今注目のイベント映像演出の世界
リード エグジビション ジャパン株式会社は、7月9日から11日までの3日間、東京都江東区の東京ビッグサイトにて、ライブやイベントを開催するために必要なサービスや機材を展示する「第1回ライブ&イベント産業展」を開催した。
昨年、初開催を発表した当初は、2014年7月2日~4日に開催された同社主催の「プロダクションEXPO東京」や「コンテンツ制作・配信ソリューション展」などのコンテンツ関連の展示会の一部として行われる予定であった。ところが開催決定を発表すると予想を上回る反響があり、結局ライブ&イベント産業展のみ日程を変更し、会場を広くして単独開催として行われることになった。そんな経緯があったことからしても、業界からの注目度の高さが伺える展示会だ。出展社数は220社と盛況で、業界最大級の展示会といって間違いないだろう。ライブからイベントまで最新事情が展示された会場の様子を紹介しよう。
タケナカ | ホログラム映像を使ったパフォーマンスに注目
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タケナカブースの様子。ステージにLEDスクリーンとホログラムシステムが設置されていた
最初に、さまざまなプロジェクションマッピングの実績が話題になっているタケナカブースから紹介しよう。ブースでは、国内最大級大型ホロシステムとその後ろにLEDパネルを組み合わせたステージが設置されていて、タケナカのクリエイター4名が手がけたオリジナルコンテンツを公開。すべて、自社のクリエイティブと音響、照明といったハードを統合したもので、ハードからコンテンツまでワンストップのサービスであるとアピール。
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左が実際のダンサー。右がホログラムで投影された人だ
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見どころはダンサーとホログラムが見事にシンクロしているところだ
ブース取材時には、コンテンポラリーダンサーが3Dホログラムの映像に合わせて踊るというパフォーマンスが行われていた。ホログラムによって映像が浮かび上がって見え、実際のダンサーのパフォーマンスと融合しているところは見事だった。このほかにもストリートダンスバージョンやプレゼンテーションといったプログラムも行われており、各コンテンツの合間にはホログラムシステムを使ったインタラクティブなホログラムインベーダーゲームが楽しめるようになっていた。こちらのゲームも映像の投影とホログラムの両方を使って奥行き感が表現されている大がかりなものだ。
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プログラムとプログラムの合間にはホログラムとビジュアルが投影されたものを使ったゲームが楽しめるようになっていた
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ゲームのコントロールはタッチスクリーンのモニターを使って行う仕組みになっていた
タケナカの展示したすべてのコンテンツはライブ&イベント産業展のために制作されたものとのこと。プロジェクションマッピングの実績紹介や展示などではなく、ホログラムの映像演出でアピールしてくるところはさすが業界をリードしているタケナカといった感じだった。
ローランド | 小さな音でロックバンドライブを実現
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ツインギター、ベース、ドラムの4人組バンド「D_Drive」がローランドブースのステージでライブを行った。ステージ前の来場者はみんなヘッドホンをしてライブの演奏を楽しんでいる
ローランドブースのステージでは、ロックバンド「D_Drive」が小さな音でライブを行う「ALL LINE LIVEデモ演奏」というのが行われていた。これもライブ&イベント産業展らしいステージだった。
通常、展示会の会場は音量に制限が設けられていて、ブースでむやみやたらに大きな音を出すことはできない。真剣な商談が行われる展示会とロックバンドのライブというのは、水と油みたいに相反するものだ。しかし、ローランドのブースでライブが実施された理由は、バンドのメンバーはギターアンプや生ドラムなどは一切使用せずに静音性に優れた電子楽器を使ったからだ。
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ライブ演奏が行われたステージ。エフェクトプロセッサーのGT-100やGT-10Bや、電子ドラムのTD-30KV-Sが置いてあるだけのシンプルな構成だ
エフェクトプロセッサーのGT-100やGT-10B、V-Drumsと呼ばれる電子ドラムのTD-30KV-Sといったオールデジタルハードウェアの楽器を使って、全ての楽器からLINE出力をする。つまり、楽器自体から、エアーに出ている音はないのだ。バンドのメンバーはヘッドホンをして自分たちの音楽が聞こえる状態になっており、音楽を楽しみたいという来場者は用意されたヘッドホンを着用し、ミキサーから出た音楽を楽しめるようになっていた。実際にライブが始まると、バンドのメンバーは楽しそうに普通にライブをしているのに、PAスピーカーからは音はでていないというシュールな光景が展開されていた。
