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2年半ぶりにソウルを訪れて、最新のデジタルサイネージ状況を確認してきた。そこで目にしたものは圧倒的な数のLEDディスプレイである。これらを2回に分けて最新の状況をレポートする。初回は全体的な紹介を、次回はLEDとLCDの比較と、ソウルのLED普及の理由と日本の状況についても考える。

仁川空港

まずは激寒の仁川空港に到着し、空港内を見て回った。筆者としては2年半ぶりの仁川空港である。その間に巨大なLEDディスプレイが2カ所、追加で設置されていた。その他では大きな変化は感じることができなかった。

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第1ターミナル1F到着ロビー中央付近。4FまでLEDディスプレイ

上記の内側はシースルーエレベータになっており、ここにもLEDディスプレイが

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3F出発階に新た設置された2カ所のLED。真ん中に見えるのが前述のディスプレイ
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2カ所とも4面全てがLED。基本は広告媒体になっている

プチ・ラスベガスのようなインスパイア

仁川空港に隣接するインスパイア・エンターテインメント・リゾートは、2024年3月にオープンした15,000人収容の多目的アリーナ、5つ星ホテル、レストラン、ショッピングモール、カジノ、多彩なエンターテインメント空間を備えた、大規模複合型リゾート施設である。広さは東京ドーム10個分で、総合エンターテインメント・リゾートの開発・運営会社モヒガンが100%所有する。

デジタルサイネージ的には、オーロラと呼ばれる長さ150mにも及ぶイマーシブエンターテインメント・ストリートが圧巻である。特に天井面をLEDディスプレイ化して効果的に使用しているのがポイントだ。ここでは毎正時にAurora Express、毎30分にUnder the Blue Landというコンテンツが上映される。筆者が体験したのは2025年の1月9日のAurora Expressである。

オーロラショーの様子

またモールのエントランス部分の空間は、床面以外はすべてLEDディスプレイになっている空間がある。ここでのコンテンツは、音楽も含めて激しい動きではない荘厳な空間演出として利用されていた。

モールエントランスの空間演出

また、ル・スペースという体験型のイマーシブ空間は、チーム・ラボのような体験ができる。ここは有料で料金は28,000ウオン。

ル・スペースはプロジェクターとLEDを組み合わせたイマーシブな空間を巡るエンターテインメント

LEDに覆い尽くされた新世界百貨店

明洞と南大門の間にある、1930年創業の新世界百貨店の壁面ほぼ全部が、LEDディスプレイに覆われた。これはサムスンによってインストールされ、長さ72m、高さ18mという巨大なものだ。

新世界百貨店

ロッテ百貨店 ヤングプラザ

一方、ロッテ百貨店の若者向けの建物ヤングプラザは、シースルーのLEDディスプレイで覆われていた。このときはあまり効果的と感じるコンテンツは表示されていなかった。

ロッテ百貨店ヤングプラザ

メディアポールは第三世代に進化

江南交差点から北に向かって、歩道沿いに設置されているメディアポールもすでに3世代目になり、従来よりもかなり高く、大きくなった。形状は三角柱になり、底面に当たる部分は道路と並行になっているので視認できるのは反対側の車道や歩道からだ。ここで表示されているのは従来通りメディアアートのようなもので、広告やインフォメーションは表示されない。

残りの2面は歩道に対して斜めに設置されているので、歩行者からよく見える。本数は数えていないが、変わっていなければ22本で、多分大きく増減はない。コンテンツは広告がメインで、最上部には時計、気温、天気、PM2.5などが表示されている。

メディアポールの歩道側下部には、タッチパネルLCDが従来通り設置されていて、近隣の情報検索ができるようになっている。ただしこの日はマイナス12°だったので、操作している人はほとんど見かけられなかったのは致し方ないだろう。

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立ち並ぶ姿は壮観とさえ言える
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道路反対側から
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ポール上部のLEDは視認性を向上させるために歩道に対して斜めを向いている
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最下部ではタッチパネルLCDによる近隣情報の検索機能が引き続き提供されている

スターフィールド COEXモール

COEX周辺は、2016年にニューヨークのタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスのような、多様な屋外広告物が設置される「自由表示区域」、日本的に言えば「サイネージ特区」に指定されている。経済視点、観光視点、さらにデジタレサイネージによって都市景観を作り出すという発想である。

d’strictが制作したWAVEという錯視3Dコンテンツで有名になったビジョン。この日はシャネルが新宿の猫のようなクリエイティブの広告を掲出していた

COEX周辺は自由表示区域のために大型LEDビジョンが集積している

メディアウォール

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北昌洞メディアウォール

景観をサイネージで作るという発想は、自由表示区域だけにとどまらない。筆者の宿泊先ホテルの近くで見つけたのがこちらのメディアウォールだ。これは北昌洞景観改善事業の一環であると記されている。ソウルではデジタルサイネージで景観を創るという姿勢が非常に明確なのである。

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アート作品が表示されている

地下鉄駅はとにかくLEDだらけ

日本と決定的に違うのは、地下鉄駅の柱に相当数のLEDディスプレイが設置され、広告が掲出されている。それは主要駅に限らない。柱以外にも階段部分の側面まで利用して、異型のキャンバスが構築されている。日本のLED価格からは考えられない設置数である。そしてこれには理由がある。この点は次回の本稿で考察したいと思う。

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これは異型のLEDディスプレイ。コンテンツは男性アイドル スングァン氏に向けたセンイル広告(ファンからの応援広告)で、これは中国のファンから

キネティックサイネージは動作しておらず

キネティックサイネージ、つまりディスプレイそのものが動くサイネージがソウルには少なくとも2カ所ある。そのうちのひとつは先ほど紹介したインスパイアにある「ロタンダ」と呼ばれているキネティック・シャンデリアである。ロタンダは156面の縦型LEDディスプレイが6重のリング状に設置されて、これらが独立して上下方向に可動できる。

あいにく筆者が訪問したときには故障中で、実際に体験することはできなかった。現地にあった紹介パネルから想像していただきたい。

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この日は故障中だった「ロタンダ」
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このような動きをする

もうひとつは、2022年に東大門デザインプラザのすぐ北側に隣接するファッションビル「maxtyle」の壁面に設置された、3D Kinetic Screenである。こちらも残念ながら、表示はされていたのだが、肝心のブロック状に分割されたディスプレイが、物理的に前後に波打つように動く様子を見ることはできなかった。

このときは7分ほどのロールでコンテンツがループしていたのだが、その中で動きを伴うコンテンツを確認することはできなかった。これはたまたまだったのか、稼働機能が故障や運用をしていないのかなどの理由はわからない。

こちらはISLE2024で撮影したものを参考として上げておくのでご覧いただきたい。

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このコンテンツはもしかすると動きがある前提なのかも知れない

ISLE2024におけるHangzhou PJL Cultural and Creative Co.,LTDのデモ

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。