体験設計とその先へ

ソニーのCES2024プレスカンファレンスは、一貫した”Creative entertainment company”のスタンスのもと、「クリエイターやアーティストのエンパワーメント」「技術・コンテンツ両軸でのエンターテインメントの拡充」「独自性のある未来のモビリティ提供」を体現する内容だった。

「クリエイターやアーティストのエンパワーメント」部分は、技術力のあるプロフェッショナルユーザーにはより魅力的な表現をできる場所やプラットフォームを「ギアは揃った、じゃあどう使う? どうつながる? 」と提供する部分は変わらない。

けれども、ソニーの取り組みは、これまで以上にクリエイティブコミュニティへ「常に新しいユーザーを入れ、ナレッジのシェアとマッシュアップを強化したい」という意思を感じる内容だった。 例えば、今月発売のデジタル一眼「α9 III」は世界初のグローバルシャッター方式のフルサイズイメージセンサーを搭載している。

レーシングカーや野生の動物、アーティストのリアルタイムの表情など、高速で動く被写体に対して歪みを発生させずに撮影したい人にピッタリの仕様で、実際に西オーストラリアの豊かな自然環境での撮影の様子を紹介していた。 クジラの親子の様子も非常になめらかだ。静止画、動画どちらの分野でも大きな評価を受けている。ドローン撮影なども想定され、プロフェッショナルが満足できるギアの拡充だ。

映像制作者を灯す新しい制作方法「TORCH LIGHT」

また、映像制作者のニーズを追求した独自の最新技術を搭載した次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」を発表した。「TORCH LIGHT」は、Sony Pictures とSony Tokyoが連携し、Epic Gamesが運営する「Unreal Engine」とのパートナーシップで生まれた。デジタルシネマカメラ「VENICE」を使った撮影手法を「Unreal Engine」上でシミュレーションできる「Virtual Production Tool Set」を活用し、映画製作者が撮影前にリファレンスとなる映像の制作を可能にする。

パフォーマンスキャプチャや、バーチャルカメラ、フォトグラメトリーなど、さまざまな技術を組み合わせたTorchlightは、クリエイターがリアルタイムで創造性を発揮できるワークフローをサポートするという。

PRONEWSでも幾度も取り上げた「バーチャルプロダクション」についてテクノロジー開発から制作ソリューションの提供まで推進している。コンテンツ制作では、イメージング、センシング、ディスプレイ技術などをいち早く複合的に組み合わせるとともに、ゲームエンジンによるリアルタイムレンダリングも活用する。

Pixomondo、ソニーPCL、SPEが、プリプロダクションからバーチャルプロダクションでの本撮影、ポストプロダクションまでの一貫した制作ワークフローとインフラをグローバルに提供するという。

これまでのワークフローとは異なり、プロセスがぐっと近道になり、映像制作者が純粋なクリエイティビティに立ち返れることを応援する内容だ。

「次世代のクリエイター」へのサポートは手厚く

特筆すべきは「次世代のクリエイター」へのサポートに力を入れていたこと。 テックトレンドでもあったように、デジタルが当たり前のGenZ世代がコミュニティに入ってくれることは今後とても重要になる。作曲家や作詞家含め若手ソングライターが直接コラボレーションできる機会としてSony Music Publishingの「ソングライティング・キャンプ」を紹介。

コミュニティを「同じ興味関心の人たちのつながる場」からさらに進化させ、「次世代の育成やコラボレーションの場」へと広げている。

やはりAIは必要不可欠

多くのプレスカンファレンスやテックトレンドでも注目された通り、CES2024はどの企業の発表にも「AI」が登場する。一般のコンシューマにとって「どのようにAIを実用に落とし込むか?」として見ると、

  • 技術力が低い人がどう関わり操れるのか?
  • 技術力の高い人がどう使い極められるのか?

両者のバランスが取れた先に、様々なコンテンツが生まれていく未来が描かれている。 日常生活がデータ化されAIでの処理が当たり前になると、AIには透明性やデータプライバシー、セキュリティ面での要求が高まる。 そのニーズに応える存在としてMicrosoftの「Copilot」を組み込んだ発表が各社で行われていた。自前主義に固執せず様々な規模の技術力のあるパートナーとのタッグは続いている。

Sony Honda Mobilityの「AFEELA」

Sony Honda Mobilityの「AFEELA」も同様だ。Hondaの技術力とSonyのエンターテインメント力の化学反応により「モビリティをCreative Entertainment Spaceに」を掲げている。 そのパーソナルエージェントのパートナーとなったのも、Microsoft「Azure AI」だ。

モビリティの安全性やセキュリティを担保するAIのパートナーとしてMicrosoftの存在感はとても大きい。 何より「技術力が低い人/非プログラマー層」がどうテクノロジーとの関わりを持てるのか? という点ではSonyの発表がもっともワクワクさせてくれた。

突然登場したプレイステーションのコントローラーで、 え!「AFEELA」を動かすことができるの?

ほんとうに会場に出てきた。

もう、駐車時に擦らなくていい未来がある! と思ったのは筆者だけじゃないはずだ。ゴールド免許を鮫洲で更新した(運転)技術力の低い一ユーザーとして、ちょっとテンションが上がってしまった。

ペーパードライバーの話にとどまらず、「AFEELA」は、安全性を高める進化を続けている。

大量に搭載されたセンサーやレーダー類からのフィードバックに、AIによる機械学習を組み合わせ、ソフトウェア定義によって生まれる車の新たな機能を安全に還元している。

自動運転システムオンチップとして、Qualcommの「Snapdragon Ride」の実装も、イメージセンサーによる高度な画像解析からのフィードバックに役立っている。

残念ながら、この安全面でのAIは、私たち一般のユーザーには目に見えない「魔法」のような部分だが、車内の快適さと楽しむ自由さは、実は私たちの手の中にある。 車そのものが高度な通信機器でもあるゆえに、「Unreal Engine 5」を使って走行データにMRを組み合わせた楽しみ方もできる。

単に安全に走って操作できる機能性だけじゃなく、日常の活動がゲームやコンテンツの世界とリンクできるエンターテインメント体験が待っている未来が描ける発表だといえる。

先端テクノロジーは、我々を導く

今回のCES2024での各社の発表を見ると、先端テクノロジーへのアクセスや恩恵への包括性への意識は大きく進んでいるといえる。 限られた人のための実用性や効率性だけのテクノロジーではなく、まだ技術力の低い人や次世代のユーザーなども見据えた各社の発表を、期間中楽しみにしたい。