txt:江口靖二 構成:編集部

移動するセルフレジ

福岡が本社で全国展開をするTRIALが、関東で初めてのスマートショッピングカートを千葉のスーパーセンタートライアル長沼店に導入した。

TRIALで注目されているのは、2年ほど前から導入されているスマートショッピングカートだ。これはショッピングカートにタブレットが組み込まれているもので、購入する商品をタブレットに接続しているスキャナーでバーコードを読み込んでカゴに入れていく。つまり移動するセルフレジなのである。

購入したい商品のバーコードをスキャンして、カートに入れていく。セルフレジがカートと一体化しているイメージである。このスキャナーは以前は固定型だったが、現在は重たい商品への対応として、引っ張り出してハンドスキャナーとしても使用できるようだ

使い方は、まずはじめにプリペイドカードを入手してあらかじめチャージしておく。チャージは店内の専用端末やサービスカウンターで行うことができる。プリペイドカードは200円ごとに1ポイントが貯まるようになっている。

前回福岡で入手したTRIALプリペイドカード。あらかじめチャージして使用する。チャージは店内の端末かサービスカウンターで現金でチャージする

店内の入り口に置かれているスマートショッピングカートのタブレットにプリペイドカードを読み込ませると、画面上に残高が表示される。商品をスキャンするごとにその時点の購入合計金額と、カード残高が表示される。この時点ではプリペイドカードからの実際の決済は行われていない。最終的な決済は最後にクイックゲートで行う。

購入した商品のリストが表示され、同時におすすめ商品やおすすめ料理のレシピなども表示される

買い物途中で、その時点の合計金額やプリペイドカードの残高が分かると、「買いすぎた」や「残高がない」といったような、売上が下がる方向に働くことが考えられる。しかし、これは店側が客単価の減少を危惧するより、顧客の安心感など、顧客側に立った方が良いという判断をしているのではないかと考えられる。実際にスーパーのような複数の商品を買い物する場所で、金額が可視化されることは、無駄な買い物をしなくて済むという安心につながるし、そのことはTRIALに対するロイヤリティの向上にも貢献するだろうと感じた。

だからと言って、アップセルの施策をしていないわけではない。おすすめ商品の獲得ポイントをアップさせていたり、買い忘れがないように、関連する商品などをディスプレイに表示している。おそらくだが、現時点でここに高度なAIやマーケティングが動いているわけではないと思われるが、今後データが蓄積されていくことで、そういった展開をしていくであろう。また店内にはビーコン端末が多数設置されている。これは今いる売り場に応じたおすすめレシピを表示するために利用している。

おすすめレシピは、店内に設置されているAplix社製のビーコンから発信されているようである

買い物が終わると、スマートカートの利用者はクイックゲートを利用することができる。Amazon Goとは異なり、店内にあるカメラでどの商品を購入したかという情報は取得していないと思われる。そのためクイックゲートは無人ではなく有人だ。ここでは係員がカートの中の商品を目視でざっくり確認している。決済はこの時点で行われる。性善説に基づいているようだがはっきりとしたことはわからない。

購入が終わるとクイックゲートに向かい、必要に応じてレジ袋などの購入や、バーコードが付いていない(付けられない)生鮮品を係員が入力していく。バーコードがない商品はタッチパネルから自分で選んで購入することも可能だ

前述の、店内に大量(688台のようだ)に設置されているネットワークカメラは、プレスリリースによると、人流の把握と在庫管理に使っているとされている。在庫管理は比較的容易だが、人流把握に関しては、これだけの台数カメラですべての顧客の動線を把握することはおそらく現実的ではない。各カメラのトラッキング情報を面的に繋いでいくためには、かなりの高負荷に耐えられるシステムが必要になるからだ。

また、こうして取得されたデータは、取引先にも共有されるという点も極めて重要である。手にとったけれど購入に至らなかったといったようなデータを取得できているかもしれないし、ビーコンによって位置情報を取得できるので、電子POP的な使い方も容易に実現できる。なんと言っても買い物客は常にディスプレイに表示される購入金額を見ているので、アイボールは常に捕捉できているわけで、強力な媒体なのである。

店内に688台もあるというカメラ

ここからはトライアル長沼店のデジタルサイネージについても紹介しておきたい。ます特徴的なことは50インチクラスの大画面を、さほど多くない台数で効果的に設置利用していることだ。コンテンツも読めないような細かい情報を表示するのではなく、とにかく大きくシンプルに1画面1情報に徹している。

そのためメッセージは明確に伝わってくる。流通系のサイネージでこういったシンプルな使い方をしているところはほとんど見かけない。ディスプレイのベゼル部分は売り場の商材に合わせた商材で装飾されている。これによってさらにコンテンツがはっきり目に入ってくる。訪れたときは、スマートショッピングカートを利用して3,000円以上購入すると50ポイントが追加されるキャンペーン中だった。

スーパーの売り場としては非常に大きな50インチ以上のディスプレイが多数使用されている

いまはレジカートの使用を積極的にプロモーション中だ

ディスプレイのベゼル部分は売り場の商材に合わせたもので装飾されている。これによってさらにコンテンツがはっきり目に入ってくる

なかなか大胆な設置法。スマートショッピングカートを利用して3,000円以上購入すると50ポイントが追加されるキャンペーン中だった

TRIALのIoTやAI、デジタルサイネージの使い方の特徴は、本当に有効なこと、それも適切な投資でできること、現実的効果が期待できることをテクノロジーで実現していることだ。ただ流すだけのデジタルサイネージの時代はここでも終焉に向かっていくことを感じた。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。