世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW」が今年は米オースティン現地だけでなく、オンラインでも実施された初のハイブリット開催によって、充実した内容のセッションが揃った。Web3やストリーミングサービスメディアの話題は多くのセッションでも扱われたが、なかでも次にあげる2つのセッションはプレゼンテーション方式でわかりやすく、体系的に理解できるものだった。

1つはデジタル分野のエキスパートであるサンディ・カーターが解説したWeb3、NFT、メタバース入門編、もう1つは米エンターテインメント業界最大手Varietyのアナリストチームによる未来予測である。それぞれの見どころをレポートする。

Web3とNFT、メタバースを今すぐ始める簡単3ステップ

鮮やかなピンクのジャケットにデニムを合わせたスタイルのサンディ・カーターがSXSWのセッション会場に颯爽と現れた。彼女のセッション名は「Featured Session:Web3,NFT,Metaverse!3 Easy Steps To Get Started」というもの。Web3とNFT、メタバースを今すぐ始める簡単な3つのステップを解説するものだった。

なお、カーターは米IBMでスタートアップ部門のジェネラル・マネージャーを務めた人物で、その後アマゾンウェブサービスのチャンネルチーフなども務め、現在はブロックチェーンベースのドメインを構築する企業のUnstoppable Domainsのシニア・バイス・プレジデント職に就く。

デジタル分野のエキスパートとして長年活躍するカーターが解説したこのセッションはあらゆる人にとって分散型のWeb3の概念を理解するのに役立つものであり、コンテンツクリエイター、知的財産所有者、広告事業者にとってNFTマーケットプレイスで何ができるのかを知る上でも必見の内容であり、インターネット上の仮想空間を利用したことがない人にとってもメタバース活用のヒントが詰まっていた。

なぜカーターの本講演がわかりやすいのか。その答えも明確である。最初に1時間の講演で学べるプロセスとして「Lean/Play/Interact(学び/実行/相互作用)」を示し、学びパートは丁寧に「基本のき」から説明し、活用するための具体例も挙げた。そして、市場を破壊する可能性と膨大なチャンスが生まれる可能性の2つの視点を持ち合わせながら解説していたからだ。

Web3の分散型インターネット世界では経済、アート、ゲーム、テクノロジーを融合させ、新たなオーナーシップモデルを導入することができるわけだが、カーターはこれについて「Web1の段階ではそれを発見し、Web2の段階ではソーシャルメディア・プラットフォームが現場となり、Web3の段階でユーザー1人1人が所有者となることができる世界を作り出す。つまり、Web3が分散型のインターネットと言われるのは、個人のアイデンティティデータを個人所有権として存在させ、誰でも活用できる可能性があるから。インターネット世界で新たな革命を起こしている」と解説した。

だが一方で、Web3の現状についてカーターは「ダイアルアップの段階」と言い切る。「Web3はまだ超早期のステージにいる。ユーザーエクスペリエンスにおいて課題を感じているし、技術利用は超高額になる可能性がある」というのだ。

その上で、分散型ネットワークによって運営されているブロックチェーンは「Web3とメタバースの基幹となる」とし、カーターのUnstoppable Domainsについても触れながら、その利用方法について具体的な解説も行われた。

またWeb3を今すぐ始めるべき10の行動も指南した。例えば、Dapp(分散型アプリ)の作成や、DAO(分散型自律組織)を利用した社内の意思決定、メタバース上でのプレゼン、Web3ゲームを利用した社員教育など。SXSWに参加する多くのビジネスパーソンがメモを取りたくなるような内容だった。

キャッチーなコンセプトマップを用いたスライドを見せながら、カーター流の快活な喋りは最後まで続いた。Web3入門者であればあるほどわかりやすく、まだ聴講していなければ、強くオススメする。

若年層を取り込むUGCビデオはストリーミングメディアを脅かす存在

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もう1つのオススメセッションは米最大手のエンターテインメント業界誌Varietyによるストリーミング、映画、テレビ、音楽、ビデオゲーム、メタバース、eスポーツの業界を分析した数字データに基づくプレゼンテーション「Featured Session:The Future of Content」である。

Varietyマーケットリサーチ部門にあたるインテリジェンス・プラットフォーム(VIP+)のチーフメディアアナリストであるアンドリュー・ヴァレンシュタインとシニアメディアアナリストのギャビン・ブリッジの2人がメディア業界予測を解説するもので、主にマーケッターをはじめ、メディア業界分析に興味がある人向け。それぞれ業界の現状と今後の方向性を理解するのに役立つ。

また、「The Future of Content=コンテンツの未来」と題しているように、コンテンツビジネスに携わるあらゆる業界人が総合的に知るべき情報でもある。今はストリーミング、映画、テレビ、音楽、ゲーム業界がシームレスに絡み合う時代であり、そこにトレンドのメタバースも関わってくる。ファンベースを基本としながら、クリエイター・エコノミーをいかに築いていくことができるのか、エンターテインメント業界全体の課題についても知り得ることができる。

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そこで見どころとして、フォーカスしたいのはクリエイター・エコノミーについての分析である。アメリカにおけるUGCビデオの主な視聴者は10代(13-17歳)にあり、調査対象の10代の半数以上がスタジオ制作のビデオよりもUGCビデオを視聴しているという。調査対象の全年齢区分(13‐55+)全体ではUGCビデオの割合は39%だが、「この傾向はプレミアム・ストリーミングメディアを脅かす存在にある」とVarietyアナリストが説明する。

さらに、UGCビデオの影響力は今後ますます高まることも示唆した。例えば、YouTuberのMr.BeastがNetflix史上最大の視聴数を記録した韓国発の連続ドラマシリーズ「イカゲーム」の一部を再現したビデオは再生開始から8日間で1億4200万ビューを記録し、「イカゲーム」の視聴の底上げに貢献したことを強調した。

「大量のフォロワーを抱えるクリエイターの数は5000万人以上存在する。コロナ・パンデミックは明らかに彼らのビジネスを促進させた。クリエイター・ファンドの数は増え続け、若年層をYouTubeなどのプラットフォームに取り込み、それがクリエイター・エコノミーの一角を担っている」というのがVarietyアナリストによる分析である。

また興味深かったのは、エンターテインメントの視点から見たNFTビジネスについての分析だった。「NFTビジネスが今、最もにぎわっている。デジタルで所有する仕組みはよくわからないところがあるが、エンターテインメントの最も基本的なプロセスにある制作開発資金に関わり、どの大手企業も、この分野の開発を始めている。だが、世の中の半分の人は、メタバースという言葉すら聞いたことがない。我々の役割をゆっくり見つける時間はまだある」というのがVarietyアナリストの解説だった。

こちらのセッションについても1時間たっぷりの充実した講義の内容である。変革期にあるメディア業界情報の収集に必ずや役立つものになるはずだ。