地方支局や関連会社の叡智が揃う!
1月26日から28日の3日間、東京・渋谷のNHK放送センターにおいて第43回番組技術展が開催された。43年前の開催当初は空いているスタジオなどを利用して関係者のみで開催されていたが、2006年から一般にも公開されるようになったもので、全国各地にある70あまりの支局のほか、NHK技研や関連会社などから番組制作のための創意工夫が発表されている。すでにスタジオ見学コースやNHK放送博物館のほか、NHK技研公開など様々な形で一般向けに公開しているが、東京を中心とした最先端のものが多いなか、地域特有の工夫や地味だが現場的に有用なものなど30点ほどが出展され、現場に直結した実用的なものが多いのがこの技術展の特徴といえるだろう。
こうした支局が番組制作のために創意工夫したものを関係者だけでなく広く一般にも公開するようになったのは、「NHKって何をやっているの?」とか「どのように番組を作っているの?」といった問いに対しての回答であり、透明性を推し進めたものといえるだろう。ただ、一般公開するようになってからは話題性や一般の人たちに解りやすいものが多くなり、分かる人にしか分からないような専門的なものは少なくなってきたようでちょっと寂しい気もする。
会場入り口には、2020年に東京オリンピックの開催が決まったということもあり、1964年に開催されたオリンピックで使用されたカメラやマイクといった機材のほか、取材ガイドブックなどの資料も展示され、懐かしさとともに会場内の機材とは隔世の感があるというコントラストも来場者の年齢によっては楽しめる。
関係者だけでスタジオの中が文化祭ノリで開催していた時代は地方局からの出展が多かったが、久しぶりに覗いてみるとだいぶ少なくなったようで、内容も高度なものが多くなったという印象だ。それだけ、メーカーがきめ細かく周辺機器を初めとした機材を開発しているからという見方もできるが、その手があったか的なちょっとした工夫のようなものは意外と現場で重宝するもので、そうした発表も期待したいところだ。
放送博物館は過去、NHK技研展は未来、そして番組技術展は現在、ということで3つをセットで見学することで放送技術のすべてを俯瞰できるのでお時間のある方は是非参加していただきたい。それでは、今回の番組技術展を見て行こう。
ロードレース中継に適した新しい高性能アンテナ
開口率の向上を図ったパラボラアンテナや楕円形状のホーンを使用することで指向性の効率化を図り、利得の向上を達成。また、バイクなど移動体に搭載できる双指向性のアンテナなどを紹介。高校駅伝などで使用された(大阪放送局、技術局、放送技術研究所)。
4FSK連絡無線を用いた局外ロボットカメラ制御装置
映像はFPUで伝送するが電動雲台の制御は電話回線を中心にバックアップとしてアナログVHF連絡無線により行っていた。デジタルVHF連絡無線(4FSK)移行に伴い従来のモデムが使用できなくなったことからその対応を図ったもの。これにより、災害時でも自営回線でロボカメを操作可能になる(大阪放送局)。
流氷観光船 ロボットカメラシステム
オホーツク海の流氷を観光船と陸上に設置したカメラを使って多角的に生中継するシステム。移動中の船上から無人で最大約10km映像伝送可能。インターネット経由でカメラの監視なども行える。おはよう日本、砕氷船ガリンコ号/おーろらなどの番組で使用(北見放送局)。
こっちむいてFPU
中継車からFPUを使って送信する場合のアンテナ方向調整システム。タブレット端末(スマホ)を利用し、GPSにより自動的にアンテナ方向を調節できるほか、伝送映像の確認や伝送チャンネル&モードなどの設定も行うことができる(函館放送局)。
Cl_MS(クルムス)蛍光体を用いたLED照明器具
