さまざまなものが、デジタル技術によってサイネージ化する現在

屋外広告や店頭販促などがデジタルサイネージ化しているのは言うまでもない。これからますます、私たちの生活の中にあるさまざまなものが、デジタル技術によってサイネージ化していくのだろう。そうした事例の一つとして、どこの駅にもある時刻表をデジタル化した事例が、JR横浜駅に登場した。

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JR横浜駅のデジタル時刻表の実証実験

このデジタル時刻表で大事なことは、別にデジタルでなくてもいいけど、あれば確実に便利になるということだ。デジタルの恩恵というのはこういうことで、それを実現するためのコストが劇的に低下しており実現できるようになる。デジタルサイネージ全体がこうした「なくてもいいけどあれば便利」というものだからだ。アナログ時代でも手間をかければ実現できたことを、デジタルによって簡単便利に実現できるようになること、ここが重要なのだ。

設置場所はJR横浜駅の中央北改札を入った付近である。横浜駅にはホーム上や改札口付近などに、時刻表がなんと合計154面もあるそうだ。これらをダイヤ改正のたびに全て書き換えているわけだ。ダイヤ改正は春に大きな改正が行われるが、これ以外にも細かな改正は毎月行われているそうだ。そのためこうした時刻表の書き換えは、大きな手間とコストを伴うわけだ。いうまでもなく、デジタル化でこのランニングコストは激減するのである。

今回のデジタル時刻表は、46インチのタッチパネルディスプレイを利用しており、単に表示するだけではなく、複数のコンテンツを使う側が選択することができる。コンテンツは各線の時刻表、乗車位置案内、駅構内図、首都圏の路線図、近隣の観光スポットへの行き方である。企画はJR東日本横浜支社とJR時刻表を発行している交通新聞社で、タッチパネルによるサイネージシステムはビズライト・テクノロジーが担当した。

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メインメニュー画面

各コンテンツを見ていこう。JR横浜駅の場合、時刻表は東海道線、横須賀線、京浜東北線・根岸線・横浜線、それに成田エクスプレスと湘南新宿ラインだ。これにまもなく上野東京ラインも加わる。表示形式はアナログと同じく、各時間帯ごとの発車時刻が並んでいるものだ。これだけならデジタル化の恩恵は少ないのだが、デジタルの特徴として、各発車時刻をタッチすると、その列車の各駅での到着時刻が表示される。

一つ残念なのは、現在時刻がディスプレイ内には表示されないので、次の電車が何分なのかを知るためには、別の方法で現在時刻を確認する必要がある。ここはちょっと片手落ちな気がした。

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デジタル化された駅の時刻表

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列車運行経路ごとの発着時刻を表示

乗車位置案内はJR横浜駅では重要な情報だ。特に横須賀線ホームでは、横須賀線、湘南新宿ライン、成田エクスプレスが同じホームに入ってくる。それぞれ列車の連結数が異なり、グリーン車の位置や車いすスペースの場所も変わってしまう。ホーム上のLED表示機でもこれらは案内されているが、気づかない人も多く、目の前にグリーン車が停車して慌てて普通車に駆け込むことになる。旅行者のようなその路線に不安な人にとって、この表示機能はとても便利である。

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乗車位置案内

駅構内図は、トイレやATMの位置などを教えてくれる。駅構内が非常に広い横浜駅では有効だ。もちろん現在いる場所が点滅するので、目的の場所まで迷うこともない。

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横浜駅の構内案内

首都圏路線図は、観光客、特に外国人にとっては必須だ。私も海外に行った場合にはこの路線図がないと非常に困る。目的地の駅名はわかっていても、それがどの線なのか、上りか下りか、どちら方向に乗るべきなのか、乗るべき電車の終着先はどちらなのか、こうしたことが全部わからないと逆方向の電車に乗るハメになる。不安な街での電車利用においてはとても重要だ。

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首都圏路線図 日本語

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首都圏路線図 英語

近隣スポットまでの行き方案内は、スマホなどの乗換検索アプリと同じ機能だ。しかしこうしたアプリでは乗車駅と降車駅の両方を入力する必要があるが、デジタル時刻表では目的地だけわかればすぐに検索できて便利だ。こうした些細に見えることがとても便利なのである。月末のATMに大行列しながら振込していることを考えて欲しい。そんなものはネットバンキングでできると思うのは早計なのだ。

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近隣のスポットへの行き方検索

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横浜アリーナまでの行き方

もう一つ、全部のコンテンツに共通なのは、日英2ヶ国語に対応している点で、これも重要だ。そしてその切り替えも非常に速い。こうした案内系のデジタルサイネージでは、言語を切り替えるとメインメニューに戻ってしまったり、時間がかかったりして使い勝手が良くないものが多かった。このデジタル時刻表の場合は、切り替えは一瞬でサクサク動作する。

ありふれたものがデジタルに置き換わる時

例えば前回紹介したレストランのメニューの例で言えば、メニューというのは手描きからワープロや印刷へ、さらにはカラー化して、写真まで付いた。この先はそれがデジタルになり、料理がテーブルの上に原寸大で現れたり、多言語翻訳に対応していくのだろうということだ。海外で不案内な言語の国でレストランに入った時のことをイメージしてみてもらいたい。翻訳されたものがなくても何とかなるが、あれば食べられそうもないものを注文することもない。

このデジタル時刻表は、時刻表というありふれたものが、デジタル化、サイネージ化することで、これだけ便利になる、ということを現実のものとして体験させてくれる。それは利用者にとってのサービス向上と、鉄道会社にとっての効率化の両方である。導入価格が低下していくことによって実装が進み、利便性が広がる。ありふれたもののデジタル化、これがこのデジタル時刻表の本質であり、意義があることなのだと思う。生活の中のありふれたものがデジタルサイネージ化したらどうなるのか、こうした視点が新たなビジネスチャンスを生むに違いない。

今回の横浜駅のデジタル時刻表は、実証実験であり、3月12日まで設置されるとのことなので、ぜひとも体験してみてはどうだろう。きっとどこかの駅に正式導入される日も近いのではないだろうか。

※追記:2月18日から阪急梅田駅でもデジタル時刻表が稼働した。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。