
世界最大級のLEDディスプレイ展示会のひとつであるISLE2025(International Smart Display & System Integration Exhibition)が、2025年3月7日から9日にかけて中国・深圳の「深圳ワールド展示&コンベンションセンター(Shenzhen World)」で開催された。昨年に引き続き、現地の最新動向をレポートする。
ISLEは、バルセロナで開催されるISEや、同じ深センでISLE直前に行われるLED CHINAと並ぶディスプレイ関連の主要なイベントの一つである。ISEはプロフェッショナルAVが中心で、LED CHINAはLED技術全般を扱う展示会であり、ISLEはその中間的な立ち位置にあり、LEDディスプレイに特化している。
ISLE2025の参加者数は3日間で延べ22万人に達し、今年も規模の大きさを誇った。
マイクロLEDアライアンスゾーンが新登場
LEDディスプレイは近年、高解像度化が継続するトレンドとなっている。特にピクセルピッチが1mm以下、LEDチップのサイズは数十ミクロンに達するなど、技術の進歩が著しい。今回のISLE2025では「マイクロLEDアライアンスゾーン」が新設され、10社以上の企業がマイクロLEDの実装や検査技術を披露した。
マイクロLEDディスプレイは、デジタルサイネージや家庭用ディスプレイ市場において特に成長が期待される分野である。しかし、微細なLEDの正確な配置には技術的な課題が残る。各社はマス転写、静電転写、フリップチップボンディング、流体アセンブリ、ロールtoロールなどの方式を競い合っている。目立ったブレークスルーは未だないものの、今後5年以内に新たな展開が期待される。

ピクセルピッチ競争の現状
ピクセルピッチ競争において、今年も昨年と同じ0.4mmが最狭記録となった。特に家庭用テレビ市場を想定すると、ピクセルピッチの数値は重要なポイントである。
例えば、解像度とディスプレイサイズの関係を整理すると以下のようになる。
- 80インチ 4K: 0.461mm
- 80インチ 8K: 0.288mm
- 60インチ 4K: 0.346mm
- 60インチ 8K: 0.173mm
- 40インチ 4K: 0.231mm
- 40インチ 8K: 0.115mm
0.2mm以下が実現すれば、家庭向け市場でのブレークスルーとなる可能性が高い。しかし、そのためには微細LEDの正確な配置技術が必要であり、アライアンスの取り組みが重要となる。当面は0.4mmが安定した価格で提供できるようになれば、テレビ市場が大きく動くだろう。

可動ディスプレイの進化
今年のISLEでは、可動型のLEDディスプレイが目立った。特に、ロール巻き取り式やワイヤー駆動の可動式ディスプレイが展示された。
ロール巻き取り式ディスプレイは、完全なシート構造でなくとも、スラットロール(細長い板状のパネルを連結する形式)にすることで比較的容易に実現可能である。実際の動作では若干の揺れが発生するものの、実用範囲内であると考えられる。
このような細長いディスプレイは、ショッピングモールの吹き抜け空間などでの活用が期待される。アナログのフラッグよりもコンテンツ交換が容易であり、動きを付けることで注目度が向上する。
一方、ワイヤー駆動型はインパクトがあるものの、機械的な故障頻度やメンテナンス性が課題となる可能性がある。
Shenzhen Scenico Optoelectronic社
GoldLuck LED社
イマーシブ体験の進化
今年のISLEでは、イマーシブ体験を提供するLEDディスプレイの展示が昨年以上に増加した。HMDやスマートグラスなどの外部機器を装着せずに、裸眼で没入感を体験できる映像環境が注目されている。特に、「CAVE(LEDディスプレイで囲まれた空間)」の提案が多く見られた。
CAVEは、ディスプレイ側とコンテンツ制作側の両方で角の部分の処理がポイントとなる。また、「DOME(半球型ディスプレイ)」の展示も増えており、より立体的な没入体験が可能となっている。これはラスベガスのSphereやApple Vision Proの課題と可能性に大きく影響を受けているのだろう。




Shandong Rio Culture and Technology社
シースルーLEDディスプレイの可能性
今回のISLEでは、シースルーLEDディスプレイの展示も印象的であった。
特に、ピクセルピッチ6.25mm、3.91mm、2.5mmの比較デモが行われ、それぞれの透過率や解像度の違いを体感できた。シースルーディスプレイの重要なポイントは、透過率と解像度のバランスである。解像度が向上するほど透明度が低下するため、どの程度「透ける」べきか、また映像と透過の切り替えをどのように活用するかが鍵となる。そして向こう側に見えるものは何か。それは必ずしもリアルなものとは限らないし、固定されたものではないかもしれない。
例えば、映像を表示していたと思ったら突然背景が透ける演出は、非常に効果的に活用できる可能性がある。こうした新たな視覚体験の可能性が、今後のシースルーLEDディスプレイの発展を左右するだろう。まずは多くの人達、特にクリエーターがこういった表示装置の存在を知ることから始める必要がある。


異型ディスプレイ
非常に特殊な形状のディスプレイも数多く登場している。個別のオーダーメードに対応するものではなく、ボトルとか缶のような、ある程度の汎用性があるものだ。ユニークではあるがあまり普及が進むと飽きられやすい点が気になる。



錯視3Dは一段落
飽きられやすいという点では、錯視3Dモノは会場内に数か所だけになっていた。これは日本の市場においてもすでに同じことが起きている。3DにすればOKという時代はすでに終わりだ。やはり日本では、どのクリエイティブも新宿東口の猫を超えられていないからであって、錯視3Dが悪いわけでは決してない。

AIとサイネージの融合
AIとLEDディスプレイの連携も期待されたが、現状ではツールとしての活用という段階に留まっている。例えば、あるブースでは「ディスプレイとAIで新たなデジタルシーンを定義(実際には中国語)」というキャッチフレーズのもと、アバターによるコンシェルジュサイネージが展示されていただけだった。AIとサイネージの組み合わせは、確かに有効なツールであるが、革新的なユースケースが登場するにはさらなる進化が必要と感じられた。


ISLE2025では、マイクロLED、可動ディスプレイ、イマーシブ体験、シースルーディスプレイ、AI連携といった多くのトピックが注目された。特に、家庭向け市場のブレークスルーとなる技術の進展や、シースルーLEDの新たな活用法が今後の発展の鍵となるだろう。次回のISLEでは、これらの技術がどのように進化していくのか、引き続き注目していきたい。
WRITER PROFILE
