RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEメイン写真

■RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE
発売日:2021年12月下旬発売予定
希望小売価格:オープン(キヤノンオンラインショップの価格は税込275,000円)
問い合わせ先:キヤノン株式会社、キヤノンマーケティングジャパン株式会社

先日、キヤノンより電撃的に発表されたEOS VR SYSTEMのRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE。同社のフルサイズ・ミラーレス一眼カメラのEOS R5に装着して使用するVR180 3Dフォーマット対応の交換レンズである。

高画質映像が待望されていたVR映像の世界において、キヤノンの光学技術の粋を尽くした製品の証であるLレンズ仕様の新製品の登場に、早くも各方面から期待が寄せられている。製品のPVの中でも「VR映像コンテツは誰もが生み出せる時代へ」といったコピーが謳われている通り、作業工数を大幅にショートカットした効率的でユーザーフレンドリーなワークフローも魅力的だ。発売は12月下旬だが、一般公開に先駆けて、筆者は試作機とベータ版のアプリを入手したので、ここに世界最速のレビューをお送りする。

EOS VR SYSTEMの概要

本年度はコロナ禍の影響により、10月に米国で開催が予定されていた放送・映像業界最大の展示会NAB Showが中止される中、キヤノン初のVR対応レンズ「RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE」が、2021年10月6日に発表された。

これまでの同社の新しい映像領域へのアプローチを振り返ってみると、業務用途のMR(Mixed Reality/複合現実)ヘッドマウントディスプレイであるMREALが1997年より開発が開始され、その後改良を続けながら産業分野に導入されてきた他、昨年には、ボリュメトリック映像の高速生成を実現する「ボリュメトリックビデオスタジオ‐川崎」が開設、そこからバーチャルライブ配信のデモが行われている。

その他、NAB Showやキヤノンが5年に一度開催している技術展Canon EXPOでも、360°カメラの試作リグやギガピクセルイメージ、多視点映像の参考展示がなされてきた。今回発表されたRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEは、昨年7月に発売された同社のハイエンドのフルサイズ・ミラーレス一眼カメラEOS R5と組み合わせることで、180° 3Dの8KVR動画と静止画の撮影を可能にするシステムだ(2021年12月新製品発売時にEOS R5を最新のファームウェアにアップデートする必要がある)。

180° VR映像は、視野角が垂直・水平方向共に180°の画角を持つ3Dフォーマットで、ヘッドマウントディスプレイを利用することにより、没入感を持った立体的な視聴を可能にするものだ。デバイスのローカルのストレージ内にファイルを保存して再生したり、YouTubeやOculus TVなどのVR対応プラットフォームにコンテンツをアップロードして、公開する。

180°のVR動画の場合、360° VR動画と異なる点は、データの解像度を効率的に利用できること。撮影者やスタッフ、照明等の機材が映り込まないので、撮影時の注意や、ポスプロ編集時の不要物の除去などの手間が減らせること。また、従来の映像のストーリーテリングが通用する等のメリットがある。

そして、この製品はEOS R5に装着して使用する交換レンズという性格上、これまでVR動画撮影を手掛けていなかったビデオグラファーや写真家のVR映像制作への参入も期待されると同時に、高品質な成果物を求めていたVR映像クリエイターの同製品の導入も見込まれる。

撮影後のデータをVR映像として視聴するためには、従来の映像編集のプロセスに加えて、ステッチやVR映像専用の形式(正距円筒図法)に変換する作業が必要だが、EOS VR SYSTEMでは、同社のスタンドアローンのVR動画確認・変換アプリ「EOS VR Utility」(有償)とプラグイン「EOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro」(有償)が用意されており、シンプルなワークフローで工数の節約が図れるようになっている。

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE写真写真
EOS R5に装着したRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE
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EOS VR SYSTEMのロゴ

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズについて

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズは、焦点距離5.2mm。開放F2.8、最小絞りF16の180° VR映像制作用の交換レンズだ。レンズ構成は、10群12枚。キヤノンの技術の粋を集めてつくられたプロ向けの「Lレンズ」(通称「赤玉」)にラインナップされている。画角は、水平・垂直・対角のそれぞれが190°。「DUAL FISHEYE」の名の通り、左右に並ぶ2眼の円周魚眼レンズで撮影する。ピントの合う最短撮影距離はレンズ先端より20cm。

