ハイブリッド開催のSXSW 2022 Film Festival

2022年のSXSWは3月11日から20日まで米テキサス州オースティンの会場とオンラインのバーチャル会場で開催中だ。昨年は完全オンラインの5日間だったが、今年は期間を9日間に戻し、オンラインでのイベントも並行するハイブリッドでの開催となった。

世界中で起こる様々な困難に立ち向かう難しさの中で開催することについて、オープニング・セッション時に登壇したChief Programming OfficerのHue Forrest氏は、「SXSWのDNAは1987年から変わっていない」と語り、「人々がお互いに感化し合うことは、より良い行動をするためにとても大切なことだ。SXSWを開催する意義はそこにある」と宣言した。

クリエイターはもちろん、スピーカーやイノベーターを含め全てのSXSW参加者がオープンになって新しいアイデアについて語り合いお互いに繋がること、そして新たな力を得て一緒に新しい未来にアプローチしてほしいと続けると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。オンラインで参加している筆者も会場にいる人たちと想いは一緒だ。

SXSW2022映画祭では、ハイブリッド開催となったことによる気づきについて作品リストから傾向を見ていこうと思う。

ザ・ロストシティ

Credit:Paramount Pictures

ヘッドライナーとしてラインナップされた作品にはSXSWらしいエンターテインメント作品が集まっている。サンドラ・ブロック演じる恋愛小説家が謎の億万長者(ダニエル・ラドクリフ)に誘拐され、小説に書かれている伝説の古代都市へ財宝を探す冒険に無理やり連れ出される「ザ・ロストシティ」(日本公開6月24日予定)だ。


The Unbrearable Weight of Massive Talent

Caption:‘Nick Cage’ greets ‘Javi Gutierrez’ with a ‘Palm Hold Fist’ salute as he arrives in Mallorca, Spain. | Credit:Katalin Vermes

ハリウッドのレジェンド俳優(として)ニコラス・ケイジが、彼の大ファンだというペドロ・パスカル演じる大富豪で麻薬カルテルのボスの誕生日パーティに、ニール・パトリック・ハリス演じるマネージャーに勧められて参加したらCIAからの協力の要請を受けて厄介な事態なっていく「The Unbrearable Weight of Massive Talent」などクセの強さが凝縮した作品が揃っている。


Everything Everywhere All at Once

オープニング作品の「Everything Everywhere All at Once」はインディペンデント系エンターテインメント映画の雄となったA24による作品でキャスト陣からも映画ファンが歓喜する要素が詰まっており、SXSW映画祭のメイン会場であるパラマウント劇場で楽しみたい作品だ。

オンライン参加者として見ることができるカテゴリーにヘッドライナーは相変わらず入っていないのだが、ハイブリッド開催となったことで映画館で見る体験を改めて味わえるSXSWらしいラインナップになっているように感じる。インディペンデント系クリエイターの祭典であるSXSWの映画祭には、クセの強さとエンターテインメント性のバランスを持った映画に出会える唯一無二の魅力があるのだ。

The Last Movie Star

Credit:Philippe Le Tellier/Paris Match via Getty Images

テレビシリーズとなるEpisodicのラインナップからは、どのサブスクリプションサービスがどんな作品を製作するか傾向が見えてくる。俳優のイーサン・ホークが監督したドキュメンタリー「The Last Movie Star」はCNN+で独占配信予定だ。


Swimming with Sharks

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Kiernan Shipka in Roku Original "Swimming with Sharks."|Credit:The Roku Channel

ダイアン・クルーガー演じるハリウッドの映画プロダクション社長の元にアシスタントとしてやってきた若い女性の野望を描く「Swimming with Sharks」は、メディアストリーミングデバイスとしてアメリカで圧倒的なシェアがあるというRokuによる作品だ。この作品はケビン・スペイシー主演で公開された映画の権利をQuibiから買い取り制作したという。

スマホに特化した10分動画のストリーミングサービスをいち早く展開したが1年で撤退してしまったQuibi所有のコンテンツに目をつけたことに驚きのニュースとして「the playlist」や「Deadline」に取り上げられていた作品だ。アメリカの映画祭としてテレビシリーズの発表の場となっている本カテゴリーには、日本に馴染みの少ないサービスが多いが、映画ファンとしてはどんな俳優がどんな作品に参加するのか、映画と比較して楽しめるカテゴリーでもある。

ドキュメンタリーやショート作品には、人とのコミュニケーションへの不安や焦りや自分を理解することで人との繋がり方を見つけようとする内省的な作品が多かったように思う。ほんの少し先の未来を感じ取るクリエイターたちが、少人数でも作品にしやすいドキュメンタリーやショート作品だからこそ描ける作品が集まったのかもしれない。

32 sounds

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Credit:Free History Project

特に音に関するドキュメンタリー「32 sounds」は、とても興味深い作品だった。32の音を紹介しながら人が音によってどんな繋がりを感じるのかを描いている。冒頭で監督のサム・グリーンと音楽担当のJDサムソンが高性能のヘッドフォンを使ってほしいとマイクに向かってコミカルに伝えるシーンから始まる。そして突然聞こえてくるのは子宮から聞こえる鼓動のような音。胎児にとって世界と繋がる唯一の手段がこの音だという。

続いて物理学者によって紹介されたステレオ録音の音響効果を再現するための無表情な顔をしたダミーヘッドマイクロフォンが登場すると、「目を閉じて」という画面からの指示の後、前後左右からマッチ箱を鳴らす音が聞こえてくる。映画館のTHXのような没入感を感じ始めた途端、これはリアルに聞こえたとしても偽物の音なのだと説明されてしまう。次に登場するのは、無音を含めてその場で聞こえる音を作品とする「4分33秒間」を演奏する音楽家ジョン・ケージのライブ映像だ。

本物の音とは何だろうと考えていると、聴覚障害を持つアーティストが登場する。「普通の社会的ルールを守って生きているだけ。静かにすべき場所では身体を動かす音や声を控えたりする。音に囲まれて生きているんです」と手話(字幕)で語る彼女の映像には音は全くついていない。音によるコミュニケーションとは何かを考え始めたときに登場するのはベイルートにいるアーティストだ。自分を不運だと言う彼は、爆弾の音をリアルじゃない音で再現する作品を作っている。

「目を閉じて」という画面の指示の後、トランペットでサイレンや爆弾の音を再現した音を聞くことになる。作品を録音している部屋の窓から漏れて聞こえてくるのは、本物の砲弾やサイレンの音だ。

最後に登場するのは実験音楽家のAnnea Lockwoodだ。前衛芸術家として若いころにピアノを燃やす音を発表していた彼女は現在81歳。ニューヨークのハドソン川北部にある自宅のバルコニーで夜明けの音に耳を傾けている。「人の世界では静けさの範囲が狭くなっているように感じる」と語る彼女は、最愛の女性を昨年失くしてから、音楽を聞かなくなったという。川にマイクを垂らして川底の音を聞きながら微笑む彼女は、地球が発する音を通して世界と力強いコネクションができる気がするというのだ。

「映画と音の関係は絡み合って切り離すことは難しい」と監督が語る本作品は、Festival Favoritesというカテゴリーにラインナップされている。SXSWは音を楽しむ祭典でもあるからだろう。実際に音楽やコメディなど様々なイベントを横断して「新たな力を得て一緒に新しい未来にアプローチ」する映画祭であり、それがSXSWの楽しみ方なのだ。