デジタルサイネージの今を考える
今月から「江口靖二のデジタルサイネージ時評」を連載させていただく事になりました。読者の皆様は、直接デジタルサイネージに携わっている方ばかりではなく、放送や映像関連の業務をされておられる方々が多いと思います。私自身も放送をはじめとして、多くのデジタル映像メディア領域を仕事にしていますので、デジタルサイネージ単体にとらわれない内容にしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
デジタルサイネージは、「その時その場所にいる人」に情報を伝える事ができるメディアだ。放送は時間による番組編成ができますが、場所を特定することが不得意です。場所を特定できるアウトドア系のメディア、看板ポスターは事実上時間を制御できません。デジタルサイネージはその両方が可能なのです。
しかしそれは、その時その場所にいない人とはコミュニケーションできないことを意味することになります。それをカバーするために、別のメディアなどを組み合わせていくのがいいわけです。たとえばスマートフォンのアプリを利用することで、これをカバーしようというコミュニケーション設計を行うわけです。それが大阪駅の北側の再開発地区グランフロント大阪の「コンパスアプリ」なのです。
その時その場所にいない人とはコミュニケーションするには?
グランフロント大阪のデジタルサイネージ「コンパスタッチ」
App StoreかGoogle Playからアプリをダウンロードして立ち上げると、グランフロント大阪の各所に設置されているデジタルサイネージ「コンパスタッチ」とほぼ同じ機能が提供されています。それだけではなく、現地にいなくても、いまグランフロント大阪で起きていることを、いま自分がいる場所で知ることができるのです。さらにSNS機能もあるので、楽しかったとか、美味しかったいう体験をネットワークを通じて共有することができます。
コンパスタッチアプリの利便性と可能性
コンパスアプリは自分用にカスタマイズされるので、現場のサイネージでも同じカスタマイズ画面が表示されるともっと便利になります。そこで、手持ちの交通系などのICカードでサイネージとアプリを紐付けることができるようになっています。
具体的にはあらかじめスマートフォンにアプリがインストールされた状態で、現地のコンパスタッチに行きます。端末にICカードをかざすと画面にQRコードが表示され、それをアプリ側のカメラで読み込むことで紐付けが完了するのです。一度紐付けが完了すると、グランフロント大阪にあるどのサイネージ端末でも、ICカードをタッチするだけでパーソナルなサイネージに一瞬で切り替えることができるのです。
これを応用すると、現在はまだ実装されていませんが、非常に便利な使い方が出来るはずです。例えば現地のコンパスタッチ端末でお店を検索したとします。すると画面上に館内地図が現れ、今いる場所からの道順が表示されます。ここまではよくある話です。しかし実際のケースでは、行きたいお店までの道順を頭の中に記憶しなければなりません。他の事例ではプリントアウトできるものもありますが、たいていはプリンターが故障しているか、紙切れで使い物になりません。そこで手元のアプリと連携させることで、お店までの順路を手元のスマホに表示させせれば、迷わず辿り着くことが出来るはずです。
だったら最初からスマホで検索すればいいという意見は、実際の人の行動をちゃんと理解していません。全くひとりで行動する場合はそれでもいいと思いますが、グランフロントのような施設は友達などと複数人で行動することが多いわけです。その場合に誰かのスマホの小さい画面を数人で覗きこんで、どこに行こうかワイワイやるのは無理です。大画面のタッチパネルであればそれが可能で、結果をスマホに持ち歩けるのです。
コンパスタッチアプリの利便性と可能性は、アプリと現場の両方を体験しないとなかなか伝わりにくい体験だと思います。まだまだ発展途上のサービスやアプリですが、アプリはAndroid、iOSともに「グランフロント大阪コンパス」で検索できます。これまで議論されてきた、サイネージとモバイルの連携に関する一つの答えが、ここで見えてきたと言えると思います。そしてこれが意味することは、デジタルサイネージ市場には、アプリ市場、アプリ関係者の積極参入が今後加速的に進むと思われるのです。