恒例の技術公開、今年も開催
第68回技研公開が5月29日から6月1日の4日間開催される。一般公開に先駆けて、さる5月27日にプレス向けのお披露目があった。今年のテーマは「ココロ動かすテクノロジー」となっており、8Kスーパーハイビジョンを中心に様々な展示が行われる。特に8Kに関しては2016年に試験放送、2020年の東京オリンピックには本放送というロードマップとなっており、今までの実験的な要素から実践的な方向にむかっている。また、次世代のディスプレーとしてめがねなし立体テレビや、丸めることも可能なフレキシブル有機ELディスプレー、イメージセンサーなどの次世代放送ディバイス、CGによる手話翻訳や触れることで放送を楽しむことができる技術などが披露される。そのほか、家族向けにも楽しめる体験型展示やスタンプラリーなどのイベントも開催される。見所をダイジェストでお送りしよう。
8K ready 新技術の展示が目白押し
8Kは2002年に初代のカメラが登場して以来、小型化と高性能化(フルスペック化)が進み、現在では制作に必要なレベルに達しており、ロンドン五輪など既に様々な撮影現場で実践投入されている。それに伴い記録や伝送、放送に向けてキーとなる実用的な機材が開発されてきた。今年はこうした実践を踏まえた展示が多く、秒読みにはいった8K放送へと進んでいる。
初代から現在までの8Kカメラ。2002年の初代8Kカメラから現在のカメラまでを展示。8Kもこうした歴史を語れるまでになったといえよう。ちなみに初代のカメラは質量80kgで近くに展示されていた東京オリンピック時代のカラーカメラと同じ質量だ。現在はフルスペックカメラで45kg、単板式の小型カメラは2kgとなっている。
広色域色分解プリズムを採用したフルスペック8Kカメラ。CCUとは光ケーブル1本で接続され、送り返しのHD画像なども伝送可能になるという。CCUは固定パターンノイズ処理、色収差補正、ゲイン / ペデスタル調節、ガンマ補正、輪郭補正などが行われる。日立製。
8Kスーパーハイビジョンシアターカメラ。大型のセンサーと画素加算処理などにより高感度・低ノイズ化を実現したほか、放熱方式の改善により冷却ファンなどの騒音を大幅に低減。音楽ホールなどでも視聴の妨げにならないようになった。なお、NHKホールで上映された「リゴレット」をこのカメラで撮影、伝送しNHKふれあいホールおよび仙台放送局の2地点で生中継のプレビューをおこなった。
8Kスーパーハイビジョン単板カメラ。3300万画素のセンサーを採用したスタジオタイプとキューブ型カメラ。スタジオカメラは従来のデュアルグリーン方式のCCUと互換性がある。また、スーパー35用のレンズを2.5型センサーのカメラに使用できるようマウントアダプターを開発し、汎用のレンズが使用できるようになっている。
超小型120Hz 8Kスーパーハイビジョンカメラ。専用の光伝送ユニットにより、光ケーブル1本でレンズコントロールやインカム、リターン、タリーなどの機能追加が可能となった。
1億3300万画素(133Mピクセル)イメージセンサー。単板でフル解像度の8K映像を撮像することが可能。撮像サイズを35mmフルサイズとすることで、一眼レフカメラのレンズを使うことができる。ベイヤー配列を採用しているがこれはコスト的な問題だという。
1億3300万画素イメージセンサーを搭載したカメラの試作品
ハイブリッドセンサーを搭載したカメラによるリアルタイム照明推定手法。センサーでとらえた実写の照明状態(明るさや色温度)をリアルタイムにバーチャルCGに反映する。カメラにはハイブリッドセンサーが搭載されており、カメラの位置情報などもCGに反映できるようになっている。
次世代地上放送の伝送技術。8Kの放送に備えて家庭での受信や車両など移動体での受信状態を検証。帯域5.8MHzで変調方式は空間多重MIMO-OFDMを採用。符号化はMPEG-4 AVC/H.264で伝送容量は約24Mbps。
8Kスーパーハイビジョン衛星放送システム。HEVCエンコーダーにより7680×4320のスーパーハイビジョン画像を伝送。2016年の試験放送を目指した伝送実験を実施。
8Kスーパーハイビジョンのケーブルテレビ伝送方式。ケーブルテレビ局J:COMによるスーパーハイビジョン伝送。写真は実際に伝送された映像で、3ch分の帯域を使って伝送されている。既存の伝送路を変更することなくスーパーハイビジョン画像を家庭に届けることが可能。
ハイブリッドキャストの高度化に向けた要素技術。すでにサービスが開始されているハイブリッドキャストだが番組関連データの配信管理技術や放送外マネージアプリなど更なるサービス向上に対応した技術を紹介。
