HXR-NX5Jの対抗馬かと思いきや昨年9月にオランダ・アムステルダムで開かれたIBC2012と期を同じくして発表されたSONYの業務用ハンディーカムコーダーPMW-160。上位機種の1/2″型ハンディーカムコーダーPMW-200のボディはそのままに、まるでHXR-NX5Jからレンズ部分を移植したかのようなスタイルに「ああ、HXR-NX5JのXDCAM版か」と思い、正直なところあまり注目していなかった。
今回PMW-160とHXR-NX5Jを同時にお借りする機会を得たので、1/3″型ハンディーカムコーダー比較を行ってみた。
諸元比較
特に違いのある点を抜き出しまとめてみたものだが、各々のカムコーダーに特徴があり、ひとえに優劣をつける比較にはならないことがわかる。例えば記録時間だが、MPEG HD422 50Mbpsという画質に重点を置くPMW-160では、どうしてもファイルサイズが大きくなるため、1GBあたりの記録時間は短くなる。片やHXR-NX5Jでは、圧縮効率の高いAVCHD方式のため、1GBあたりの記録時間は長くなる。ブライダルや記録物など長時間の撮影が続く現場では、メディア交換の少ないHXR-NX5Jに軍配が上がるだろうし、高画質かつ編集での加工に負荷を軽減したい現場では、PMW-160のほうが利便性が高いことは言うまでもない。
ファーストインプレッション
PMW-200をレポートされた岡英史氏の言う通り、本当に「普通のカメラ」だと私も思う。非常にスマートなレイアウトで、迷うところが無いのだ。現場でいきなり渡されても基本的な撮影はすぐにできる。
ただし、HXR-NX5Jと比べて、気になるところはいくつかある。まず、やはり重いのだ。諸元比較を見てもらうとわかるのだが、両機のカタログ上の表記ではどちらも本体重量に約2.2kgと記載されている。ただし、PMW-160はレンズフードを含んでいない重量だ。さらにバッテリーに注目していただきたい。PMW-160は、XDCAM系のハンディーカムコーダー共通のBP-Uシリーズのバッテリーを使用する。このバッテリーが結構重い。最大容量のBP-U90を使用することはあまり無いだろうが、中型のBP-U60ですら、HVR-NX5Jが使用するNP-Fシリーズの最大容量のバッテリーNP-F970よりも重いのだ。
また、PMW-160では、グリップベルトをあまり締めることができない。筆者はあまり手に厚みが無いので、目一杯締めても、やや緩いのだ。このせいで右手の甲に重量感が集中して余計に重く感じる。このグリップのホールド感はカムコーダーを使用する上で非常に重要な点だと筆者は思っている。PMW-EX1に比べれば格段に良くなっているのだが、まだ改良の余地があると思う。
かなり厳しい点を取り上げてしまったが、PMW-160には、HXR-NX5Jにはない優れた機能がたくさんある。まず、ファイルシステムがUDFであるという点だ。HXR-NX5Jでは、記録ファイルが2GB単位で分割されてしまうが、PMW-160ではクリップファイルの上限サイズが仕様上43GBとなっている。つまり43GBまるっと1クリップで記録できるわけだ。さらに、クリップコンティニュアスレックが可能になったので、この機能をONにしておけば、Rec/Stopを繰り返しても、そのたびにクリップが分割されることなく、1つの連続したクリップとして記録される。Rec/Stopの継ぎ目にはマークが記録されるので、編集時にもカット頭をすぐに探すことができる。
また、Wi-Fiを利用したリモートコントロールができるようになった点も大きな進化だ。別売のWi-FiアダプターCBK-WA01を本体のUSB端子に接続することで、MacやPC、スマートフォンやタブレットから、ズームやフォーカス、Rec/Stopなどをコントロールできるのだ。今回、CBK-WA01もお借りできたので、早速、手元のiPadからのコントロールを試してみた。
Wi-Fiリモートコントロールを試す
Wi-Fiリモートコントロールは、PMW-160内に内蔵されたWebページへアクセスすることで利用できる。ようするに操作する端末に搭載しているブラウザでPMW-160にアクセスしろ、ということだ。そのためにはまずネットワーク設定が必要だが、最近のホームネットワーク機器ではおなじみのAOSSのような自動設定はなく、すべて手動設定する必要がある。
まずは、オプションのCBK-WA01をカメラ背面のUSB端子へ接続する。このCBK-WA01には、取り付け金具が付属しているので、マイクホルダー脇のねじを緩め、金具を装着すれば、写真のように固定することができる。
カメラの電源を入れ、メニューからOTHERSへと進めば、NetworkとWi-Fiという2つの設定項目があるので、ここで、ネットワーク関係の設定をおこなう。ここでひとつ注意したいのが、NetworkとWi-Fiメニューの項目は、設定を変更したあとにSetという項目を押さなければ設定が反映されないということ。筆者もこれに気づかず、設定が保存されないとあせってしまった。
設定が完了したら、ブラウザからPMW-160のIPアドレスを直打ちしてみよう。設定に間違えがなければ、このような画面が表示される。
Rec/Stop系のボタン、アイリス・ズーム・フォーカスの調整スライドバー、さらには、R GAINとB GAINの調整スライドバーまである。さながら、簡易的なカメラリモコンといった感じだ。レスポンスもよくすぐに反応するが、なぜだかアイリスだけがコントロールできなかった。筆者がお借りした個体だけの問題なのかは最後まで謎だった。
動画:PMW-160テスト撮影
PMW-160のターゲットとは?