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Vドラム最上位機種の電子ドラムTD-30KV-S。メッシュパッドによる静穏性や、叩く位置やロール、フラムといった演奏奏法によっても音色が変わる
このようにオールデジタルハードウェアの楽器をライブステージに導入することにより、音響を完全にコントロールすることができる。小さなレストランやバーでも、ロックバンドのようなヘビーな音楽を演奏することが不可能ではなくなってきているということを証明してみせたステージだ。
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ローランド初のマトリックススイッチャー「XS」シリーズ。写真は4出力モデルの「XS-84H」
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「XS-84H」の背面。HDMIやアナログビデオインプットを8系統搭載している
ブースに展示されている製品で目を引いたのは、6月11日に開催された「ローランド Audio & Visual 新製品内覧会 2014」で発表されたローランド初のマトリックススイッチャーXSシリーズだ。デジタル / アナログ8系統入力に、2出力モデルのXS-82H、3出力モデルのXS-83H、4出力モデルのXS-84Hがラインナップされている。特徴は、オーディオ機能の充実で、オーディオにミキサーの機能を搭載しており個別にオーディオを音量調整でき、チャンネルごとにイコライザーやコンプレッサーなどを搭載していて調整を細かくできるようになっている。
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オーディオ入力系統にはハイパスフィルター、4バンドイコライザ、ノイズゲート、コンプレッサーを搭載している。写真は4バンドイコライザの設定画面
映像関連の特徴では、画面のプロセッサーの機能も充実していて、ピクチャー・イン・ピクチャーができるPinPモードや、1画面を複数画面への拡大出力が行えるスパン・モードを搭載している。また、iPad専用アプリケーションXS Remoteをリリース予定で、iPad上でビデオの出力先を選んだり、オーディオのレベル調整などの操作が可能になる。XS Remoteは無償でダウンロードでき、発売は11月を予定している。
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iPad専用アプリケーション「XS Remote」からマトリクススイッチャーをリモートコントロール可能だ
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HDの16:9の真ん中を切り出して、3画面で出力する「スパン・モード」で出力したところ
レイ | ソニーF65から4Kプロジェクターへの4Kライブ中継をデモ
レイと呼ぶより、“マックレイ”と呼んだほうがお馴染みかもしれない。今年3月1日をもってマックレイはレイと合併したため、レイという社名で出展されていた。レイというと4K関連の機材を豊富に取り揃えており、その技術にも定評がある。
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レイのブースでライブカメラとして使われていたF65RS
ブースでは4Kライブカメラシステムでステージを撮影し、ステージ上部に設置された巨大な4Kのプロジェクターやステージサイトに設置されたモニター2台にライブで投影するという提案が行われていた。ライブに使っているカメラはCMなどの撮影でよく使われているF65RSだ。F65RSには、F65専用アダプターのSKC-4065を使ってカメラシステムアダプターCA-4000を接続し、4Kライブカメラシステムにしている。そこから光ケーブル1本でベースバンドプロセッサーの「BPU-4000」に接続して、各4Kモニターやプロジェクターに出力という構成で行われていた。
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F65RSで撮影されたステージのライブ映像を4Kプロジェクターや2台の4Kモニターにカットアウトして出力が行われていた
パブリックアートの制作もアピールが行われていた。東京駅丸ノ内駅舎に投影が行われた日本最大級のプロジェクションマッピング「東京ミチテラス」の様子を模型を使って再現していた。レイはこのプロジェクションマッピングイベントのマッピング技術や映像演出、ハードを担当したとのことだ。
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プロジェクターで東京駅のミニチュアにプロジェクションマッピングを投影してイベントの様子を再現していた
