その絵コンテをすべてMedia Composerに取り込んで編集を開始します。
この段階ではビデオトラックが1つしかなく、オーディオもありません。ここである程度ストーリーの流れを作り、各シーンのテンポ感の下地を作ります。
次に、それを元にCGで3Dモデリングしたものを取り込んで、絵コンテの上のトラックに並べます。ここでキャラクターの衣装デザインも細かく決めます。
同時に、声優のセリフや音楽、効果音なども順次追加していきます。
次に、そのCGにアニメーションをつけたものをさらに上のトラックに並べるのですが、今回の場合は音楽との同期が大切で、どうしてもタイミングが合わなかったり、テンポが悪いと感じた場合にはCGや楽曲に変更を依頼することになります。
最後にライティングを施したものをその上のトラックに並べます。

――今回のような作品だと、その修正は大変そうですね…。

シャウフ氏:

はい。音楽のタイミングが大切な作品なので、映像や音声・音楽のどこかで修正が入ると、それに関連するすべてを変更しなければならない場合があり、それはまるでパズルのようでした。

――実際の編集ではMedia Composerをお使いになっているようですが、他社のアプリケーションを使うことはありますか?

シャウフ氏:

作品によっては、個人プロダクション等で設備がない場合に、他社のものを使ったことがあります。でも、そういう事情がない限り、私はMedia Composerを使います。Media Composerは、もはや私の真の友人のようなものです。

――Media Composerの気に入っているところは何ですか?

シャウフ氏:

あらゆるメタデータをすべて正しく管理できることです。特に今回のような長編アニメの場合、絵コンテから始まってレイアウト、アニメーション、ライティングと、大きく4つのステージを経由しますが、そのすべての工程のメディアを取り込み、整理して管理しなければなりません。
メディアにはそれぞれメタデータがついており、また、アシスタントが絵の内容や必要な情報をコメントとしてメタデータに追加します。その作業が終わったものを特定のビンに移動することになっているので、作業が終わったかどうかはそのビンを開けばわかります。
また、試写の度にシークエンスのバージョンが増えていくのですが、そのすべてを保存しています。例えば今回の場合は一つのビンに100を超えるバージョン違いのシークエンスが保存されています。
そして、そのメタデータをもとに、「2週間前に見たこのシーンの絵はどこだっけ?」とか「先月の試写で使った音はどれだっけ?」というときに、検索ツールを使ってメタデータを検索して探すことができます。Media Composerのプロジェクトは、言ってみれば作品のデータベースのようなものです。

――Media Composerの機能で、具体的によく使ったものはありますか?

シャウフ氏:

マルチカムはよく使いました。特定のシーンのあらゆるテイクを、トラック上に積み重ねるのではなく、グループクリップにしておくことでタイムライン上は一つのクリップとして扱える。
テイクの切り替えもクリック一つでできます。これでワークフローははるかに速くなります。

セミナーでは、実際のタイムラインを示しながら解説が行われた

――タイムラインを見ると、オーディオの編集についても、Media Composer上でかなり複雑なことをしていますね

シャウフ氏:

私はいつもいうのですが、映像作品においての重要性はビデオが50%、オーディオが50%です。
絵コンテの段階で、爆発のシーンや、剣や銃や電車のシーンがある度に、効果音ライブラリからあらゆる効果音を持ってきて使います。
今回は特にサウンドのテンポ感が大切だったのですが、私はサウンドワークも大好きなので、とても楽しかったです。
Media Composerで編集したデータはAAFとしてPro Toolsに送り、そこでブラッシュアップしてもらいますが、この時点で音楽も効果音もほとんど揃っています。
この作品の制作の時点では、まだMedia ComposerからPro Toolsのセッションファイル(.ptx)をエクスポートする機能がなかったのでAAFを使いましたが、次回以降の作品ではおそらくアシスタントが使うのではないかと思います。

――シーンごとにリールを分けて保存しているようですが、本来そうする必要はないはずなのに分けているのはなぜですか?

シャウフ氏:

昔からの習慣もあるのですが、その方が作業がしやすいと感じるからです。今回のような長編だと、さまざまなシーンやカットで大勢の人が同時に作業を行います。あるシーンを編集中に、別のシーンではCGを置き換え、また別のシーンでは効果音を差し替えるといった具合で。
そんなときはリールに分けておくと混乱も起きにくくなりますし、万一何かを壊してしまっても、全体が影響をうけることはありません。Media Composerだと誰かが作業しているビンには鍵のアイコンが付くので、それが現在作業中であることがわかります。

――実際の編集において、作品を観ている人の感情を揺り動かしたいとき、気を付けるポイントはありますか?

シャウフ氏:

それは私がいつも自問しているテーマでもあります。例えば今回の「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」では、ミラとゾーイが初めてルミの体の紋様(パターン)を見るシーンは、とても感動的なシーンです。
言葉の感情が観ている人に浸透する前にカットを変えてしまうほど速く進めることは望ましくありません。そこでスローなカットをしてみますが、見返してみると遅すぎるような気がする。何度も何度も試してみて、自分のアソシエイトにも観てもらって感想をもらいます。
試写のフィードバックも重要で、その意見をもとに編集を変更することもあります。これまでの作品を観ても、「あぁ、このシーンはあと4フレーム伸ばした方がよかった」などと思うこともあります。ただ、この感覚は常に、いつでも変化するので、最後は自分を信じるしかありません。

――AIや自動編集ツールについてどう思いますか?

シャウフ氏:

AIによる自動編集は、少なくともクリエイティブな分野については不可能だと思います。
「これからの編集は、オフィスに来たら机の下のボタンを押すだけで終わり」なんて冗談を言う人もいますが、私はそういうことにはならないと思います。
確かに、メタデータを自動的に付加したり、聞きやすい音量に調整したりといった、技術的なサポートの役には立つかもしれません。
探したいものがわかっていても、それを探す方法がわからないなどというときに、AIはとても有用です。
しかし、それは私やディレクターが行っているようなクリエイティブな意思決定ではありませんし、人間の感情に訴えかけるための作品作りの本質という意味では、人間をもう一人増やした方がはるかに意味があると思います。

――アニメのエディターとはどんな仕事だと思いますか?

シャウフ氏:

私の仕事は、何も描かれていない白い紙の状態から、実際に映画館のスクリーンに映写されるまで、時には3年にも渡ることがある長い制作期間のあらゆる工程で、監督の意図が確実に伝わるようにすることです。
なので、私はさまざまな会議に参加し、あらゆることについてその映画とともにあろうとしています。

――最後に、あなたのようになりたいと思っている若いエディター達にメッセージをお願いします。

シャウフ氏:

いつでも自分の力を発揮できるように準備しておくのは大切です。
その経験を積むために、プロジェクトが始まったらなるべく多くのことに関わり、その作品に全力を傾けてください。
この仕事は定時で始まる週休二日の仕事ではありません。プロジェクトがどんな時間で始まっても、いつでも全力で取り組まなければなりません…だから、計画的に休暇を確保するのもとても大切です。
技術の習熟は一度の経験で得られるものではありません。常にAvidを学び、常に準備し、辛抱強く取り組んでください。

右:ソニー・ピクチャーズ・アニメーション ネイサン・シャウフ氏、左:アビッドテクノロジー マット・フューリー氏
西岡 崇行

著者:西岡 崇行(にしおか たかゆき)

株式会社メディア・ソリューションズのソリューションスペシャリスト。

幅広い知識と経験をもとに、現場に最適なメディア制作ソリューションを提案している。