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デジタルサイネージという言葉から、多くの人がまず思い浮かべるのは、明るく、動きがあり、遠くからでも目を引くディスプレイだろう。駅前の大型LED、商業施設のビジョン、店頭の動画POP。これらは視線を奪うための表示であり、広告や販促の領域では今も重要な役割を果たしている。

しかし、サイネージのすべてが「目立つ」必要があるわけではない。むしろ、見る側にあらかじめ目的や意思がある場面では、強い発光や派手な動きは必ずしも必要ではない。バス停で接近情報を見る。施設内で案内を確認する。店頭で価格や説明を読む。病院や公共施設で掲示情報を確認する。こうした場面で求められるのは、注意を奪う力ではなく、必要な情報がそこに安定して表示されていることである。

この文脈で、電子ペーパーのサイネージ的利用は改めて評価されるべき時期に来ている。特に注目したいのが、IRIS Optronicsのコレステリック液晶、ChLCDによるカラー電子ペーパーである。

電子ペーパーと聞くと、電子書籍端末のような白黒表示や、画面切り替え時に一瞬チラつく表示を思い浮かべる人も少なくない。あるいは、サイネージ用途としては「動かない」「遅い」「地味」という印象を持つかもしれない。だが、ChLCDの展示を実際に見ると、その印象は少し変わる。

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電子ぺーパーの原理比較

最大のポイントは、画面切り替え時の見え方である。

従来型の電子ペーパー(E Inkなどの電気泳動方式)では、表示更新時に独特のフラッシュや、まだらな切り替わりが生じるものもあった。これがサイネージ用途では、かなり大きな心理的ハードルになる。情報が更新されるたびに画面全体が不自然に反転したり、じわじわと崩れるように切り替わったりすると、表示装置としてはどうしても未完成に見えてしまう。

ところがChLCDでは、切り替えがスライドショーに近い印象になる。画面が見苦しく崩れるのではなく、ワイプなどのエフェクトによって、デジタルフォトフレームの画像が切り替わるように見えた。これは地味だが、サイネージ利用においては非常に重要なことである。動画ではなく静止画が一定間隔で切り替わる表示としてなら、十二分に成立する。

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センターワイプで画面を更新している様子

つまり、電子ペーパーはほとんど更新しない掲示板だけではなく、ある程度の頻度でコンテンツを切り替えるサイネージとしても現実味を持ち始めている。たとえば数分ごとに案内を変える。時間帯によって表示を変える。日替わりでメニューや告知を変える。イベント進行に合わせて情報を更新する。こうした用途では、必ずしも動画再生能力は必要ない。

もう一つ重要なのは、反射型表示であるということだ。LCDやLEDのように自ら強く発光するのではなく、周囲の光を利用して見る。したがって、紙に近い自然な見え方になる。屋外や明るい場所では、むしろこの特性が生きる。常時発光し続ける必要がないため、消費電力も大きく抑えられる。

さらにIRIS Optronicsは、背面に太陽電池パネルを組み合わせることで、無給電での自立運用も可能としている。これは単なる省エネの話にとどまらない。電源工事が不要になる。配線が不要になる。設置場所の自由度が上がる。運用コストが下がる。紙の掲示物を貼り替えていた場所に、そのままネットワーク更新可能な表示体を置ける可能性が出てくる。

もちろん、ChLCD電子ペーパーは万能ではない。動画を流す用途には向かない。夜間や暗所では別途照明が必要になる。遠くから強制的に視線を集めるメディアでもない。広告媒体として高いインパクトを求める場面では、LEDやLCDのほうが適している。

だが、ここで発想を逆にしたい。目立たないことは、必ずしも欠点ではない。

都市空間や商業空間には、すでに多くの発光体が存在している。すべての表示が明るく、動き、主張し続けると、情報環境は過密になる。特に公共施設、医療機関、交通案内、店頭の価格表示、館内掲示のような領域では、必要なのは刺激ではなく、読みやすさと信頼感である。

見る側に意思がある場合、表示は大声で叫ばなくていい。そこに行けば読める、必要なときに確認できる、それで十分な場面は多い。むしろそうした場面に発光型のサイネージを持ち込むことが、空間の質を損ねているケースすらある。

電子ペーパーのサイネージ的価値は、紙の置き換えとデジタルサイネージの中間にある。紙のように自然に読めるが、紙のように人手で貼り替える必要はない。液晶やLEDのように情報を更新できるが、常時発光し続ける必要はない。この中間領域こそ、今後の表示メディアにとって重要な場所になる。

サイネージは長らく、いかに人の目を引くかを競ってきた。しかしこれからは、情報の性質に応じて表示技術を選ぶ時代になる。秒単位で動かすべき情報にはLEDやLCDが向いている。一方で、分単位、時間単位、日単位で更新されればよい情報には、反射型の電子ペーパーが適している。

ChLCDは、その領域において電子ペーパーの印象を変える技術になり得る。特に画面切り替え時の違和感が少ないことは、サイネージ利用において重要な意味を持つ。更新されるたびに電子ペーパーらしい不自然さが目立つのではなく、写真やポスターが自然に切り替わるように見える。この差は、導入判断に直結するからだ。

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こちらはLCDっぽく見える使い方

サイネージは、すべてが光る必要はない。すべてが動く必要もない。見る側に意思があり、情報を見る必然がある場所では、静かで、読みやすく、電力をほとんど使わない表示のほうが合理的である。

コレステリック液晶による電子ペーパーは、派手な主役ではないかもしれない。しかし、紙の掲示物と発光型ディスプレイの間にある広大な領域を担う可能性がある。サイネージを目立たせる装置としてだけでなく、情報を適切な時間軸で支える装置として捉え直すなら、ChLCD電子ペーパーは今こそ再評価されるべき表示技術である。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。