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東京駅に投影されたプロジェクションマッピング。非常に大規模なプロジェクションマッピングイベントだったが、その技術を支えたのがレイだ
FeliCa搭載の携帯電話やカードをリーダーにかざすと、ツリーの色が変わる「My Color tree」というデモも行われていた。スタッフがデモ用として用意したグリーンと書かれたカードをかざすと、ツリーがグリーンになり、赤と書かれたカードをかすと赤になる。SuicaなどのICカードにも対応しており、ICカードのIDの下三桁を読み取って色を決定するという仕組みだ。デモでは単色で色が変化するだけだが、エフェクトが出たり、レインボーになったり、映像を出すトリガーとして使えるのではないかとのことだ。
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緑の色になるカードをかざすと、ツリーが緑になる
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青の色になるカードをかざすと、ツリーが青になる
ヒビノ | アーティストのステージ映像を再現したLEDスクリーンを展示
ヒビノは、国内外のトップアーティストのステージ映像や大規模展示会での映像システムを数多く手掛けている。ブースでは、そんな大規模なイベントでの利用をイメージし、2種類の大画面を構築したLEDスクリーンの展示が行われていた。1つが、高精細な9mmピッチを実現した「F9L」だ。9mmタイプでありながら、割と薄くて軽いのが特徴。もう1つは、3.8mmという非常に精細なピッチ幅を実現した「V38」も大画面を構築して展示されていた。こちらは展示会といったシーンで活用されているとのことだ。
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9mmタイプのF9L。短時間で大画面の設置が可能だ
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3.8mmピッチなので小さなスクリーンサイズでも高精細な画面設営が可能だ
F9Lで構成した大画面スクリーンの床には、フロアLEDのINTERRACTIVE FLOORが設置されていた。加圧センサーが搭載されていて、脚に反応できるLEDだ。実際にLEDの上を歩くと足の動きに合わせて波紋が広がる。海外のライブイベントなどですでに活用されているとのことだ。
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一見するとただの床に見えるが、歩くと模様が表示される
透明な液晶ディスプレイのReveal G55もユニークな展示だった。白い映像はディスプレイをもっとも透明に、黒はもっとも透明性を遮断するという特性をもっている。商品のディスプレイとして使って、展示物と絡ませた映像を出すと面白いことができそうだ。「水族館で使っても面白いのでは」ともアピールをしていた。
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ブースでは4面マルチの状態で展示されていて、いろいろなデザインを表示するデモが行われていた
エルテック | ピッチ幅が1.9mmと1.6mmのLEDを展示
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イルミネーションイベントのようだが、これも商品の展示だ。下に商品の名札が配置されていた
LEDのスペシャリストと言われるほどあらゆるLEDを取り揃えている同社は、それらをすべて展示していた。“宇宙”というテーマでブースは飾り付けられており、ブースの外見はまるでイルミネーションイベントのような光景になっていた。展示の中でも注目を浴びていたのは、ピッチ幅が1.9mmと1.6mmのLEDだ。中国に本社のあるLAYARDというメーカーと共同開発をしたという製品で、おそらく世界で初めてではないかとのことだ。
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参考出品されていたピッチ幅が1.9mmのLED
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こちらも参考出品されていたピッチ幅が1.6mmのLED
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ブースでは4Kの映像をフル4Kのプレーヤーで用意し、少し距離を開けたところに配置されている4Kモニターに無線で伝送するというデモも行っていた
映像センター(AVC) | レンタル市場初上陸、立体型LED「DELTA WALL 3D」
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国内レンタル市場初のお披露目となる新商品「DELTA WALL 3D」が展示されていた
