国内外において、常設の単体ディスプレイによる4Kサイネージの事例はまだ非常に少ない。現時点で把握できているのは以下の3カ所で、うち日本国内は1カ所のみである。これらの事例と、今後の4Kサイネージについて考えてみる。

4Kサイネージの事例

世界初の4Kサイネージ
ds2014_08_01.jpg

ラスベガス空港の4Kサイネージ

世界初の常設4Kデジタルサイネージは、2013年2月にラスベガスのマッカラン空港のDターミナルに設置されたものだ。LGの84インチディスプレイを上下に2台設置している。上段はターミナル1とターミナル3に向かうためのトラムの乗り場が常に表示されている。下段はLGのプロモーション映像が表示されている。1日に3万2000人が通過するこの場所には、もともと奥にサムスンの100面マルチ(解像度は不明)があり、それへの対抗という意味あいで、全体がLGのスポンサードで提供されているLGの自社媒体であると思われる。

ds2014_08_02.jpg

LGのUltra HDのロゴ

実は筆者はこのサイネージが設置された直後に、この前を通過している。しかしその時には、今まで何もなかった場所になんかあるなあ、くらいにしか思わなかった。その後これが世界初の4Kサイネージだと知り、今年のCESで再訪した時に撮影したのがこの写真である。

設置されているのが空港の巨大な空間の中であるので、84インチ2台であったとしても空間に圧倒されて正直目立たない。ましてや解像度まで目が行かない。この事例は4Kのサイネージとしてはやや残念なものである。やはり超高精細であることを活かして、人々の視線に入って、その美しさが認識されるか、あるいはこの場所の例で行くと、後ろの100面マルチに4K解像度で表示するなどと言った工夫がほしいところだ。

デルタ航空 スカイクラブラウンジ
ds2014_08_03.jpg

シアトルのデルタ航空のスカイクラブに設置された4Kサイネージ

全米に20カ所あるデルタ航空の上級会員向けのラウンジ、スカイクラブラウンジに4Kサイネージが導入されている。こちらのディスプレイもLGの84インチで、システムインテグレーションはRMG Networksが担当した。写真は2014年4月にシアトルのラウンジで撮影したもの。フライトインフォメーションと世界各地の観光プロモーション映像がフルHDからのアップスケーリングで流されている。デルタ航空では今後、様々な利用方法を検討していくとしている。

ds2014_08_04.jpg

こちらもLGの84インチ4Kディスプレイ

実はこちらも、2月に筆者はこのラウンジを訪れているのだが、4Kであることには全く気が付かなかった。その時はソチオリンピックの映像が流れており、それを見たことは鮮明に覚えているのだが、それ以上は何も思わなかった。ちょうど4Kのサイネージに関する調べ物をしていた際に、この事例がそれだということを知り、4月のNABでの渡米時に撮影したのがこの写真である。こちらは先程のラスベガスの事例とは異なり、ディスプレイは同じLGではあるが、LGの持ち込み媒体ではない。そのためにどこにも4Kに関する紹介はない。

アップスケーリングであるので、確かに言われてみれば84インチの大画面でHDを表示させるのに比べたら鮮明であると思うが、普通はそこには気が付かないだろう。

日本国内の事例

筆者は残念ながら現場を確認していないが、日本国内では北海道帯広市幸福町の「幸福駅」再生プロジェクトにおいて、各種情報を4K配信する地域情報マルチウィンドウシステム「Happy Windows」を提供しているようである。おそらく常設の4Kサイネージとしては日本最初の事例であるが、65インチの民生テレビに4分割表示でHD素材が表示されているので厳密には4Kサイネージとは言えないかもしれない。

4Kサイネージを活かすためには

これらの事例は、どちらも4Kサイネージの特性を活かし切れているとは言えない。本来4Kサイネージでは、その解像度の高さを活かした表示が可能になる。これをコンテンツに置き換えた場合に、「綺麗である」ということと「くっきり見える」という2つの点に関して、それぞれその優位性を発揮しやすいコンテンツの方向性がある。

綺麗である、高品位であるということ

これまでのHDよりもより美しく、より綺麗に見えるということで、利用の可能性が広がるケースが考えられる。例えば化粧品や宝石貴金属、ファッション、自動車等、本物の質感をそのまま伝えたい、あるいは本物以上に伝えたいというニーズが非常に強い。実際に、たとえばある化粧品会社の場合、印刷によるポスターや、内照式の屋外広告には出稿しているが、これまでのところデジタルサイネージには出稿していない。これは印刷物に比較するとフルHDでは解像度が足りないためだと思われる。これが4Kになれば印刷物に匹敵したクオリティを達成できるので、動画の効果と合わせて利用が進むものと期待される。

くっきり見える、高精細であるということ

一方で、高精細であることによって細かい文字が読めたり、同時に大量の情報を表示することも可能になる。デジタルサイネージにおいては、一般的にはある程度の距離から視認されることが多いが、館内案内版であるとか、株価ボード、各種管制センターのように見る側に同時に大量の情報を一覧したいニーズがある場合に、4Kデジタルサイネージの表現力は非常に有効である。

マルチディスプレイで4K以上の世界へ

これまではディスプレイ単体の事例を見てきたが、複数のディスプレイを利用したマルチディスプレイによる事例の方が数としては圧倒的に多い。マルチの場合は、ディスプレイの設置形状はロケーションによってさまざまで、縦横の解像度もロケーションごとに異なる。

ds2014_08_05.jpg

幅17メートルにも及ぶ巨大な映像

写真は羽田空港の国際線ターミナルの増床にともなって、出国後のエリアに設置された横12面、縦3面の36面マルチだ。解像度は16,320×2,304で、ドットバイドットで表示される。言うなれば16Kサイネージである。カメラセンサーによって映像がインタラクティブに反応する。

この場所はちょうど動く歩道に乗って通過する人がほとんどで、視線に対してディスプレイは真横にある。そのため視認されにくく、せっかくのインタラクティブ性もわかりにくい。とは言え17メートル近い巨大なディスプレイによる高精細映像は圧巻である。この時も最初筆者は動く歩道に乗って通りすぎてしまったので、わざわざ戻って撮影した。今後はこのシステムとロケーションと設置状況に合わせたコンテンツを考えていくことが重要だろう。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。