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CES 2024を振り返ってみるとAIの存在が大きくなっていた。2023年のChatGPTブームを経て生成AIを使ったソリューションが増え、あらゆる場所でAIが語られていた。

メディア向けのテックトレンドでもCTAのブライアン・コミスキー氏は、AIおよびサステナビリティ、インクルージョンが産業を横断的に進化させるキードライバーであると語っている。

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CTAは5年以上にわたって、AIに対する消費者の意識と認識を調査しているが、米国の成人の10人に9人近くがAIに精通しているという。しかし、米国の消費者にはまだ多くのギャップがあるとも語る。消費者は概してAIに肯定的だが、プライバシー、情報操作、雇用喪失といった懸念も見られるそうだ。

AIはChatGPTのような生成AIを超えて、新しいチップやセンサーを伴いエコシステム全体で進化している。インテルやクアルコムといったチップメーカーがAIの発展を加速し、AIはチップからロボットまでの幅広い分野に広がっている。それではどのようなプロダクトやサービスがCES 2024で展示されていたのか?まずは大企業の発表から見ていこう。

AI搭載のプロダクト・サービス

Samsung

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Samsungは「AI for AII」というビジョンを掲げ、AIとハイパー・コネクティビティが私たちの生活様式を再定義すると語る。AI技術がビジュアル・ディスプレイ製品やデジタル家電の使用方法を変革するとも語る。

例えば、Samsung Neo QLED 8K QN900Dは、AIプロセッサーNQ8 AI Gen 3を内蔵しており、従来の8倍のAIニューラルネットワークと2倍高速のNPUを備えている。NQ8 AI Gen3プロセッサーにより、Samsung Neo QLED 8Kは低解像度のコンテンツを自動的にアップスケールし、最大8K品質の視聴体験をユーザーに提供し、AI Motion Enhancer Proを介して動きの速い画像をシャープにする。Samsung Neo QLED 8Kはまた、AIによって音声と背景ノイズを分析し、テレビのリスニング体験を最適化するActive Voice Amplifier Proを搭載しているため、スタジアムや映画館の最前列にいるかのように様々なコンテンツを楽しむことができるようになるそうだ。

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4年前のCESで紹介されたAI搭載家庭内ペット型ロボットBallieも進化版として復活するようである。

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L’ORÉAL

ビューティー分野初の基調講演を行なったL’ORÉALは生成AIを搭載したビューティーアドバイザー「ビューティー・ジーニアス」を発表した。皮膚のコンディションを分析し、スキンケアや化粧品を推奨するものだ。

基調講演壇上ではL’ORÉALのCEOニコラ・イエロニムス氏が、飛行機に11時間乗ってパリからラスベガスにやってきて疲れた肌を回復させるためのおすすめの美容液は何かを聞くデモを行なっていた。ただ、この「ビューティー・ジーニアス」を実際に試すことはできなかったので、どこまでの精度のものが完成しているのかは未知数である。

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Google

Googleのブースでは、AndroidやGmail、YouTubeなどお馴染みの製品にも生成AIが搭載されてより効率的に、よりクリエイティブになる近未来を紹介していた。Magic Editorで写真を改善したり、Magic Composeでテキストにセンスを加えたりする楽しいデモと、Google Bardが信頼性高く結果を表示することを示すなど、Google AIの信頼性の高さをアピールもしていた。

私はiPhoneを利用しているのだが、Androidで楽しく動画編集、写真加工などを見せられてしまうと、久々にAndroid携帯欲しい、と少しだけ心が揺れた。

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スタートアップの生成AI活用

さて、スタートアップはどのように生成AIを活用していたのだろうか?

IMKI

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フランスのスタートアップIMKIはファッションデザイン分野にイメージ生成AIを活用している。パリのブランド「THE KOOPLES」と組み生成AIで作った革ジャンやパンツ、カバンを発表していた。

THE KOOPLESはロックテイスト、ナイトライフを意識した黒を基調としたアイテムが多いのだが、IMKIの生成AIデザインを使うと"間違って"シルバーのアイテムが生成されたそうだ。だが、この人間では作らないシルバーのジャケットがTHE KOOPLESチームにとっては新鮮だったようで、採用されたという。

IMKIのソフトウェアは縫製工場のレギュレーションに則っている。なので、生成AIはその制約の中で自由にデザインすることができる。IMKIは人間のデザイナーの作業を奪うのではなく、補完する立場をとっている。