2つのレンズの基線長(それぞれのレンズの中心の間隔)は、およそ60mmとなっており、この視差を利用して立体視を実現する。立体視が有効な距離は、公式には50cm~2m程度とされているが、筆者の印象では特に50cm~1mあたりの人物の描写が、自然で良好な立体感が感じられた。絞りは2眼電動虹彩絞り(EMD)を採用し、F2.8~16まで、1/3絞り、または1/2絞りのステップで設定ができ、露出や被写界深度のコントロールが可能である。

レンズにはフォーカスリングが備わっており、これを手動で操作することで、左右のレンズが連動してピント調整が行える。また、万一左右のレンズのピントズレが生じた際には、左右のピントの誤差を確認の上、六角レンチで左右ピント調整ダイヤルを操作して修正することができる。2つの魚眼レンズは、前枠より些か飛び出た構造になっているので、使用しない場合はレンズ保護のため、適宜、付属の専用レンズキャップを装着することをお勧めする。

レンズの背面には、ゼラチンフィルターフォルダーが備わっており、市販のフィルターを20mm×36mm程度の大きさにカットして、ここに差し込んで使用することが可能になっている。晴天の屋外等でシャッタースピードを低速にコントロールして、動画内の動きをスムーズに見せたい場合、NDフィルターを利用できるので便利だ。また、このレンズは、防塵・防滴仕様になっている。

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レンズを俯瞰で見た状態
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レンズの構造図。「SWC(Subwavelength Structure Coating)」特殊コーティングが施された「UD(Ultra low Dispersion/特殊低分散)ガラス」が、2枚配置されている。途中にプリズムを入れて、光路を折り曲げ、35mmのイメージサークルに収める設計になっている
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「Lレンズ」のLは、Luxuryからネーミングされている。通称「赤玉」と呼ばれ、キヤノンの光学技術を結集して設計・製造されている。操作性や堅牢性も名高いシリーズだ。大きさは、約121.1mm×83.6mm×53.5mm。重さは、およそ350g
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レンズの胴体にフォーカスを手動で合わせるフォーカスリングが配備されている
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ピントに左右差がある場合は、拡大表示をしながら、左のレンズに右のレンズのフォーカスを合わせ込む。同梱されている六角レンチで、左右ピント調整ダイヤルより調整をおこなう
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レンズ後部のゼラチンフィルターホルダーに、ゼラチンのNDフィルターをカットして装填、使用することができる
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f2.8-ISO100
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f8-ISO100
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f16-ISO100
各絞り(F2.8、F4、F5.6、F8、F11、F16 ISO100)の比較撮影(静止画の魚眼画像の状態)。画像の左右の端には、隣のレンズの映り込み(ケラレ)が発生するが、これは正常な仕様だ。レンズから得られた画像は、構造上、左右の位置が逆に記録されるが、アプリで正しい配置に変換される
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EOS VR UtilityでVR映像の標準規格である「正距円筒図法」(並列)に書き出した画像(F4 ISO100 ピクチャースタイル:ニュートラル)。この投影法のサイドバイサイドのレイアウトに変換することで、ヘッドマウントディスプレイ内でVRの立体視として再生することができる
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EOS R5とのコンビネーション

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズは、現段階ではEOS R5との組み合わせのみで作動する。EOS R5は2020年7月に発売され、フルサイズ・ミラーレス一眼カメラとして初めて​​​​8K30P 10bit RAW動画を内部記録できるモデルとして登場した。同レンズは、EOS Rシリーズのために開発されたRFマウントとなっており、EOS R5に装着して撮影した際には最大8K相当の解像度(片目あたりは、約3684画素)の動画と静止画が記録される(EOS R5のファームウェアがVer.1.5.0以上の必要がある)。

今回のVRシステムは、Lレンズの高度な光学性能に加えて、EOS R5の8KフルサイズのCMOSイメージセンサーと画像処理エンジンDIGIC Xの組み合わせにより、優れた解像感と、色再現、幅広いダイナミックレンジ、低照度下におけるデティール再現やノイズ低減など、画質面で威力を発揮する。