映像センターは、多数のコンサートビジネスなどのビジュアル演出をサポートしている企業で、ブースではコンサート会場をイメージした演出例を展示していた。特に強く推していたのはステージ両サイドに設置されていた立体型LED「DELTA WALL 3D」だ。レンタル市場日本発上陸で、まだ映像センターしかもっていない新製品とのことだ。上部には18mm LEDのLinx-18を使って湾曲設置されていた。ドレープ幕のイメージや湾曲させた設置など、立体感のある展示が行えるとアピール。ブース正面は、バルコの9mmLED「V9L」が横12メートルにも及ぶ大画面になる形で設置されていた。V9Lはスリムで軽く、特別な磁気を採用してすばやく簡単に設置可能というのが特徴だ。
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Linx-18を使って天井に湾曲で取り付けられていた。フレキシブルな空間表現が可能というのが特徴だ
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「V9L」で12メートルの巨大スクリーンを実現していた
オムニバス・ジャパン / 東北新社 | 複雑な映像表示条件の映像制作や出力をアシストするツール「omniviz」を展示
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こちらがブースで展示されていた複数のモニターと映像。写真では切れてしまっているが、天井にもモニターがあり、それらに映像が出力が行われている
複雑にレイアウトされた複数のディスプレイに映像を出力するというデモと、その映像制作をサポート、映像出力に使用するツール「omniviz」の紹介がされていた。ブースには、左右に3台ずつ、中央と天井に1台ずつ、合計で8台のモニターが設置されていた。omnivizは、このような複雑なモニター環境に対して、再生する映像のレイアウトや大きさ、角度を自由に変えて、それぞれのモニターに映像出力ができる。「この映像はここ」「この映像はここ」というような形で、自由に割り当てることができる感じだ。なおかつ、実際にモニターへ映像を出力しなくても、画面上でどのように再生されるのかといったことを視覚的に確認することもできる。システムに「マスター」と「スレーブ」の設定が可能で、複数のomnivizのシステムを同期させて映像を出すことも可能だ。スレーブは何台でも増やせるので、映像出力に使えるスクリーン数に制限はない。つまり、解像度もいくらでも増やせるという。
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omniviz上でモニターのレイアウトや出力結果をイメージで確認できるようになっている。下は一緒に組み合わせて使ったDaVinci Resolveの画面
ちなみにブースのデモは、左右の6面に関しては1台のPCから出力し、真ん中と上に関しては、もう1台別のPCから出力されていた。スタッフによると、omnivizはもともと映像制作時に使うツールとして開発したもので、編集している映像を実際にモニターに出力することなく、その場のPC上で確認ができるようにするために作られたものとのことだ。
たとえば、日本科学未来館でシンボル展示されているGeo-Cosmosという巨大な地球型ディスプレイが展示されているが、そこの映像制作を担当した際も、omnivizを使って映像を球体に貼り付けた状態を再現して、1階から見えた状態や、3階から見えた状態をクライアントと事前に確認しながら映像を仕上げていったという。さらに、こういったイベントの出しにも使えるということをアピールしていた。
フォトロン | Vizrt社の技術を使ってライブ映像演出システムを実現
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オンエアグラフィックシステムのVizを使ったライブ映像演出システム
VizrtはCGタイトル、スポーツコーダー、バーチャルセットなどに使われているオンエアグラフィックスシステムだ。放送業界では毎日のように使われているが、今回のライブ&イベント産業展のターゲットであるライブやイベントの業界では使われていない。そこで、PCDJ用のコントローラーとつなげて、Vizのエンジンに対してコマンドを投げることでVJのライブ映像演出システムを実現してしまおうというデモが行われていた。瞬時の切り替えというのは問題なくできるし、アニメーションもフェイダーに連動している。ライブやイベント業界では、3Dのベースのモデルでこういった切り替えやこの解像度でできるものがなかなかないことから興味深いシステムとなっていた。
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パイオニアのPCDJ用コントローラーを使って操作ができるようになっていた
WRITER PROFILE
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