1.Ai-Sレンズ
1980年から1982年にかけて、ニコンFマウントの交換レンズはそれまでの「Aiレンズ」から「Ai-Sレンズ」に一斉に切り換わった。とはいってもレンズ名に「Aiニッコール〇〇mm F△△S」というように末尾に"S"が付いただけで、外観や仕様はほとんど変わっていない。何が変わったのかというと、実はこれ来るべき絞りの自動制御のための布石だったのだ。
それまで一眼レフの自動露出(AE)というと、コニカFTAやキヤノンAE-1のようなシャッター速度優先AEかペンタックスESやニコマートELのような絞り優先AEのどちらかだったのだが、1977年のミノルタXDや1978年のキヤノンA-1の登場でシャッター速度優先AE、絞り優先AE、さらにはプログラムAEから選んで使えるようにしたマルチモードAEの気運が現れてきた。それに応えてニコンもマルチモードAE機の開発をすることになったのだが、そこで問題となるのが絞りの自動制御である。それまでのシステムではシャッター速度優先AEやプログラムAEに必要なボディ側からレンズの絞りを制御する手段がなかったのだ。ニコンF2のEEコントロールユニットでは絞りリングをモーターで駆動するという、力わざで無理やり実現してしまったのだが、一般的ではない。そこで目を付けたのが自動絞りの連動レバーを途中で止める方法だ。
自動絞りは一眼レフファインダーを覗いてフォーカシングやフレーミングをしているときはレンズの絞りを開放にして見やすくし、撮影の瞬間にレンズの絞りリングで設定した絞り値まで絞り込む機構だ。ニコンFマウントの場合、レンズの後端に「自動絞り連動レバー」があって、このレバーがフリーの状態だとレンズの絞りは絞りリングで設定された絞り値に絞り込まれている。しかしレンズをボディに装着すると、ボディ側の絞りレバーで押し上げられ、絞りリングの位置に関わらず開放絞りとなる。
※画像をクリックして拡大
このボディ側の絞りレバーはクイックリターンミラーの駆動機構と連動しており、撮影の瞬間だけ下に下がるのでレンズ側の自動絞り連動レバーがフリーになり、設定された絞り値に絞り込まれるのだ。この自動絞りの機構はニコンFのときから変わっていない。
そこでレンズの絞りリングを最小絞りにしておけば、撮影時にボディ側の絞りレバーを途中で止めることにより、絞り値の自動制御ができることになる。ただ、それまでの自動絞り連動レバーは「開放」か「絞り込み」かの二者択一の状態をボディからレンズに伝えればよく、中間の状態はどうでもよかった。しかし、この自動絞りレバーで絞りの自動制御をするならばレバーを中間で止めた場合にその位置と絞り値の相関を定めておかなくてはならない。そこで、それまでレンズによってバラバラであった自動絞りレバーのストロークと絞り値の関係を統一してこのレバーによる絞りの制御を可能にしたのがAi-Sレンズだったのだ。
※画像をクリックして拡大
2.瞬間絞り込み測光によるプログラムAE
このAi-Sレンズの特性を利用して絞りの自動制御によるAEを実現したのが、1982年に登場したニコンFGである。ベースとなるボディはニコンEMであった。ニコンEMは絞り優先AE専用機であったが、これにマニュアル露出とプログラムAEを加えてマルチモードAE機とした形である。プログラムAEには瞬間絞り込み測光を採用した。シャッターボタンを押すと、まず測光回路から算出された絞り値に絞りを制御する。制御には自動絞りレバーの動きを電磁石で止める方法で行う。そして制御された絞りを透過した光を再び測光し、その値でシャッター速度を制御するのだ。絞り制御が終了するまでミラーアップをスタートできないのでシャッタータイムラグが長くなるが、それだけ精度のよい露出制御ができるわけだ。
3.LEDアレイによるシャッター速度表示
ニコマートEL以来ニコンでは絞り優先AE機のシャッター速度表示には電流計指針を用いてきたが、ニコンFGではLEDアレイによる表示に変わった。EL系やFE系ではマニュアル露出の際にもこの指針が適正なシャッター速度を示し、マニュアル設定したシャッター速度を表す追針との相関で追針式露出計連動機として使えるようにした機能が特徴的だったが、この思想はニコンFGにも生かされている。
ファインダーを覗くと視野の右側に1~1000のシャッター速度目盛が見え、その横にLEDのドットが並んでいる。絞り優先AEやプログラムAEの時には制御される速度を対応するドットが点灯して表示するのだが、マニュアル露出の場合にはシャッターダイヤルで設定した速度がドットの点灯で表示されるとともに、測光回路の出力から計算された適正なシャッター速度が別途ドットの点滅で表示される。従ってシャッター速度を調節して点灯しているドットと点滅しているドットとを一致させれば適正露出が得られるというような連動露出計的な使い方ができるというわけだ。
4.ニコンEMからの進化と承継
ニコンEMは非常にコンパクトでシンプルなカメラで人気を博したが、マニュアルのシャッター速度がバルブと1/90秒のみであるところは、やはりユーザーにとって少々不満であった。ニコンFGでは1~1/1000秒のマニュアルシャッター速度が使えるようになったのは、大きな進歩であったと言えるだろう。さらにプログラムAEが加わって、特にエントリークラスにとっては非常に使いやすくなった。これらの露出モードの切り換えとシャッター速度の選択は、ニコンEMのオートとバルブ、M90の切り換えレバーを拡張した形で巻き上げレバーと同軸に設けられたダイヤルで行う。
また、ニコンFE2の項で述べたようにストロボのTTL調光の機能が組み込まれ、そのためのセンサーとホットシューの接点が追加された。この機能は同じ年に発売されたスピードライトSB-15との組み合わせで実現できる。
他の機能はおおむねニコンEMのものを受け継いでいる。EMのサイレントクラッチを用いた小刻み巻き上げ可能なフィルム給送系や中折れ式の巻き上げレバーもそのままFGに受け継がれた。従ってモータードライブMD-EもニコンFGで使え、逆にニコンFG用に新たに開発されたモータードライブMD-14もニコンEMに使用できる。
細かいところでは取り外し可能な「ホールディンググリップ」が加わった。右手によるホールディングを安定させるためのもので、キヤノンAE-1やA-1あたりから流行り始めたものだ。モータードライブMD-EやMD-14を装着するときには取り外すようになっている。
豊田堅二|プロフィール
1947年東京生まれ。30年余(株)ニコンに勤務し一眼レフの設計や電子画像関連の業務に従事した。その後日本大学芸術学部写真学科の非常勤講師として2021年まで教壇に立つ。現在の役職は日本写真学会 フェロー・監事、日本オプトメカトロニクス協会 協力委員、日本カメラ博物館「日本の歴史的カメラ」審査員。著書は「とよけん先生のカメラメカニズム講座(日本カメラ社)」、「ニコンファミリーの従姉妹たち(朝日ソノラマ)」など多数。