一般のLEDは点光源に近いため直視するとまぶしく感じることが多いが、独自の発光原理と構造によりまぶしさを低減。キャスターライトなど近距離での照明設備として実証テスト中。一般の白色LEDは青色LEDに黄色蛍光体の組み合わせで白色を得ているが、今回発表の物は紫色LEDと青色蛍光体および黄色蛍光体(Cl_MS)により構成されており、発光スペクトルの谷間がすくなく、形状にも自由度があり発光面を広くすることが可能(技術局、放送技術局制作技術センター)。
色覚障害者支援表示装置
マウスによる指示や色名リストから指定するなど利用者側で見え方を設定できるというもの。テレビの天気予報地図やデータ放送の見やすさを改善できるだけでなく、インターネットでの利用や携帯端末で撮影した映像に適用することも可能(広島放送局)。
映像検索システム~素材バンクの実現に向けて~
画像データのアーカイブなどでは、画像のキーワードなどを手動で入力しなくてはならず、入力者の主観などもあり、手間暇だけでなく、統一性などの問題があった。こうした作業を自動化するべく開発中のシステムで、関連画像の表示など手動入力の支援などにも対応している(放送技術研究所)。
映像から発災位置推定&時空間マッピング
移動しながら撮影した、移動する被写体の位置と速度を特定できるアルゴリズムを開発。これにより、ヘリから撮影した津波などの位置や速度を計測し、地図上に表示したり、位置情報のない映像からも過去の似通った映像を自動検索し地図と組み合わせた表示ができたりする(仙台放送局、福島放送局)。
かんたん開発!Arduino(アルドゥイーノ)を用いた撮影機材等の製作
回路とプログラミングの知識がほとんどなくても利用できるArduinoを利用して、水上リモコン撮影船や温湿度測定ロガーなどを制作し、番組制作や日常業務に利用。しんけんワイド大分やテレビスタジオの環境測定に利用(大分放送局)。
カメラ構図自動調整システム
顔出しリポートを行う場合1人でカメラのセットなどもしなくてはならないが、顔認識技術や雲台制御技術を利用することで構図を自動セットできるシステム。パン/ティルトのほかズームの制御ができ、全国に配置された地域取材拠点用カメラ(PMW-200)を制御できる(新潟放送局)。
燃料電池を使った無停電装置
FPU基地局やロボットカメラ用設備のバックアップ電源として保存が容易で安全なメタノールを燃料とした電源システムで、リチウムイオンバッテリーとの併用で安定した出力を実現している。オープンゴルフ選手権などで実践使用している(放送技術局報道技術センター、静岡放送局)。
お手持ちのスマホへ体験動画プレゼントサービス
視聴者参加型番組やイベントにおいてその体験画像を視聴者自身のスマートフォンへダウンロードできるようにしたシステム。動画ごとにパスワード管理できるようになっており、個人情報にも配慮しているほか、タイトル文字やPR動画なども追加することができるようになっている(放送技術局メディア技術センター、横浜放送局)。
小型の手持ちカメラも使える簡易バーチャルシステム
ヴァーチャルスタジオシステムではカメラの位置情報などが必要だが、そのためのセンサーなどを複合化小型化したもので、ハンディカメラで手持ち撮影に対応している。すでに、着信御礼!ケータイ大喜利、ひるとくテレビプラザNなどの番組で使用されている(放送技術研究所、NHKエンジニアリングシステム、NHKアート)。
三脚アタッチメント「ぐるピタ」
肩載せから三脚撮影までシームレスに対応できるアタッチメント。カメラに取り付けた筒状の下部は半球状になっており、三脚雲台部分に取り付けたすり鉢状のお椀と撮影しながら接合し、三脚使用時の安定した撮影を可能にするというもの。三脚の位置を感覚的に探りやすいように工夫されている(京都放送局)。
ロール機構付小型カメラ用ブーム
ポールカメラにロール操作機能を付加することで、カメラのパン/ティルトだけでなく水平位置も手元で操作できるようにしたもので、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)との併用で自由なカメラ操作とアングルで撮影することができる。ポールの長さ約1.2m、質量約1kgと小型軽量となっている(松山放送局)。
