txt:江口靖二 構成:編集部
Inter BEEでは機器展以外にもさまざまなイベントが目白押しである。開催2日目の16日18時から、会場内の特設ステージでタワーレコードがNTTドコモ、NTTぷららと共同で「新体感ライブビューイング」というイベントを開催した。
Inter BEE IGNITION
InterBEEは、放送だけではなく映像業界全体の発展のために「コンテンツ」を中核にして「つくる(制作)」「おくる(伝送)」「うける(体験)」の領域をすべてカバーし、メディアコミュニケーションとエンターテインメントの最新テクノロジーを集約した総合イベントへの発展を目指している。
これはInterBEE全体を俯瞰するとその位置づけがよく分かる。従来からの放送機器展としてのInterBEEに加えて、2014年から開催しているのが「INTER BEE CONNECTED」だ。これはハードウェアやシステムではなく、サービスやビジネスとしての放送の近未来を指し示すための場であり、多くのセミナーが開催されている。
昨年からスタートしたInter BEE IGNITIONは、明確に放送以外のサービスにフォーカスしている。急速に進化し変化するメディアとエンターテインメントの表現世界を、放送の枠を超えて体感創造するものだ。今年は「Show Biz」「Music」「Sports」にフォーカスし、クリエイターとコンテンツ、テクノロジーがコラボレーションして生み出す新たな映像表現を考える場となっていた。VR(仮想現実)や360°映像をはじめ、AR(拡張現実)、ホログラム映像、ライブビューイング、ロボティクス、映像表現技術へのAIの導入など、その可能性と未来を発信する場所と位置づけられている。
新体感ライブビューイングとは何か
NTTドコモ コンシューマビジネス推進部長 芦川隆範氏
タワーレコード渋谷店のライブ・ストリーミング・スペースCUTUP STUDIOでの「エドガー・サリヴァン」のライブパフォーマンスを幕張メッセにリアルタイム配信し、ライブビューイング会場となった幕張メッセの特設ステージで、アーティストとユーザーのコミュニケーション、スクリーンとスマホの連携など、リアル会場では体験できないインタラクティブ体験を提供する試みである。冒頭、NTTドコモのコンシューマビジネス推進部長 芦川隆範氏は、「5Gの時代を見据えて、新しいユーザー体験のひとつとして音楽ライブも重要」と挨拶した。
タワレコ×NTTドコモの新体感音楽ライブイベントへの取り組み
今回の実施概要
会場内では大型スクリーンに加えて、等身大に投影できる透過スクリーンを5台設置。それぞれのスクリーンにメンバー3人が表示され、適宜映像がスイッチングされた。透過スクリーンはステージ上と会場内に離れて配置されており(スプリットスクリーン)、その物理的な位置の違いと、透過スクリーンによって背景が透けて見えることで、あたかも本物のアーティストがステージ上でパフォーマンスしているような感覚を演出した。
透明なパネルに特殊なシートを貼ってリアから超短焦点プロジェクターで投影している。右のタブレットにも演出映像が表示される
すべて同じ映像を表示した場合
メンバーを各スクリーンに分けて表示した場合
モーショングラフィックスを表示した場合
スマホにもアーティストが表示される
さらに会場内には複数のタブレット、さらに来場者のスマホにも専用Webアプリ経由でアーティストが出現し、会場内を飛び回るかのような演出になっていた。
ライブビューイングは4Kや8K、あるいは今後それ以上の大画面高解像度になることで、現場に近い臨場感を体験できる。しかしスクリーンやディスプレイが1つで、かつ固定された場所にあると、どうしても「映像を見ている」感覚が残ってしまう。そこで表示装置(今回は透明スクリーン)が持つ物理的な位置の違いは、「映像を見ている」感覚から「その場にいる」感覚に近いものが得られたのではないだろうか。
これはビジネスとしてのライブビューイングを考える場合、非常に重要なポイントになってくるだろう。それは現場以上の体験価値を提供することだ。現場ではできないことをライブビューイングで提供することはできないのか、そのためにはどういうテクノロジーや、どういう演出が効果的なのかという検証の場であった。
インタラクティブドローイング
自分のスマホでスタンプを作成
ライブビューイングでは、現場ではない場所を現場にする必要がある。参加者の体験価値を向上させるために、参加する、参加している感の演出が重要だ。今回は前述のWebアプリを使って直接オーディエンスにライブに参加してもらう試みも行われた。アプリ上から自分で作成したスタンプ画像(今回は楽曲にテーマ合わせて雪の結晶)をスワイプすることで、ステージ上のスクリーンにリアルタイムで表示させた。
雪の結晶に「CUTE」の文字を加える
オーディエンスが作成したスタンプがリアルタイムに表示される
オペレーション的には、アプリをダウンロードしてもらうことは一般的にはかなり敷居が高いことなのだが、お気に入りのアーティストのライブ会場に来ているのであれば、それはかなり緩和できるだろう。あらかじめ開演前にスクリーンやフライヤーでQRコードを介してWebアプリを使える状態にしてもらうのである。あとはアプリで何をしてもらい、それでどこまで参加感を醸成できるのか。ここから先は演出とクリエイティブの領域であり、無限の可能性があるのではないだろうか。現状すでに会場のオーディエンスは全員スマホを持っている状態にも関わらず、ライブ中に非常にハイスペックなツールであるスマホを味方にしないというのは非常にもったいない話だ。
左:NTTドコモのデジタルコンテンツサービス担当部長 山下智正氏右:タワーレコード 代表取締役副社長 伊能美和子氏
タワーレコード 代表取締役副社長 伊能美和子氏は、
伊能氏:タワーレコードではインストアイベントなどを通じて常に新しい体験価値を提供することを考えています。そのひとつとして、VRゴーグルなどを必要としないグラスフリーの3D体験を「グラフリ3D」と位置づけたいと思っています。
と、今回のイベントの方向性を示した。こうした新しいライブエンターテインメントビジネスの拡大のカギとして、以下のように語った。
伊能氏:アーティスト側もこういう可能性をもっと知ってほしい。また演出としては新しいクリエイティブ力が必要。機材やアプリなどはある程度の標準化的なことも必要かも知れません。
さらにNTTドコモのデジタルコンテンツサービス担当部長の山下智正氏は、
山下氏:こうしたトライアルは今後も継続していきたいです。音楽だけではなくスポーツや舞台、2.5次元なども有効。dTVチャンネルとの親和性も高いのではないかと思います。
と語った。
NTTドコモは11月8日にPerfumeとコラボレーションし、新たなパフォーマンスに挑戦する「FUTURE-EXPERIMENT VOL.1 距離をなくせ。」を全世界に配信した。5Gの活用の1つとして、今後はこうしたライブエンターテインメントの世界に積極的に展開していくことになるのであろう。