1.電子制御シャッター機の1/4000秒

世界で初めて最高速1/4000秒のシャッター速度を実現したニコンFM2は、露出制御に関してはTTL露出計連動のマニュアル機であった。ここは兄弟機である電子制御シャッターのニコンFEにもいずれ1/4000秒のシャッターが搭載されるであろうと考えるのは、当然の成り行きである。そんな市場の期待に応えて1年後の1983年に発売されたのがニコンFE2である。

2.高速化の試作は電子制御シャッターだった

ニコンFM2の項で述べたように、米国のスポーツ記者の要望から、ストロボ同調速度を高速化する目的でスクエア型フォーカルプレンシャッターの幕の軽量化に着手したのだが、そのための試作は、実はニコンFEのボディを流用して行ったのである。

ハニカムパターンによるフォーカルプレンシャッターの高速化の試作には、ニコンFEのボディを流用した。一次試作のときは主目的がストロボ同調速度なので、最高速は1/1000秒のままになっている(写真は豊田堅二著「ニコンファミリーの従姉妹たち」朝日ソノラマ刊より引用)

ところが実際にはマニュアル機のニコンFM2への組み込みが先行した。なぜだろうか?その答えとしては、順番からいってニコンFMの後継機の開発が先行していたというのが実情のようだ。1977年のニコンFMの発売以来電源スイッチの関連とか多重露出の操作部などのマイナーチェンジを重ねてきたのだが、それらは主として兄弟機のニコンFEと操作系を共通化するような部分であった。そのような改良をまとめて盛り込んだ後継機の計画が早くから進行していたのだ。一方でニコンFEの方も後継機の計画があったのだが、そこに1/4000秒を盛り込むと時間がかかる。少しでも早く高速化一番乗りを果たすために先行しているニコンFM後継機にまずは盛り込んだというような事情があったのではなかろうか?

と、いうことで高速シャッター機の二番手としてニコンFE2が世に出たのである。なお、ニコンFE2のストロボ同調速度は1/250秒で、ニコンFM2からNewFM2への進化を先取りしている。しかし、ニコンFM系のように羽根の材料や加工が途中で変わることはなく、すべてハニカムパターンを施したチタン材であった。

3.TTL調光

ニコンFEからの主要な変更点としては、高速シャッターの他にTTL調光機能の追加がある。撮影中にフィルムの感光面からの反射光を検出し、その情報で専用のストロボの発光を止めるものだ。外光式のオートストロボにくらべ撮影レンズを透過した被写体光で制御するので撮影レンズの画角に影響されず、より正確な調光が可能になるのだ。

実はこの機能はニコンではフラッグシップ機のF3で最初に実現され、1982年のニコンFGにも組み込まれているので、ニコンFE2は3番目ということになる。同じTTL調光のシステムでもF3のものとFGのものとでは規格が異なっており、互換性はないのだが、ニコンFE2ではFGのものを継承した。ニコンF3のように定常光と共通の受光素子を使うものではないので、TTL調光のためにカメラのミラーボックス底部にフィルム面に向けた専用のSPD受光素子が設けられ、ホットシューにはストロボとの信号をやり取りするための接点が追加された。

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シャッターをバルブで開放すると、画面枠側からはフィルム面に向けたTTL調光用のセンサーが見える。また、フィルムガイドレールの右隅にはデータバック用の接点が設けられた