スマートタッチコントローラ
スマートフォンのように画面にタッチして各種表示情報を操作するシステムで、誤送出を防ぐため各キャスターの特徴に合わせたエラー訂正やカスタマイズが可能となっている。選挙開票速報などの番組で使用されている(放送技術局製作技術センター)。
遠赤外線超望遠カメラ
遠くの被写体をはっきりと映しだすための遠赤外線を利用した超望遠レンズ。反射望遠鏡タイプの光学系を採用することで、軽量かつ明るいレンズを実現している。現在ズーム化に取り組んでいるという(放送技術局報道技術センター)。
簡単タッチパネル操作“リモートマイクフォローシステム”
スポーツ中継などで競技者の臨場感ある音声を収録すためにガンマイクやパラボラマイクなどを使用して収音するが、その操作を遠隔操作できるようにしたシステム。カメラでガイド用画像を撮影し、その画面を見ながらマイクの方向を画面タッチするだけで行える。プリセットも可能なほか、最大12本のマイクを制御できる(放送技術局報道技術センター)。
モバイル端末を用いたワイヤレスFUシステム
キャスター自身で市販のモバイル端末を利用してマイクのON/OFFをワイヤレスで行うシステム。マイクのON/OFF状態がわかる表示装置としても使用可能なほか、操作端末が小型なので、立ち歩き状態(撮影時)などでも使用できる(名古屋放送局)。
ラウドネス自動測定・記録システム
番組のラウドネス値を自動で計測および記録できるシステムで、ラウドネス値に収まらない可能性があるときの警告機能も装備されている。放送したラウドネス値の推移や、WEB上の運用日誌からラウドネス値を参照することが可能(福井放送局)。
VoLTEを利用した連絡装置
中継などではインカムを使って連絡回線とすることが一般的だが、限られたスタッフだけになることも多い。公衆IP網を利用することで市販の携帯端末もインカムとして利用するというもの。公衆回線であるLTE網を利用するため、アンテナの仮設が不要でかつ広いエリアをカバーできるほか、局から現場スタッフへ一斉連絡が可能などの特徴がある(NHKメディアテクノロジー)。
音声比較装置~音くらべ~
放送音声の監視を人間の聴覚特性で自動化するためのシステムで、時間差や音質の違いがあっても検出できる聴覚特性を応用している。これにより、比較する音声間で遅延や音質差、音質劣化、ノイズ混入などがあっても内容比較が可能。ネットワーク経由での監視や一度に4系統の音声比較が可能。AM/FM同内容の放送波監視やワンセグ、ネットラジオなどの監視に利用(放送技術局メディア技術センター)。
ダイオウイカ深海撮影システム
特別展示として深海での超高感度撮影を可能としたダイオウイカ深海撮影システムや自然界の動物を撮影するための特殊機材の数々が紹介されていた。これらは主にNHKスペシャルで使用されたもので、撮影機材とともに撮影された映像なども紹介されており、展示のスペースも広く取られていた。また、今回の展示会のプログラムには入っていないが、8K4Kディスプレーによるスポーツプログラムの上映などもあり、多くの来場者が足を止めて見入っていた。
通常のカメラの1000倍の感度をもつ超高感度EM-CCDカメラが搭載された水中ハウジング。このカメラは感度だけでなく近赤外から可視光まで撮影することができ、深海での撮影において深海生物に影響を与えることの無い近赤外線深海ライトとともに使用された。水中ハウジングは水深1500mまで耐えることが可能で、実際の撮影では潜水艇に搭載され、ダイオウイカのHD撮影を可能とした(放送技術局製作技術センター、NHKエンジニアリングシステム)。
NHKスペシャル「ホットスポット 最後の楽園」特殊撮影機材展示
自然界で動物の生態を撮影する場合、撮影者の気配で自然な生態を撮影することが難しい。岩に似せたカメラや自動追尾カメラ、ラジコンヘリ搭載カメラのほか、無人撮影に対応した自動追尾カメラやコマ撮り装置などが紹介された(放送技術局製作技術センター)。