txt:江口靖二 構成:編集部

インストアテックの最先端「深セン」のデジタルサイネージ

もしいま、「世界でどこのデジタルサイネージを見るべきか」と聞かれたら、迷うこと無く「深セン」と答えるだろう。そんな深センに、今年の5月と10月に2回訪れる機会があった。テンセントやHuawei、DJI、Ankerといった企業の本社がある深センは、無人店舗やキャッシュレスといったインストアテックの最先端でもある。それでは深センでのデジタルサイネージ関連をまとめてレポートしておきたい。

■新幹線

連結部分の壁面

通路中央部分の天井

日本から深センに行くためには、深セン空港まで成田から直行便もあるが便数も少なく、値段が高めなので、すぐ隣の香港まで飛んでから、フェリー、MTR、新幹線、バスなどで深センに入る人が多いのではないだろうか。新幹線の場合は香港からわずか20分ほどで行くことができる。車両は特に中国側の新型車両は非常に新しく、デザイン性も優れている。車内には連結部分と車両中央の通路の天井にディスプレイがあり、広告媒体として利用されている。

■バス

バスの後部窓にLEDディスプレイ。動画ではなく静止画が切り替わっているものが多い

世界で初めて見たのがバスのサイネージである。もちろんバス車内のサイネージは珍しくないが、深センのバスの一部には、後部の窓にLEDディスプレイが付いていて広告を表示するものが走っている。さらに続きはスマホでということで、QRコードまで表示するものが多い。

この位置にあるディスプレイを最も見るのは、後ろを走っているクルマからということになる。日本では車体の外側に、変化する映像を表示することはできないし、読み取る前提のQRコードまで表示するというのは日本では考えられないことだ。これによって深センで交通事故が多い、といった話は聞いたことはない。なお深セン走るバスとタクシーはすべてEV車である。

■交番

交番の横に交通銀行のデジタルサイネージ

深セン市内の3カ所で見かけた例だが、大きな交差点に「公安 POLICE」と書かれた交番のようなものがあり、中には警官が詰めている。その横に交通銀行のATMがあって、大きなディスプレイで交通銀行の金融商品と思われるもの広告を表示していた。現場でもネットでもこれに関する情報を見つけることができていない。

■深セン北駅

深セン北駅の超巨大なLEDディスプレイ

深セン北駅には、昨年9月に香港までつながった新幹線の駅がある。中国らしい巨大空間を有する駅舎があり、壁面にはこれまた巨大なLEDディスプレイが設置されていて、列車の発車案内と広告が表示されている。600インチ以上、いや、もっと大きいのではないだろうか。目新しさはないが、ひたすら巨大である。

■深センMRT 11号線の列車混雑状況表示

車両ごとの混雑状況が4段階?で表示される。もちろん接近情報も分単位表示だ

これは世界でもここでしか見たことがない例である。ホームに設置されたサイネージディスプレイに、次に到着する列車の、車両ごとの混雑状況を表示している。日本では同じことをスマホアプリで確認できる例も増えているが、それではわざわざスマホを確認しなければならない。通常の行動において、地下鉄に乗る度にそんなことをするわけがない。サイネージに表示されていれば、ごく自然に目が行く。自分が立っている場所にやってくる車両が混雑しているようであれば、少しでも空いている車両に予め移動しようと思うことは当然あるだろう。かなり親切で便利なデジタルサイネージの使い方の例だと思う。

■円柱サイネージ

深センMTRの深セン北駅の円柱サイネージである。円柱型のディスプレイでは、コンテンツをどうするのかが鍵になる。ここで表示されていたものは、普通の映像だったので、元映像の右端と左端がつながっているが、そこは映像的に連続した表現にはなっていない。つまり普通のディスプレイに表示された普通の映像があって、ディスプレイをぐるっと丸めた状態ということだ。本来の円柱サイネージはこういうことではなく、継ぎ目のない連続的なコンテンツを表示するべきなのではないかと思う。

■MTRの駅ジャック

駅名を失念したが、いわゆる駅ジャックである。こうした駅ジャックは日本以外ではソウルや上海、台北などアジアでよく見かける。

■とてもよく使われているフロアガイド

深センではここ萬像天地に限らず、他のモールでもフロアガイドはとても利用されていたのが印象的だ。その理由ははっきりしないが、設置場所が日本のように壁際に追いやられることなく、わかりやすくていい場所にあるからなのではないだろうか。

■トイレのミラーサイネージ

皇庭広場というショッピングモールのトイレの洗面台の部分。日本だとコストが見合わないところだろうが、ここ深センではこういう場所も使われる。果たして継続的な広告媒体として成立するものだろうか。

■モバイルバッテリーのレンタル

万象天地にて

あまりデジタルサイネージとして積極的に媒体化はされていないが、ショッピングモールなどにはこうしたモバイルバッテリーのレンタル機が複数の事業社によって運営されている。その利用率は結構高いことに驚く。

皇庭広場にて

■街なかの大型ビジョン

普通の市内の大通りには、ビル壁面に大型ビジョンが目立つ。面白いのは画角が日本のように横長16:9である者のほうが少ないということだ。これはロケーションごとにコンテンツを用意するということを意味するわけで、やはりコストが見合うのだろうかと考えてしまう。同じことはニューヨークのタイムズスクエアもそうで、ディスプレイに画角はほぼ全部異なっているのでタイムズスクエア用の素材を用意していることになる。

■福田エリアのライトショー

こちらが市民広場付近から見た、ライトショーの一部である。ビデオではそのスケール感が伝わらないが、これだけの規模で、これを実施にやってしまうというパワーが凄い。どういうお金の回り方をしているのか気になるので、関係者がInterBEE2019で来日する際に話を聞いてみようと思う。

このように深センにはバラエティに富んだデジタルサイネージを数多く見ることができる。隣の香港と比較すると、導入が新しいからだろうか。インストアテック関連も含めて、深センを訪ねてみることを強くおすすめする。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。