txt:江口靖二 構成:編集部
様々な場所で利用されるデジタルサイネージ
デジタルサイネージは広告や販促、館内案内や時刻表以外にも、様々な場所で利用されている。これらは、ディスプレイ技術の進化と低価格化によって、さらに加速していくと思われる。今回はそんな事例をまとめて紹介してみたい。
表面から見た状態。透明度もかなり高く、中に展示している商品もしっかり見える
まず最初に、透明なディスプレイである。SF映画のように、空間に映像が浮かぶような、そんな技術が現実のものとなりつつある。これはCES2016のサムスンブースの展示で使われていた、透明OLEDだ。これまでサムスンは、IFAなどでも技術展示をしてきたが、今回は自社製品の展示ブースで実際に使用していた。同社の透明OLEDの特徴は、裏側から見ると映像は表示されず、当面なままなのである。これは空間演出上は大きな可能性を秘めている。LCDのような、黒い無骨な板切れ、特に電源をOFFすると空間上にどうにもならない物体が残る。店舗デザイナーにとっては非常に使いにくいものだった。これが透明になり、裏面には何も映らないとなると一気に用途が広がりそうだ。
裏側からは何も表示されない透明な状態だ
こちらは天井というデジタルサイネージ的に未開拓な場所での利用例である。写真からは伝わりにくいが、天井面に設置されたディスプレイに表示される映像はやはり空間演出上、効果的なものである。頭の上で表示される映像は非常に新鮮だ。このタイプはラスベガスのフリーモントストリートに、長さ400メートルにわたってアーケードの天井部分にLEDディスプレイが設置されていて、これは観光名所にもなっている。よく考えれば天井画というのは、西洋でも、日本でも古くから使われてきた場所である。LCDでは特に放熱や強度の点から制約があったのだが、LEDであればそれらが解決できる。
頭上で展開されるCGは今までになかった印象を空間にもたらす
解像度は低いが400メートルのという長さには圧倒される
次は壁面での利用だ。シンガポールの「サンテック エキシビション&コンベンションセンター」には、ギネスブック世界記録である、高さ15m×幅60mのビデオウォールがある。LGの55インチのLCDを664面で構成されている。ここまで来ると空間演出というよりは景観形成ともいうべきものだ。いうまでもなく、今後のコスト低下によって、こうした壁面利用も進んでいくに違いない。
55インチが664面。現場に立つとそのインパクトは圧巻である
香港の「ESPRIT」の店舗は、建物の外壁全部がLEDで覆われている。コスト低減のためにあえて解像度を抑えて、それによってデザイン性を高めるようになっている。壁面全部にフルドットで構成するよりもむしろインパクトが有る。
あえて粗い映像であることが効果的になっている
壁面ではないが、香港には階段の激面部分にLEDディスプレイを組み込んだものを多数見ることができる。
こんな場所にもディスプレイが使われつつある。こういう場所で有効な映像コンテンツを考えるのは楽しい
ロンドンのレストラン「inamo」では、天井から吊るされたプロジェクターで、テーブル面に投影している。これはデジタルなメニューと注文システムになっていて、メニューから選択をするとテーブルに置かれた皿に、実際の料理の映像が原寸大で表示される。文字だけや写真のメニューよりも遥かにリアルで、なによりとても楽しい。
ロンドンのレストラン「inamo」皿の上にメニューが原寸大で投影される
このように、利用目的や設置場所が、いままでのものから様々な広がりを見せていくだろう。技術の進化とそれによる価格の低下がこれらを様々な場所で実現できるようになっている。そんなものは必要ないという意見もあるだろうが、ではHDや4K/8Kはどうなのか。必要ないと考えるのであればそれでもいいが、映像ビジネスを今後も拡大していくという立場になれば、こうした無駄な場所を仕事にしていくことが、私達の仕事なのだと思うのである。