HXR-NX5Jは、取材現場で見ないことは無いといってもいいくらいに普及し、テープからファイルベースへの急速な進歩に一役を買った。ではHXR-NX5Jがある今、なぜPMW-160が必要なのだろうか?そこには、SONYの考えるXDCAMで統一されたシステムソリューションが見え隠れする。先にも述べたとおり、HXR-NX5Jは取材現場に数多く導入されている。AVCHDの記録フォーマットも今となっては編集で扱うにも不便さを感じなくなった。
制作系の番組や記録撮影のように、撮って、編集して、完パケして、それで終わり、保存は白素材と黒素材だけという環境では何も問題ないだろう。ところが、報道現場ではそうもいかない。報道現場では取材してきた素材も保存の対象となることが多い。メモリースティックやSDカードといったカードメディアで保存することは、メディアの再利用性が失われるため、一旦何かしらの媒体にコピーしなければならない。
放送局では、まだテープを主たる媒体としている場合も多く、結局AVCHDのファイルをカメラで再生し、ベースバンドでVTRと接続して、実時間をかけてダビングするような状態だ。では、ノンリニア編集機に直にファイルで渡せばいいのではという考えもあるだろうが、放送局では、ノンリニア編集機が単体で動作しているわけではないことが多い。
SNGやFPUで伝送されてくる収録素材をサーバーにインジェストし、ネットワーク接続されたノンリニア編集機でENG素材とともに編集、放送用サーバーに転送し放送といったネットワークシステムが組まれているのだ。SONYもこのようなファイルベースソリューションを展開しており、ネットワーク報道制作システムMedia Backbone SonapsやCATV向けソリューションにおいて、そのファイルフォーマットはXDCAMと同じMPEG2のMXFが採用されている。
このようなシステムの場合、一連の流れにおいてファイルフォーマットが統一されていることが望ましい。先の編集の段階で、インジェストされた回線素材に、ENG素材を組み合わせて編集する場合、ここにAVCHDフォーマットが混在してしまうと、最終段の放送用サーバーに転送する段階で、AVCHDの部分のトランスコードが必要になってしまう。報道現場では放送直前まで編集するような追い込みの場面も多い。そのときにこのトランスコードにかかる時間はロスタイムなのだ。この問題を解消できるショルダーカムコーダーとして、Professional Discに記録するPDWシリーズがあるが、ハンディーカムコーダーにもHXR-NX5Jに替わり同様のファイルフォーマットで記録できるカメラが必要だったのだ。
また、メディアのダビング・保存性についても、ファイルフォーマットが統一されれば、トランスコードを必要としない高速ダビングが可能になる。現に、SONYのXDCAM Station XDS-PD1000やXDS-PD2000を利用することでSxSカードからProfessional Discへのダビングが行える。 つまりPMW-160は、単にハンディーカムコーダーの新製品というだけでなく、XDCAMを中核としたファイルベースソリューションの一翼を担う目的を持っているのではないだろうか。
もちろん、このようなソリューションが導入されていなければ、PMW-160を活用できないということではない。ハンディーカムコーダーとして初のMPEG HD422記録を採用し、撮像素子もフルHD化された兄弟機のPMW-200とともに、他に類を見ないモンスターなハンディーカムコーダー、PMW-160。決してHXR-NX5JのXDCAM版などではなかった。