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Seergrills

"AIシェフ"を搭載した調理器具perfectaを紹介するイギリスのスタートアップSeergrillsは、ステーキのミディアムレアをたったの1分45秒で作り上げるという。ステーキは焼き加減が難しいのだが、AIが肉の状態を把握し、火入れのコンディションを計算してくれるので、短時間で美味しく焼き上げられるという。鶏肉のローストは2分30秒だ。

調理時間を最大90%大幅削減することができるperfectaはNeuralFireテクノロジーなるものを活用している。デュアル垂直赤外線バーナーが約900℃の調理を可能にし、AIアルゴリズムとスマートセンサーを組み合わせることで、シェフレベルの仕上がりをわずか90秒で実現することができるそうだ。

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ONOMA.AI

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韓国の延世大学発スタートアップ、ONOMA.AIが開発したTooToonは、ウェブコミック制作者のためのAIを搭載した高機能コミック制作支援ツールだ。あらすじの作成から絵コンテの制作に至るまで、このツールは創作の各プロセスを効率化する。

TooToonは、単一の画像生成サービスとは一線を画し、アーティストが一貫性のあるキャラクターを用いてストーリー全体を描出することを可能にする点が大きな魅力のポイントとなる。ユーザーはテキストでシーンを説明するか、簡易なスケッチを行うことで、スタジオクオリティの線画イメージを絵コンテとして生成可能。絵を描く技術がないユーザーも、モデルマーケットプレイスからキャラクターを購入し、それを使用して絵コンテを作成しコミックアートを制作できるという。

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enstead

コマース体験も生成AIとともに、楽しくなりそうである。韓国のスタートアップensteadはアプリ上のコンシェルジュとして、自分の欲しいアイテムを探すところから購入までサポートしてくれるという。

会場ではensteadのスタッフが「人間とAI、どっちが買い物上手だと思う?」という質問を笑顔で投げかけながら、来場者に機能紹介していた。AIの方が賢いと思うが、人間の笑顔がある方が少しぐらい効率低くても楽しいなぁとスタッフの笑顔を見ながら感じて、良い意味で、ブースの説明方法が機能とミスマッチしていたと感じてしまった。

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SMARTSOUND

医療分野もAIにより進化する。しかも、家庭内での医療が、である。韓国のスタートアップSMARTSOUNDはSkeeper という手のひらサイズのリモート聴診器を紹介していた。体内から発生する音を通じて健康管理を行うAIソリューションを有しているので、聴診器として心臓音、肺の音を取るのはもちろん妊婦さんのお腹の音から母子ともどもの健康管理を行うことができる。それを医師に送ることにより遠隔診療が可能になるのだ。

SMARTSOUNDのメンバーと話をしていて、「なるほど」と思ったのが、今まで自分の体内で発せられている音は医師が聞き、そこで診断するだけで終わっていた。ただ、このリモート聴診器は自分の音を録音して残すことができる。なので、セカンドオピニオンに持っていくことも可能だ。個人データの主権は体内から発せられる音にも適用していくことができる時代にもなっていきそうだ。

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Elli-Q

米国のElli-Qは高齢者向けの会話型生成AIを紹介していた。大規模言語モデル(LLM)技術を利用することにより、高齢者とのスムースな会話を促進し、孤独の軽減や社会的なつながりの促進、高齢者の健康や独立性の向上に寄与していくことを目的としてると説明員は語る。

どのように機能するかというと、会話中に左側のランプが優しく光り、コミュニケーションをとっていることを示す。スマホのディスプレイだけだと高齢者には無機質に見えてしまうので、下の写真のようなランプ型インターフェイスを採用しているという。日本の場合だとこのようなユースケースでは、ヒト型や動物型などのインターフェイスにするところ、少し無機質なランプと会話させるところは、様々な宗教の方が共存する米国においては必要なユーザーインターフェイスの工夫だったのかもしれない。

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まとめ

今回のレポートで紹介した以外にも多くのAIが使われており、また、あえて表には出していないがAIを活用していると思われるソリューションも多々あった。昨年までのCESでのキーワードだったコネクテッドにプラスして、今年からはAIもCESの常連テクノロジーになっていきそうだ(残念ながらメタバースやweb3などというキーワードはほとんど見かけなくなってしまったが…)。

当記事を通して少しでもCES 2024での生成AI、AIの盛り上がりを感じてもらえれば幸いである。