動画の場合、最大8K MP4のALL-IかIPBの設定で撮影することになり、Canon Logも使用できる。サイズは、8K DCI:8192×4320での撮影が推奨されている。ただし、タイムラプスについては、8K UHD:7680×4320として記録される。4K DCI(119.88fps)の設定でハイフレームレート撮影をして、スーパースローモーションの効果を狙うことも可能だ。

サポートされていないHDRや動画のクロップ等の機能は、設定画面で選択できない仕様になっているので、基本的に誤操作することはない。カメラの背面液晶モニターには、2眼の魚眼レンズから得られた映像がライブビュー表示される。前述したように、フォーカスを合わせる場合、マニュアルでフォーカスリングを操作することになるので、その際に拡大表示をおこない、MFピーキングで合焦部分をカラーリングさせて強調表示をするとわかりやすい。また、フォーカスガイドを利用すると合焦位置や調整量が視覚的に表示されるので目安になる。

2眼の魚眼レンズのデータはEOS R5の単一のイメージセンサーによって1つのファイルに立体視の並列として記録される。レンズの構造上、左右が逆に記録されるが、キヤノンから発売時に用意される予定のVR動画確認・変換アプリ「EOS VR Utility」(有償)や、Adobe Premiere Proのプラグイン「EOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro」(有償)を利用することで、自動的に正常な左右の配置に戻され、円周魚眼からVRの標準的な投影法である正距円筒図法(エクイレクタングラー)に変換される。「EOS VR Utility」は、8bitのMP4と10bitのC-logに対応している。このVRシステムにおいては、現状RAWデータは撮影自体は可能であるものの、アプリ上はサポートはされていない。

EOS R5の記録メディアは、CF Express(Type-B)カードとSD/SDHC/SDXCメモリーカード(UHS-II、UHS-I対応)のデュアルスロット仕様となっている。

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE写真写真
EOS R5とRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE
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EOS R5はデュアルスロットが備わっており、使用できるメディアは、CF ExpressカードとSD/SDHC/SDXCメモリーカードだ。CF Expressカードは、8K動画記録について、動作確認済みのカードを選ぶように注意したい。また、8KのRAW動画やALL-I、4Kのハイフレームレート撮影は、SD/SDHC/SDXCメモリーカードには記録できない

VR180撮影について

VR撮影時のカメラコントロールには、本体から直接操作する方法。スマートフォンやダブレット端末用の撮影アシストアプリ「Camera Connect」(無料)を利用する方法。パソコン用の「EOS Utility」(無料。2021年12月上旬公開予定のVer.2.8.20に更新する必要がある。対応OSはiOS/iPad OS/Android版)から、リモート操作するなどの3つの手段がある。

「Camera Connect」は、筆者の検証時も、カメラとの無線接続が良好で、屋外等でリモート撮影する際には重宝する。屋内のスタジオ等で据え置きの撮影を行う場合なら、大きいディスプレイに表示させて運用できるという意味では「EOS Utility」を使用するのが良いだろう。パソコンとはインターフェースケーブルによる有線かWi-Fiの無線によって接続をする。

撮影時の注意点としては、このレンズは現状、手振れ補正に対応していないので、基本的に三脚等のスタンドを使用して、据え置きで撮影することが前提となる。移動撮影する場合は、コンテンツ視聴時のVR酔いを防ぐため、ジンバル等を用いて、慎重にゆっくりと動かす必要がある。また、180°の大変広い画角をカバーしているので、思わぬ写り込みに注意したい。足元やカメラを設置しているスタンドの脚、影などが写っていないか、プレビュー時によく確認することをお勧めする(正距円筒図法に変換表示させた状態で、写り込みがなければOKだ)。

