txt:江口靖二 構成:編集部

デジタルサイネージ合宿in台湾

台北駅の新設されていたデジタルサイネージ。各ディスプレイは連動している

先日、台湾の花蓮に出かける機会を得た。詳しく言うと、筆者をはじめとして有志で開催している「デジタルサイネージ合宿」というイベントがある。この合宿は国内外の各地に出かけて、デジタルサイネージを見て回る、という名目で遊びに行こうというものだ。すでに10回以上開催していて、国外ではこれまでにソウルに2回、上海に1回に続き、今回は3月10日から2泊3日で台北に出かける予定を組んでいた。

写真ではわかりにくいが、実際の現場での視認性は非常に良好

ところが2月6日に台湾北東部の海岸沿いの都市、花蓮をM6.4の地震が襲った。参加予定者全員は被害が少ないことを祈っていた。時間経過とともにその被害はどうやらきわめて局所的なものであることがわかってきた。それよりもいわゆる風評被害的なものも少なくなく、日本人も含めた観光客が相当減少していることを聞くようになった。

そこで2泊3日の台北だけの滞在内容を変更して、台北から日帰りで花蓮に行くことを全員で決定したのである。台北から花蓮までは電車で2時間から3時間、片道が日本円で1,500円である。我々は最初に台北駅に集合すると、駅のメインホールの壁面と柱に新たなデジタルサイネージが設置されていた。昨年末以降のことだと思われる。実際に現場で見ると、写真以上に視認性が高いものになっていた。なお花蓮行きの電車は満席になりやすいので、こちらの台鐵のサイトから事前にネットで予約しておくことをお勧めする。

立霧渓にかかる太魯閣大橋。この上流が太魯閣渓谷

台北から花蓮までの車窓は、日本のそれと非常に似ている。いい意味で外国にいる感じがほとんどしない、どこか懐かしい景色が続く。花蓮駅に到着すると、早速デジタルサイネージが出迎えてくれた。ホームとホームをつなぐ地下通路の壁面に6面マルチが設置されていた。この場所は視認性が抜群であるが、お世辞にも画質がいいとは言えず(というかかなり悪く、時々フリーズするのはご愛嬌)よくこれでやっているなあという印象だが、それでも複数の広告が放映されていた。

水田ではちょうど田植えが終わったところだった

花蓮駅のホーム

花蓮駅地下通路の6面マルチ

花蓮駅はいま新しい巨大な駅舎の工事中のため、駅前は雑然とした状態である。今回は日本人10名でやってきたのだが、電車内にも駅にも日本人の姿はなかった。これは街の中でも、帰りの電車でも結局日本人に合うことはなかった。これが地震の影響なのかはよくわからない。花蓮の街のサイズはそんなに大きくない。中心市街地は駅から歩いて20分位の場所にあり、その先は海で、東に200キロほど先には波照間島がある。気候が良い時期であれば花蓮駅からぜひ歩いて街をゆっくり散策することをお勧めする。

花蓮駅のインフォメーションサイネージ

建築中の新花蓮駅

初めて訪れたので比較ができないが、観光客っぽい姿はあまり多くない感じだ。店の飾り付けなどは新しく、本来は決して寂れた街ではないことは容易に想像できる。つまり、日本人だけではなく、台湾国内はもちろん、中国や韓国などからの観光客も最近急速に減少したように感じられる。

花蓮の中心地である中華路の様子。人通りが少ない

では、地震の被害はどうかというと、これが驚くほど普通である。我々が歩いた範囲(中心部はほぼ制覇した)では危険な状態でまもなく解体されると思われる建物(旧遠東百貨花蓮店を一つ見ただけである。それ以外は地震があったことすら一切感じられない。人々の生活も至って普通。構造や工事に問題のあった4棟の建物が倒壊しただけなのである。ボランティアもいないし、テント村があるわけでもない、普通の生活である。なので「よくぞまあ花蓮まで来てくれました」という態度に会うこともない。

「戴記扁食」のメニューはこのワンタン一択で65元。セロリと青ネギが効いている

そのため我々は普通に、花蓮のデジタルサイネージ探索を行うことにした。その前にもう昼時になっていたのでまずは腹ごしらえである。花蓮はワンタン(扁食と書く)が名物だそうなので、まずは扁食のお店に向かう。向かったのは「戴記扁食」という扁食専門店だ。メニューはワンタンのみである。これが本当に旨い。ワンタンというものはこんなに旨いものだったのだろうかと思うほど旨い。

「公正包子」の小籠包は1個5元

その次に向かったのは小龍包のお店「公正包子」だ。この小籠包はミニ肉まんと言ったほうが近いだろうか。肉汁に注意しながら食べる一口サイズの小籠包は絶品である。このあともマンゴーかき氷やタピオカ入りのドリンクなどを堪能し、眺めの良い海沿いのカフェ「秘密海」にも足を伸ばした。そのあと入った別のワンタンのお店である「花蓮香扁食」もなかなかの味であった。夜は「東大門夜市」にも出かけて、21時過ぎの電車に乗るまで花蓮をしっかり堪能することができた。

タピオカ系ドリンクのお店

ジューススタンド

さて、本稿は観光ガイドではないので、花蓮のデジタルサイネージのレポートに戻ろう。台北程ではないが、街の商店には多数のデジタルサイネージが見られた。面白かったのは、最近ヨーロッパや日本でも注目されているスタイリッシュなコインランドリーが花蓮にもできていたことだ。まだ開店したばかりのようだが、店内にはデジタルサイネージで利用方法を説明する映像が流れていた。「花蓮鉄道文化園区」という鉄道博物館には、館内の展示物を探すことができるタッチパネル式のサイネージがあった。残念ながら中文簡体のみの対応だ。

スタイリッシュなコインランドリーが花蓮にも

利用方法を説明するサイネージ映像もお洒落

「花蓮鉄道文化園区」の案内タッチパネル。使い勝手は普通

こうした事例の影で、花蓮でもデジタルサイネージの残骸を見てしまった。これは観光案内のタッチパネルのようで、よく見るとカメラが付いている。完全に屋外に設置され、いつからなのかそのまま放置されているのでこのような無残な姿を晒している。誤解なきように言っておくが、これは地震とは全く関係なくこの状態なのである。これほどの状態になるほど前から設置されていたもので、どうやら公的なもののようである。こうした「墓石サイネージ」は万国共通である。

街なかに放置されたままの観光案内のタッチパネルであったと思われる端末

カメラ内蔵。写真を撮ってSNSに投稿できたのではないだろうか

同じものが別の場所にも設置されていたが似たような状況

花蓮では想像していたよりもたくさんのデジタルサイネージを見ることができた。大災害などが起きた場合に、募金やボランティアももちろん大切である。あくまでも状況に応じてではあるが、普通に観光に行って、その街を実際に体験することも十分に復興に協力をすることになるのだと思う。花蓮の近くには世界遺産級の景観を誇る「太魯閣(タロコ)渓谷」もあり、台北から足を伸ばすのにちょうどいい。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。