高まるHigh Resolutionの現場
先月の特集でもお届けした、PRONEWSが追いかける今年のテーマの一つ”High Resolution”。今後の映像表現の可能性をここに求める動きは大きく、いま正に加速度的にハイレゾリューション・コンテンツ・マストの世界へ突き進んでいるようだ。
だがしかし、実際の制作現場ではどうだろうか?確かにHD以上のサイズ、つまり2K、4K、5Kで撮影できるカメラは増えており、それを取り扱える環境も増えつつあるが、モニタリング、データストレージ、インジェストからデータ変換までのワークプロセスを考えると、ポストプロダクションで本来の4Kクオリティを確実にキープするためのフル4K制作環境をすべて揃えることはまだ難しい。
またメーカーが発表している4K対応の機材も、いますぐにフル4Kワークフロー環境に順応できるスペックを備えているかと言えば、そこもまた難しい。もちろん発表段階で発売前の製品も多々あり、実際に発売してみなければそのスペックは解らないし、またそれをハイエンドレベルで試す環境すら、この日本ではおぼつかない状況もある。
放送業界に関しては、ようやくHDスタンダードが普及した状況において、4K、5Kというのは、まだかなり先の話であるし、その前に一般の視聴環境が、これから民生用4Kディスプレイパネルが出ようか…という、いわばHDにおける2000年頃の黎明期とほぼ同じ、もしくはTV放送のフォーマットも決められていない現状を考えればそれ以前の状況と同じかもしれない。ハリウッドの映画制作においても、フィーチャー作品(劇映画)ほとんどの納品に至っては2K制作が標準で、そこに最適化されたARRI ALEXA(2K)の需要拡大がそれを物語っている。
とはいえソニーF65やRED ONEからEPIC、そしてSCARLETの登場で、4K撮影Readyという体制は基本となりつつあり、ここに来てCanonもEOS C500、EOS-1D Cといった4Kカメラを発表してきた。4K時代は確実に幕を開けたといっても過言ではない。
要は4K制作の黎明期における現状として、今考えうる4Kソリューションとしては、日本では納品ベースで考えればまだまだHD/2K主流であり、現実的には今の4Kは『for Quality HD/2K』といった、高解像度データからのクリッピングやズームイン、スタビライズなどの効果を得られたり、さらにフィルムライクな描写など、より高品位な作品制作の素材なのである。CMなどのハイクオリティ制作でしかも短尺の作品であれば、それはもはや重要なコンテンツリソースとなりつつあるのも現状だろう。
悩み多き高解像度収録
4K、5Kといった高解像度収録が普及することで、一番問題となってくるのはその膨大なデータの取り扱いだ。現場における収録データ用レコーダーなどのキャプチャーストレージも、RAW収録となれば膨大なサイズのHDDやSSDなどが必要であり、ポストプロダクションでもデータをやり繰りするための膨大なストレージシステムが必要となってくる。その問題は目に見える解りやすいポイントだが、実は撮影スタイルや撮影技術そのもの、そしてその周辺機材にも大きな変革が必要になってくるのだ。4K撮影をするための機材はより安定していなければならないし、そこを見極める確実なシューティング技術が求められる。
特に劇場映画では光学式のVFとは違い、デジタルモニターまでの出力においては、どうしてもコンマ何十分の一秒の遅延があるが、そのタイミングでのフォーカッシングの狂いが場面を台無しにしてしまうこともあるし、フォーカスマンの技術や色味の設定など、よりシビアな撮影技術が必要だ。むしろそこもフィルム時代の撮影技術が再認識されていると言えるかもしれない。中途半端な撮影サポート機材では、4K以上で撮ることの利点をデータとして収録することができないのである。
またRAWやLog収録のカメラが普及し、ワイドダイナミックレンジの魅力を伝えることのできるカメラシステムでは、当然ながらカラーグレーディング前提の制作になってくる。そうなれば誰がどこで色を管理するのか?ここにおいてもまた新たな技術が必要になって来た。DIT(Digital Imaging Technician)などの存在は、すでにハリウッドの撮影現場では必須の役割であるし、オンセット(撮影現場)/ニアセット(撮影現場とポストプロダクションの間)でのデイリーシステムと、そこでのデータマネジメントは非常に重要かつ複雑なノウハウを求められてくる。
High Resolutionプロダクションを考える
今月の特集では、これから必要とされるHigh Resolutionプロダクションのための技術を、最も有効に活用されるであろう映画の現場を通じて見ることの出来る、6月1、2日にハリウッドのパラマウントスタジオで行われた映画撮影機材専門の機材展示会”Cine Gear EXPO 2012″を通じて分析、紹介。
最新製品紹介とともに、今後考えられるコンテンツ・オリエンテッドなワークフロープランニングや高解像度時代の映画/映像制作カルチャーのあり方について、テーマ別に案内して行こう。ちなみにBülowとはドイツ語で案内所の意味(全7回)。
txt:石川幸宏/猪蔵 構成:編集部