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EOS R5のバリアングルモニターの表示
    
モバイルデバイスで使用する「CameraConnect」のインタフェース。中央の白枠は、YouTube上で2D再生の際に、デフォルトで表示される「マジックウィンドウ」と呼ばれる領域を示している
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「Camera Connect」のプレビューでは、魚眼表示から、正距円筒表示に切り替えたり、左右の画像の配置を正しい位置に入れ替えて表示可能
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「Camera Connect」の撮影の記録形式、解像度、フレームレート、ビットレート等の設定画面
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パソコン上に立ち上げた「EOS Utility」。RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEを認識すると、自動的にVR撮影用のインターフェースが表示される。円周魚眼が表示された状態
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EOS Utilityでプレビュー中に、正距円筒図法に変換し、左右のレンズの配置を正しく表示させた状態。
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EOS Utilityのリモートライブビュー画面では、水準器を表示できる。水平・垂直を合わせることが大事なVR180の撮影にとって有用な機能
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VR180撮影時の筆者のセッティング。カメラの高さは160cm程度を基準とした。スタンドの脚が写り込まぬように、ブームにカメラを設置している
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撮影後のワークフロー

撮影データはカメラとパソコンをインターフェースケーブルで接続し、発売時点において最新のバージョンにアップデートされた「EOS Utility」を利用して、パソコンのストレージに取り込むことができる。

同社から発売時に提供される予定のVR動画確認・変換アプリ「EOS VR Utility」(トライアルとしては、2分以内の動画・静止画のVR規格形式への変換が可能。全機能を利用するには、有償のサブスクリプション・プランの購入が必要となる。対応OSはWindows/macOS)では、クリップを再生・確認することができる。さらに魚眼表示・正距円筒表示の投影法の切り替え、そして視差補正・水平補正・手動視差補正といったレンズ補正が可能になっている。因みに、視差補正は、 レンズの製造誤差情報をもとに、適正な視差になるように補正される。自動の水平補正は、カメラが持っている水平情報で自動補正する。手動水平補正は、パラメーターの設定で、任意補正ができる。左右の画像が入れ違って記録される点については、このアプリに読み込んだ時点で、正常な配置に補正して表示されるから、特に気にする必要はない。

C-Logで撮影した場合は、LUTを適用することができる。補正後はクリップにイン点とアウト点を指定して、使用区間を出力する。ファイル形式はDPX RGB 10bit、DPX RGB 16bit、H.264 4:2:0 MP4 8bit、H.264 4:2:0 MP4 8bit(LUT適用)のいずれかを選択して、エクスポートすることが可能だ。さらにMac OSの場合、Apple Proresが出力できる。取り込んだデータは、魚眼表示のままなら、同社の画像処理ソフトDigitalPhoto Professional(DPP)でも、閲覧、再生することができたが、正式には仕様外であるようだ。

また、動画編集プラグイン「EOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro」(有償:Windows/Mac OSに対応。「Adobe Premiere Pro 14.5」以降のバージョンに対応)を用いれば、動画ファイルをAdobe Premiere Proにそのまま読み込むだけで、自動的に左右の画像入替と立体視・並列の正距円筒図法への変換が行われ、シームレスにポスプロ編集の作業を開始することが可能になる。エフェクトコントロールパネルにおいて、視差補正と水平補正・手動水平補正の一連のレンズ補正にも対応している。

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EOS R5とパソコンを接続して、「EOS Utility」で、撮影データをパソコンに取り込む
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「EOS VR Utility」(有償)のインタフェース。魚眼画像を表示。左右の画像は、自動的に正しく入れ替えられる
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「EOS VR Utility」で、正距円筒図法に変換して、プレビュー
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「EOS VR Utility」のエクスポート設定。ノンリニア編集(NLE)用の中間コーデックとして、DPX(Digital PictureExchange)や、MacならApple ProResで出力が可能。Oculus Quest2などの8KVR動画対応のヘッドマウントディスプレイで、そのままローカル再生したい場合は、H.264を選択することになる
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「EOS VR Utility」からエクスポート中
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動画編集プラグイン「EOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro」(有償)を利用することで、編集ソフトAdobe Premiere Proで、速やかに編集作業をおこなうことが可能になる(対応OSはWindows/Mac OS。「Adobe Premiere Pro 14.5」以降のバージョンに対応)。
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Adobe Premiere Pro上で、VRビデオ表示としてプレビュー
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「EOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro」使用時のエフェクトコントロールパネルの表示。レンズ補正のチェックボックスやパラメーターが実装されている。

*以下はVR180動画です。Oculus Quest2他等のヘッドマウントディスプレイで、没入感と立体感を体感しながら、再生・視聴することをお勧めします。YouTube上の2D再生の場合、左右上下に動かして視聴することができます。

