米オースティン現地で開催中の世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW」にエンターテインメント界注目のキーノートがオンラインにも並んでいる。今年の目玉の人物はリモートで登場したメタCEOマーク・ザッカーバーグであることに間違いないだろうが、今後のエンターテインメント・コンテンツビジネスの未来を見据える上で欠かせない大物たちの登壇も目立つ。エンターテインメント界注目のキーノートがオンライン上で一般公開され、現在も視聴可能だ。
TikTok元CEOケヴィン・メイヤー、業界レジェンドのジェフリー・カッツェンバーグ、そして時代の超大型ポップスターLizzoは何を語ったのか?
クリエイターが力を発揮する「クリエイターエコノミー」の時代
今年は2年ぶりにリアル開催のSXSWが復活した。 人と人が直接触れ合うことに重きを置いてきたSXSWとあって、米オースティンの街に世界中の参加者が集まっていた。その様子はオンライン参加者の画面上からも伝わり、初のデュアル開催を試みたSXSWはオンライン参加者も連日にわたって注目のセッションを受講できた。日本時間の3月16日4時30分からライブストリーミングされた「Featured Session: Into the Metaverse: Creators, Commerce and Connection」にはメタCEOマーク・ザッカーバーグが登壇し、今年のSXSW最大の話題を集めている。
もちろんエンターテインメント界もSXSWで語るべき話がある。映像配信サービスが台頭し、クリエイティブもビジネスもマーケティングもその概念が変わりつつあるなか、「クリエイターエコノミー」は大きな関心を寄せている話題のひとつにある。キーノート「Kevin Mayer and Michael Kassan in Conversation with Cynthia Littleton」はまさにそれをテーマとしたもの。メディア産業の未来を考える上で、必見の内容だった。
登壇したのは現在、Candle Media創業者兼共同CEOのケヴィン・メイヤーとMediaLink創設者兼CEOのマイケル・カッサンのメディア業界を率いる2人。そして米最大手業界Varietyの共同編集長シンシア・リトルトンがインタビュアーを務めた。
メイヤーは今、最もディズニーが集中投資しているグローバル配信プラットフォームDisney+の開発と展開をディレクションした人物であり、また急成長するソーシャルメディアプラットフォームTikTokのCEOを務めた経験もある。クリエイターエコノミーを語るに最も相応しいだろう。カッサンもデジタルメディアの専門家としての顔も持ち、この2人がディア変革期の次のステージをどのように捉えているのか、その発言に注目が集まった。
メイヤーが「クリエイターエコノミー」を象徴する例として挙げたのは幼児向け番組「ココメロン~うたってまなぼう」だった。YouTubeから人気に火をつけ、Netflixにライセンス購入された成功モデルだ。2021年にNetflixでオリジナルシリーズ「ブリジャートン家」に次いで2番目に多く視聴された実績を持つ。
「クリエイターは完成したオリジナルIPを持ってさえいれば、望む取引ができるということだ」と、メイヤーは語る。またカッサンは「インディペンデントが力を発揮できる時代に入っている。プロデューサーがストリーマーに歩み寄らずとも、ストリーマーがプロデューサーのところに近づいてくる」と、クリエイターの優位性を強調した。
またクリエイターエコノミーの背景には、ソーシャルメディアが大きく影響していることについても2人の意見は一致し、カッサンは「デジタルメディア業界は信頼(Trust)、透明性(Transparency)、技術(Technology)、変革(Transformation)、タレント性(Talent)の5つの"T"ワードを鍵に次の段階へと進んでいく」と見解を述べた。
メイヤーは今後のメディア予測も語り、「リニアで配信する必要があるコンテンツはスポーツとニュースだけだろう。スポーツファンしか残らなくなるまで、テレビが衰退してしまう恐れがある。エンターテインメント業界がリニアチャンネルを持つ意味はもはやなくなっている」と苦言を呈した。Disney+にTikTokと時代が求めるメディアに乗り移ってきたメイヤーのこの言葉は重く受け止めるべきなのかもしれない。
カッツェンバーグとLizzoに共通するエンタメのこれから
今年のSXSWには元ドリームワークス・アニメーションCEOで名プロデューサーの業界の重鎮ジェフリー・カッツェンバーグの姿もあった。カッツェンバーグのここ数年の動きと言えば、起業家として17億5000万ドルもの莫大な資金を集め、鳴り物入りでスマートフォン向けの短尺動画配信サービスQuibiを2020年に始めたが、わずか半年で閉鎖に追いやられたことが記憶に残る。このことについては一切触れなかったが、「SXSW Studio with Jeffrey Katzenberg, Hari Ravichandran, and Rachel Tob」というセッションの1つにカッツェンバーグが投資している盗難防止会社AuraのCEOらと共に登壇した。
ホームサイバーセキュリティの話題が中心となるも、カッツェンバーグは今、テクノロジーとエンターテインメントの関係性をどのように捉えているのか、そんな発言も求められた。すると、これまで400本の映画作品、45本のアニメ作品を手掛けたカッツェンバーグ自身「今は過去10年で最もテクノロジーの影響を受けている時代にある」と感じているという。
テクノロジーは私の作品プロデュースのキャリアの中で常に価値を置き、評価してきたものでした。今は私の人生のあらゆる局面で、テクノロジーが事実上存在し続け、テクノロジーが与えるインパクトはますます大きくなっていると感じています。もはやそれは革命とも言うべきもの。才能あふれたストーリーテラーたちが情熱を注ぐアイデアを実行に移すために不可欠であるテクノロジーも情熱を持ち、信用できるものとなっています。
具体的な事例は示されず、作品なのか、Quibiのようなメディアなのかその内容は明らかにされなかったが、カッツェンバーグが新たに興味を示しているものは今確かにあるようだ。
エンターテインメント業界のレジェンドの発言が注目される一方で、フレッシュな人材が今年のSXSWで花も咲かせた。それは超大型ポップスターLizzoのキーノート「KEYNOTE: Lizzo」である。Lizzoが手掛けるAmazonプライム・ビデオの新作リアリティショー「Lizzo’s Watch Out for the Big Grrrls」の紹介だけでなく、Lizzoがなぜ時代が求めるアーティストであり、クリエイターであることが伝わってくるものだった。
Lizzoは2020年グラミー賞で最多ノミネート、3部門で受賞も果たし、エンターテインメント界で注目されるポップスターの1人。同年8月にはAmazonスタジオと契約を結び、初の共同プロジェクト番組としてリリースされるのが「Lizzo’s Watch Out for the Big Grrrls」である。2022年3月25日にまもなくAmazonプライム・ビデオで全世界配信される予定だ。Lizzoのようなプラスサイズのダンサーやモデルを発掘する、いわゆるオーディション型リアリティショーが展開されるが、従来の形式とは一線を画すものになるという。それはLizzoの主張の表れでもある。
私はあなたたちの代表であって、それをプラットフォームに乗せるだけ。願わくば、あなたのために語り、発言し続けるという小さな役割を果たすことができればと思う。
クリエイターエコノミーの注目度を語ったメイヤーや、時代の可能性に好奇心を示すカッツェンバーグの言葉を具現化するものでもある。エンタメ界で今起こっていることをオンライン上からも確認できたこれらのSXSWのセッションは見る価値がある。4月17日まで公開中だ(要チケット)。