4.データバック

カメラの裏蓋と交換してセットした日付のデータをフィルムの背面から写し込むデータバックが一眼レフの付属品として供給されるようになったのはオリンパスOM-1あたりからのことである。手動でダイヤルをセットしていた日付データはやがて内蔵したクォーツ時計で自動的に変更されるようになり、LEDや液晶を移し込むように変わってきた。ニコンでもF2用に「データバックのロールスロイス」と呼ばれた大がかりなMF-10、MF-11を出したことがあるが、これはむしろ学術撮影などの特殊用途のものと考えるべきだろう。一般用としてはニコンFM/FE用のMF-12が最初であった。クォーツ時計を内蔵して日付を自動的に変更する形式のものだが、データを写し込むシグナルをボディ側から受け取るのにシンクロターミナル(PCソケット)を利用している。撮影がなされてシンクロ接点がオンになったときにフィルム背面から写し込むわけだ。そのため、データバックから巻き戻しノブをまたいで前面のシンクロターミナルに接続するケーブルが付属していた。シンクロターミナルをデータバックが占有してしまうため、ストロボをここに接続することができなくなるが、当時はホットシューで接続するクリップオンタイプのストロボが主流となっていたため、大きな問題とはならなかった。

しかし、このケーブルはいささか邪魔である。特にフィルム巻き戻し時にはケーブルをシンクロターミナルから外して巻き戻しクランクを操作しなくてはならない。そこでニコンFM2からはボディダイカストのフィルムレール外側にデータバック専用の接点を設け、この接点を介して写し込みの信号を送るようにした。ニコンFE2もそれに倣ったのである。

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ニコンFEにデータバックMF-12を装着したところ。データ写し込みの信号を伝えるためにデータバック左上から出ているケーブルをカメラのシンクロターミナルに接続する必要があった。ニコンFE2になって専用の接点が設けられたため、ケーブルの接続は不要になった

5.ニコンFEからの変更点

ニコンFE2は、FEに最高速1/4000秒のシャッターを組み込んだだけのモデルと思われがちだが、よくよく見ると意外と多くの変更がなされている。いくつか挙げてみよう。

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カメラ上面の比較。下がニコンFEで、上がニコンFE2。高速化によるシャッターダイヤルの変更以外にも、いろいろと細かい変更がなされている

ニコンFEまではシャッターボタンにかぶせ式ケーブルレリーズ用の外ねじと、一般のケーブルレリーズ用のテーパーねじの両方が設けられていたが、これがテーパーネジのみとなった。フラッグシップ機でもニコンF2では外ねじであったものがニコンF3ではテーパーねじになったので、もう外ねじの必要はないと判断したのだろう。その代わりシャッターボタンの径は大きくなって押しやすくなった。

シャッターボタンについてはもう一つ、電源スイッチがレバースイッチに加えてシャッターボタン半押しでオンになり、一定時間経過するとオフになるタイマースイッチが組み込まれている。これはモータードライブMD-12から採用され、その後のカメラに続々と採用された。

ニコンFEではレンズマウント周囲の露出計連動レバーが、小ボタンを押すことで非Aiレンズの絞りリングと干渉しない位置に退避することができるようになっていたが、この機構は廃止され連動レバーは固定となった。ニコンFM2でも同様である。そのためAi改造していない非Aiレンズは使えなくなった。

フィルム感度ダイヤルは操作が変わった。ニコンFEではフィルム感度設定時にはロックボタンを押しながらダイヤルを回し、露出補正をする際はダイヤルの外側を持って持ち上げながら回すという操作だったのだが、ニコンFE2では逆にフィルム感度設定時にはダイヤルを持ち上げ、露出補正時にはロックボタンを押すというものに変わった。恐らく露出補正の方が頻度が大きいので操作しやすくしたということなのだろうが、どちらが良いのか意見が分かれるところであろう。ともあれ両機種を混用するときには注意が必要である。

その他、背面のメモホルダーが金属から樹脂になったり、セルフレバーの形状が変わったりと細かいところで変更がされている。

豊田堅二|プロフィール
1947年東京生まれ。30年余(株)ニコンに勤務し一眼レフの設計や電子画像関連の業務に従事した。その後日本大学芸術学部写真学科の非常勤講師として2021年まで教壇に立つ。現在の役職は日本写真学会 フェロー・監事、日本オプトメカトロニクス協会 協力委員、日本カメラ博物館「日本の歴史的カメラ」審査員。著書は「とよけん先生のカメラメカニズム講座(日本カメラ社)」、「ニコンファミリーの従姉妹たち(朝日ソノラマ)」など多数。