EOS VR SYSTEM RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE DUAL FISHEYE 8K DCI ALL-I 29.97fps F5.6 ISO100 ピクチャースタイル:ニュートラル

EOS VR SYSTEM RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE 8K DCI ALL-I 29.97fps F5.6 ISO100 Canon Log 3

EOS VR SYSTEM RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE 8K DCI ALL-I 29.97fps F5.6 ISO100 Canon Log 3 Lut適用

EOS VR SYSTEM RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE 8K タイプラプス

まとめ

これまでプロ向けのVRカメラと言えば、国産のものはほとんどなく、海外製のものが特定の業界で重用されていたものの、一般的には馴染みが薄かった。そこへようやくシンプルなワークフローで、普及が見込めるプロ向け高品質な国産VRカメラシステムが登場した。

それがキヤノンのEOS VRシステムだ。今回のRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEは、ミラーレス一眼のEOS R5に装着できる交換レンズであるから、比較的手軽に導入できて、撮り回しも良い。これまでVR動画撮影を手掛けていなかったビデオグラファーや写真家のVR映像制作への参入が見込まれると同時に、高品質な成果物を求めていたVR映像業界のクリエイターが同製品を導入することが期待される。

試用した感想としては、まず何と言っても、レンズのクオリティの高さを実感した。具体的には解像感と色再現性の良さ。そして、これまでのVRカメラに発生しがちだったゴースト、フレアへの耐性を実現したレンズの高度な光学性能が挙げられる。180°映像の撮影の場合、広い画角に、太陽の直射光が写り込むことも多いが、独自のコーティング技術「SWC(Subwavelength Structure Coating)」の反射防止効果で、逆光時の描写が非常に優れていると感じる。

また、低照度下の環境の中で撮影された場合、人物の顔や肌に色滲みが乗ってしまうことがあったが、この製品の2枚のレンズに施された「UD(Ultra Low Dispersion)レンズ」の色収差補正においては、良好な肌の色味が表現されている。そして、ヘッドマウントディスプレイ上の再生時に、眼前の人物や対象を、リアリティーを持ってする自然な立体感も特筆すべきであろう。

ただし、8K動画の扱いという点ではいくつか念頭に置くべき注意点もある。

高解像度、高ビットレートでカメラ内部記録をおこなうEOS R5は、温度上昇による連続撮影可能時間に制限があるので、撮影待機時は、小まめに電源をオフにするなどして、筐体が高温にならないように、発熱対策することをお勧めする。また、マシンのスペックに依存するものの、8Kデータのハンドリングはさすがに重い(特に10bitのCanon-Log)。データの取り込み、作業用の低解像度のプロキシの生成、8K動画のレンダリング処理などに、非常に時間がかるのだ。パソコンのCPUやGPUの性能は、当然、ハイスぺックなマシンパワーのものが要求されるし、作業用のストレージもSSDが推奨される。

これらのマターは高解像度、高ビットレート動画処理全般の課題でもあるので、高品質の8K動画制作のための宿命と割り切ることができれば、このVRシステムは間違いなくシネマティックVR動画制作の新たなフェーズを切り開く画期的な製品と言えるだろう。現在はEOS R5のみの対応であるが、将来的には他のRFマウントのEOSシリーズへの対応も期待したい。また、キヤノンとしては現状EOS VRシステムとして、8K RAW動画データの対応はしていないが、CF Expressカードによるカメラ内記録自体は可能である。あるいは、発熱対策も含めて、EOS R5からHDMI出力して、ATOMOSのNinja V+でRawやProResなどで収録。Raw以外の保存形式にフィッシュアイ形式のまま書き出し、サードパーティーのソフトのMistika VRで、ステッチ作業をおこなうという裏技を使えば、8K RAW動画の採用も不可能ではない(本記事は、試作機とベータ版のアプリを試用して、検証・執筆しています。発売後に、仕様が変更される可能性がありますので、ご了承ください)。

RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE写真写真
RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEの外箱
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付属のレンズケース
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レンズケースにRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEを収める
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付属のレンズキャップ
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付属のリアキャップを装着した状態

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。