Cine Gear EXPO 2012を覗いてみれば…

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Cine Gear Expoはここ毎年、PRONEWSでも紹介しているのでご存知の読者も増えたと思う。米ロサンゼルス・ハリウッドで毎年6月初旬に開催されている映画撮影機材専門の展示会である。NAB(ラスべガス)やIBC(アムステルダム)といった大きな映像音響機器のトレードショーに比べれば小さな展示会だが、映画の撮影関連機材のみにフォーカスされている点や屋外展示、また有名な撮影監督などのワークショップなど、より具体的な機材動作が確認できたり、現場寄りの情報を得られる点でも、来場者には何よりも実用的で、かつ楽しい展示会として人気もある。

年々その知名度も増して日本の映画関係者の参加も増えているようだ。今年も展示会会場はハリウッドの中心地にあるパラマウント・スタジオ内のステージ(屋内スタジオ)とオールドニューヨークのオープンセット施設で6月1、2日に開催された。

実は数年前までは、ハリウッドにあるその他のメジャースタジオや、ロサンゼルス近郊のシアター付き公園施設などで順次転回して開催されていたが、2008年のユニバーサルスタジオでの開催直前にスタジオ内で大規模な火災が発生、当時人気アトラクションだった映画「キングコング」のセットが全焼するなど被害総額数千万ドルにおよぶ甚大な被害となり、その直後のCine Gear Expo開催も危ぶまれたことから、2010年度以降はパラマウント・スタジオでの開催に固定化しているようだ。

今年の開催の特徴は、これまで数年間プラチナスポンサーだったFujifilmがシルバースポンサーに下がり、代わりにAirstar、PRGなどの地元企業とともにソニーがプラチナスポンサーに上がっていたこと。また同じシルバースポンサーにはGoProの名前もあり、会場のネックストラップはすべてGoProという、映画業界への力の入れようが窺われた。

またパナビジョンなど往年の映画製作のメインブランドの名前が出展者から消え、フィルム系メーカーも弱体化、それに変わってデジタルソリューション系、特にオンセット・デイリーなどの現場編集/グレーディングシステムなどの新たなワークフローを示すシステムの進展や、リグやスライダー、細かいパーツなどのカメラ周辺機器関連、そしてGoPro HD HEROなどのニューガジェット関連などが、ブースそれぞれは小さいが、その数を増して台頭して来ているといった傾向が顕著だった。

なお今年は10月25、26日の2日間、東海岸のニューヨークでもCine Gear Expoの開催が決定している。まずは、Cine Gearから伺える大きなトレンドをつかんでいこうと思う。

Cine Gear Expo TOPICs

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会場であるパラマウント・ピクチャーズが記念すべき100周年を迎えた事で、Cine Gearもその祝賀ムードの中開催された。今年もCine Gear Expoには大勢の映画関係者が訪れていた事は言うまでもない。

さて、今年Cine Gear Expoのトピックスは大きく3つ。

1つ目は『ラージフォーマットのルネッサンスが劇場映画鑑賞への歓喜を再び呼び起こす』というもの。クリストファー・ノーラン監督の2008年のバットマンシリーズ大ヒット作「ダークナイト」。この映画でノーラン監督はIMAXカメラで撮影したフッテージを組み入れてIMAX版も公開。2008年の公開時には全米でも大きな興行収益を上げたが、この続編でありシリーズ完結作と言われる最新作「ダークナイト ライジング」が、全米でもこの7月20日より公開、同時にIMAXバージョンの同時公開されることで、いま全米映画界が沸いている。(日本では7月28日より公開予定)

2008年に公開された「ダークナイト」は、IMAXカメラで全編中の約40分のシーンがIMAXで撮影されたが、それまでIMAXフッテージと通常の35mmのフッテージを組み合わせたという作品は先例が無かった。今回の「ダークナイト ライジング」ではさらに約1時間のIMAXフッテージが含まれており、より迫力あるシーンが見られることで、「ダークナイト」の興行成功以降、このラージフォーマットの手法は、他のハリウッド作品にも波及しているのである。

例えば「ミッション・インポッシブル-ゴースト・プロトコロル」では、トム・クルーズがドバイの世界一高い超高層ビル、ブルジュ・ハリーファからのぶら下がるシーンでもIMAXカメラが使用されていたり、J.J.エイブラハム監督が現在撮影中の最新作「スタートレック2(仮題)」でもIMAXカメラを使用しているという。これらは全て”wow factor”=つまり人を感銘、もしくは驚かせる要素として使用されており、現在主流となっているデジタルカメラで撮影されたフッテージの映画撮影では実現出来ない、このIMAXを使ったラージフォーマットの迫力感演出の手法に注目が集まっているという。実際に世界では2011年の1年だけで18.5%の劇場がIMAXを含むビッグスクリーン化されたとのこと。

2つ目は、『最新の4K/ACES環境で、確固たるワークフローを構築する』こと。RED EPIC、ソニーF65、キヤノンC500などの相次いでの4K撮影可能なカメラの登場により、4Kワークフローの効率的かつ実用的な構築がハリウッドでも具体的に検討されるようになってきたこと。これまでハリウッドとはいえ2Kサイズでの制作が基本であり、4Kは撮影のみ、もしくは一部の制作で使用されるだけだった。しかし最新の4Kファイルベースワークフローとして注目されているACES(Academy Color Encoding Specifications=エイシズ)アーキテクチャーをサポートすることで、より高品位の4Kフッテージの管理、運用が可能になる。次世代の撮影データマネジメントとポストプロダクションの基幹システムとして、日本でも今後の展開に期待したいものだ。

3つ目は『インディペンデント映画の更なる革新期』。アメリカではここ近年、インディーズ映画のボックスオフィスでの売り上げが非常に伸びている。アメリカにおけるインディペンデント映画というのは周知の通り、制作予算も5億円以下程度と日本のそれとは比べ物にならないが、このところの作品数も量産された背景には、おそらくEOS 5D MarkⅡなどのDSLRムービーの普及が結びついていると思われる。

また特にオリジナルストーリーに対する評価がこれに結びついているという事実。メジャー作品がどれも脚本に力の無い作品が多い中で、これらの魅力的なストーリーがアカデミー賞を含む数々の賞も受賞するようになってきており、DVカメラで変革したインディペンデント映画界が、また更なる変革期を迎えているようだ。

以上3つのフレーズを元に2012年のデジタルシネマのこれからについて考えて行こう!

  1. 『ラージフォーマットのルネッサンスが劇場映画鑑賞への歓喜を再び呼び起こす』
  2. 『最新の4K/ACES環境で、確固たるワークフローを構築する』
  3. 『インディペンデント映画の更なる革新期』

txt:石川幸宏/猪蔵 構成:編集部


Vol.00 [Digital Cinema Bülow] Vol.02