ハイブリッドキャストVOD/録画再生への対応。放送局が提供する番組表のアプリケーションなどからVODの再生ができたり、録画番組やVODでも放送番組に連動したアプリケーションを起動できるようにするというもの。写真はタイムシフト視聴対応試作受信機。
ハイブリッドキャストプッシュ型配信技術。ハイブリッドキャスト受信機や携帯端末に通信経由で多様な情報をプッシュで配信。番組に合わせた情報や視聴者個別の気象や災害情報をリアルタイムで提供可能。
高速なファイル転送を実現する双方向FPU。HARQ再送方式やTDD送信制御方式、偏波共用パラボラアンテナなどにより双方向伝送を可能にしたもので、従来のFPU伝送のように送受信に障害が発生しても画像が途切れることなく安定した伝送が可能。双方向なので、掛け合いなども送り返しを映像付で行うことができるほか、ファイルなどデータで伝送する場合は実時間の数倍の速さで伝送することができる。
インテグラル立体テレビ。赤外線カラーカメラを採用することで、被写体が無地のような特徴点が見つけにくい場合でも通常の照明とともに赤外線でドットパターンを照射することで、広範囲な撮影を可能にするとともに、特徴点の見つけにくい被写体でも立体像として撮影できる。
印刷技術を採用した有機ELフレキシブルディスプレー。大画面に対応した印刷技術を利用することで、スーパーハイビジョンの大画面化を実現しようというもの。大画面化と薄型を両立させることで家庭内でのディスプレー設置の自由度が増すほか、小型タイプではペーパータイプのディスプレーの可能性もある。
テレビ視聴時の興味内容推定。視聴者の顔の向きや表情、体の動きなどを解析することで視聴番組への興味度合を算出し、視聴者がどのような番組内容に興味を持ったのかを推定して興味キーワードとしてタブレットに表示。これは、視聴者の番組検索を支援するナビゲーションシステムとしたもので、インターネット上の情報と番組のひも付けにより、関連の深い番組へのナビゲーションが可能。
番組の編成や制作に関する様々なメタデータを放送局からサービス事業者に提供する配信管理技術。これにより、番組と密接に連携する連動アプリの制作や番組を横断して共通に利用するアプリの制作を効率よく行うことができる。
リアルタイム時空間解像度変換装置。スーパーハイビジョンからHDまで、異なる時空間解像度の映像が混在する場合でも対応できる超高圧縮映像伝送方式の研究で、時空間解像度変換装置によるリアルタイム映像符号化システムを展示。
可視光を用いた水中ワイヤレスIP伝送技術
可視光を用いた水中ワイヤレスIP伝送技術。水中における可視光線の減衰や浮遊物による伝送路の一時的な遮断が発生しても映像を安定して伝送することができるワイヤレスIP伝送システム。
ディスプレー一体型スピーカーによる8Kスーパーハイビジョン音響再生。ディスプレーの周囲に配置されたスピーカーだけで22.2chの立体音場を再生するもので、複数のスピーカーを分散配置し、音の伝搬路の独立性を高めることで、視聴位置が多少ずれても音の定位感を向上させている。
22.2chヘッドホン再生装置。通常のヘッドホンで22.2ch立体音響を再現させるシステムで、事前に測定した22.2ch音響のスピーカー位置ごとの頭部伝達関数データを使って音響信号処理することで22.2chによる立体音響の印象を通常のヘッドホンで正確に再現できる。
顔の表情を部分的に取り入れた手話CG翻訳システム。手話には顔の表情で表す単語があり、そうした単語を表現でき、TVMLを拡張することで顔の表情を含めてCG表現できる。
立体や図を伝える触覚ディスプレー。触れることで図やグラフのほか美術品など立体の形状や固さなどを伝えることができるディスプレー。任意の箇所を異なる振動で刺激することで表現できるほか、ディスプレー上を指でなぞることで形状の知覚を誘導して認識させることができる。
さわれるテレビ。テレビを見ながら手元の袋を振ると、テレビの中のポップコーンがはじけると同時に手元でもポップコーンがはじける感触が伝わる。
飛び出すテレビ。タブレットをテレビにかざすことでテレビのキャラクターが飛び出してくる。
1964年の東京五輪で使われたカラービデオカメラ。イメージオルシコンという撮像管を輝度と色に使った2IO 分離輝度方式のカメラ。日本でテレビ放送が開始された11年後のことで、小型の1/2ビジコンカメラや接話マイク、スローモーションVTRなど開催に合わせて様々な機材が開発された。また、静止衛星「シンコム3号」を利用して世界で初めて海外生中継を行っている。ある意味2020年のオリンピックもこうした技術発展の節目といえるのかもしれない。