Reviews_ATEM-Micro-Camera-Panel_toplvuvO8tp

コンパクトでも侮れない存在

Blackmagic Designから新しく登場した「ATEM Micro Camera Panel」

同社にはすでに「ATEM Camera Control Panel」が存在する。最初は「その1ch版か?」と思ったが、実際に使ってみるとその考えは間違っていたことに気づいた。

上位モデルは常設スタジオやVE(ビデオエンジニア)が常駐する規模の現場に最適化されているのに対し、Microは小型・省スペース設計で、モバイルやワンオペ環境に寄り添った設計。単なる廉価版ではなく、使う人やシーンを切り替えた新しい選択肢だと感じた。

「パネルは欲しいけれど場所を取る」「ソフトウェア操作は心許ない」「Blackmagic Design社製カメラをより活用したい」

そんな現場に刺さる製品だと思う。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

セッティングの気軽さ

まず特筆したいのはセッティングの簡単さ。

内蔵バッテリーとBluetoothによるワイヤレス接続で、PCにATEM Software Controlを立ち上げておけば、電源を入れるだけですぐに使用できる。配線の手間がなく、時間の限られる現場でも「持っていけばすぐ使える」という安心感がある。バッテリー駆動時間は3時間以上で、ちょっとしたイベントなら電源を探す必要すらないのは嬉しいポイントだと思う。

もちろんUSB-Cでの有線接続にも対応。有線にすれば接続の安定性は申し分なく、環境に合わせて選べる柔軟さは大きい。ワイヤレスの手軽さと有線の信頼性、その両方を備えているのは現場目線でとてもありがたい。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

操作性と質感

本体左側に並んだカメラ番号ボタンを押すだけで、制御したいカメラを即座に切り替えることが可能。しかも割り当ては柔軟で、1〜8chと書かれているchだけでなく、10chや20chといった任意のchも設定ソフト上で指定可能だった。より上位のスイッチャーに組み合わせても問題なく運用できるのはポイントとして高い。

Reviews_ATEM-Micro-Camera-Panel_02j6igTnSL
Reviews_ATEM-Micro-Camera-Panel_01a6RoESX0

さらに、NKK製のボタンは押しやすさも申し分なく、かつスイッチャーで選択中のカメラが赤く光るタリー要素もあるため、オペレーターが一目で状況を把握できる視覚的な分かりやすさは、現場での安心感に直結する。

上部の5つのシーンメモリーも便利だ。カメラごとに5つ保存ができるため、明暗差が大きいライブなどの収録では、事前に設定した露出等を瞬時に呼び出せるため、急な変化にもすぐ対応できる。これはATEM Software Controlにはない機能で、パネルならではの強みだ。

ノブやボタンの質感は上位機種と同じ。触った瞬間から「廉価版ではない」と分かるし、プロ機材としての信頼感をしっかり備えている。

ATEM Software Control上との最大の違いは絞り値が数値で表示されることだろう。数値表示があると「あとどのくらい余裕があるのか」を瞬時に把握できるし、他のカメラとも合わせやすい。もしかしたらこのあたりは今後のアップデートでソフト側でも確認できるようになるかもしれないが現状はこちらのパネルに優位性があるだろう。

さらに絞り値には上下限を設定できるところも便利だ。ただし、BMPCCシリーズを使う場合はISOではなくGAIN表記になる点に注意が必要だが、慣れてしまえば実用上は問題ないだろう。個人的には設定で切り替えできるようにしてほしいなとは思った。

ワンオペでの真価

筆者は普段、上位機種のATEM Camera Control Panelも使っているが、あくまでもVEが操作する前提の大きさで、ワンオペには向かない。そのため使用する現場はある程度の規模の現場に限られていた。

それに比べると、MicroはATEM Mini等の横に置いても邪魔にならないサイズ感のおかげで手が届きやすいため、露出や色味をサッと微調整できる。

収録や配信で有人カメラは調整が効いても、無人の固定カメラは露出変更等が手間で苦労していた。しかしMicroを導入すれば、ワンオペでも固定カメラの露出調整等をある程度カバーすることができる。

また、本来の基本設計はATEM Miniシリーズ向けと思われるが、上位のATEM 2M/Eスイッチャーとも問題なく連携できた。システムを拡張しても買い替え不要というのはBlackmagic Designならではの安心感がある。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

Blackmagic Designらしい価格設定

そしていつものことではあるが驚きの価格だ。Blackmagic Designには毎回価格で驚かされるが、まさか10万円以下で手に入るというのは、正直「VEコントローラーがこんな価格でいいのか」と思ってしまった。

ここにはBlackmagic Designの一貫した哲学が見える。CEOのグラント・ペティ氏が掲げる「プロの機材を誰もが手にできる価格で」という思想は、このMicroにも反映されている。シネマカメラを一般ユーザーが使える世界にした同社らしい姿勢が、この小さなパネルにも息づいている。まさかVEの領域までも一般にまで落とし込んでくるのか…という驚きである。

まとめ

ATEM Micro Camera Panelは"ワンオペでもすぐに使えるカメラコントロール"を実現した小型パネルだ。

Bluetoothと有線の両対応でセッティングは容易になり、カメラ選択ボタンや数値表示による精密な調整で、現場の操作性は大きく向上する。

大規模な同時制御には上位機が向いているが、小規模配信やイベント収録で「ワンオペの限界を超えたい」と思うなら、このMicroは間違いなく頼りになる。さらに上位機と同じ操作性を持つため、将来的に上位機種にステップアップしてもスムーズに移行できるのも見事だ。

余談だが、レビュー依頼をいただく前日、ちょうど本機を購入検討していた。デモ機を借りて試そうと思っていた矢先にお話をいただいたので、これはもう縁ですね。購入決定です。

森田良紀|プロフィール
映像・音響エンジニア。moumoonをはじめとするアーティストのMix & Recを担当し、MV、ライブや舞台、企業ウェビナーなど多様な現場での収録・配信を手がける。Blackmagic Design製品を中心に、実践的な経験から機材レビューや導入検証を行う。26年の現場経験をもとに、"現場の空気"を伝える映像・音響制作を探求している。