取材:泉悠斗 構成:編集部
2020年にライブ配信機器を2機種発売
アイ・オー・データ機器は、PCユーザーであればお馴染みのPC周辺機器業界の老舗企業だ。ハードディスク、メモリーなど、パソコン周辺機器のメーカーというイメージが強いが、2020年にはライブ配信機材の発売を開始。アイ・オー・データ機器がこのジャンルの製品に参入してきたのは、驚きではないだろうか。今回は、石川・金沢にあるアイ・オー・データ機器の本社ビルにお伺いして、ストリーミングBOXシリーズ企画担当の竹田隼氏にライブ配信参入のきっかけや今後の展開について話を聞いてみた。
泉:パソコン周辺機器でお馴染みのアイ・オー・データ機器さんが配信機器に参入するのは意外でした。きっかけは何でしょうか?
弊社のキャプチャー製品の中ではパソコン要らずに録画と実況ができる「GV-HDREC」や「GV-USB3/HD」が人気で、主にゲーム動画の録画やリアルタイム配信向けに提供していました。
しかし、いざ映像配信を実現するには準備する機材が煩雑で、スイッチャーやビデオキャプチャの種類も多く、使い方を覚える手間もあります。さらに、複数の配信ソフトに対応するもののソフト自体の使い勝手がすべて異なるという課題もありました。
そこで、配信エンコーダーを搭載して、PCなしのスタンドアロン型でかつスイッチングが可能、「すべて揃ったオールインワンのストリーミングBOX」を実現できればと思ったのがきっかけでした。
泉:ストリーミングBOXの第一印象は、PCレスで誰でも使いやすい製品を実現してきたと思いました。PCレスによって一部制限はありますが、手軽に配信を実現は理想的だと思いました。
そうですね。第1弾のGV-LSBOXは、配信エンコーダとして強く打ち出した製品です。最大3ストリーム同時配信を1080、60Pでの配信が可能です。この仕様を約12万円の価格帯で実現している機種は、今も恐らくないでしょう。
GV-LSBOXは配信エンコーダーにスイッチング機能を載せた製品でしたが、第2弾のGV-LSMIXER/IはどちらかというとiPadを使用して切り替えやミキシングを直感的に編集できるように力を入れました。配信自体は、1080、30Pなのですが、iPadでテロップや画像の挿入ができ、すぐに切り替えられる。配信の面白さを強く打ち出せる製品になっています。
ATEM MiniシリーズやV-1HDシリーズと競合はしない
泉:ATEM MiniやV-1HDなど低価格なスイッチャーが多い中で、ライブストリーミングBOX「LIVE ARISER」シリーズのアピール点を教えていただけますか?
はじめに、配信エンコーダー機能がついているGV-LSBOXやGV-LSMIXER/Iとは競合するものではないと考えています。
強いて挙げるなら、スイッチャーとしての使い方が主と考えられるATEM Miniは4つの映像入力の合成についてPinPが1つである点に対し、GV-LSBOXは4つの映像合成が可能ではあります。
ATEM Mini ProはGV-LSBOX発売後に登場し、配信ができることを知った瞬間は「おっ」と思ったのが正直なところです。既に配信をされている方にとってのスイッチャーとして見たら、強力な製品ですよね。
ただ、ATEM Mini Proは、スイッチングは単独で行えますが、テロップやスチルはPCの利用が必要です。私達は、お客様が「配信を始める際に」障壁となっているのはPCだと考えています。目指したのは、誰もが配信を始められる製品でありましたので、ATEM Mini Proとも棲み分けができているのではないかと思います。
類似コンセプトの製品ですと、LiveShellシリーズがあります。GV-LSBOXの明確に異なる特長は、GV-LSBOXは3ストリームに1080/60pで配信できる配信エンコーダーを搭載しつつ、かつ単独での映像スイッチングができる点です。
また、GV-LSBOXはYouTubeやTwitchなどのオープンの配信プラットフォームに送信できるほかに、同一LAN環境内での配信機能も備わっています。明確にそこは違うと思いました。
泉:発売後の反響を教えていただけますか?
発表直後から、多くのメディアさまに取り上げていただき、SNSなど含めて寄せられたコメントなどを拝見しますと、かなりの好評であったと感じています。方向性としては間違っていなかったと分かりました。
弊社の他の製品においても、コロナ禍における配信需要の高まりを直に感じていましたが、本ストリーミングBOXの発売時期がそうした情勢と重なったこともあり、これまで当たり前であったPCによる配信だけではなく、選択肢を広げたことに対する反響が特に多かったのではないかと思います。
一方で、高額な製品であることからも実際に触ってみたいという声は多く、イベント出展などのリアルな場が制限されているなかで「自社ビルからの配信によるレビュー」のほか、「レンタル」などの手法も模索しております。
泉:御社の製品はどのような現場で使われることが多いですか?
先ほど申し上げましたように、コロナ禍において、人と直に接することが出来なくなった業種のみなさまからの反響が特に多いと感じています。そのような状況の中で配信が必要になった方、たとえば、本社のある金沢市の近江町市場では、GV-LSMIXER/Iを活用いただき売り場の様子を毎日配信されているお店もあります。
また、バンドマンやアイドルなどのアーティストのみなさまの間でも、ライブやイベントでのファンの方と直接触れ合える機会が少なくなったことで、配信需要の高まりは急激に伸びています。そういった方々の、「ではどうしたら始められるのか」にお応えすることが出来ているのではないかと考えています。
もちろん、企業においても同様です。弊社自身もそうですが、セミナーやイベントを開催することで直接ユーザーさまに説明をしてきた場が急になくなりましたので、かなり焦りを感じましたが、自社ビル内に配信スタジオを設けて、これらのストリーミングBOXを自ら活用することで、オンラインによるウェビナーを定期的に開催し商品説明などを行う運用を確立させました。
その他、学校現場における校内配信の需要に対しても、GV-LSBOX、GV-LSMIXER/Iが活躍しています。
誰でも親しみやすいライブ配信機器の実現を目指す
泉:ストリーミングBOXシリーズの開発にあたり、特にこだわった箇所はどこですか?
一番こだわったのは、やはりアプリのUIや機能面についてですね。
たとえば、GV-LSMIXER/Iのシーン設定は直感的になるようにこだわりました。いまや多くの方が所持するスマホやタブレットなどのスワイプやピンチ操作によって、テロップ・画像の挿入が可能です。
配信ソフトに触れてこなかった方々でも、すぐに操作できると考えています。
泉:最後に、ライブ配信機器で今後どういった製品を予定しているのか?教えていただけますか?
今後も、あらゆるニーズから、配信への需要は益々高まっていくと考えています。
そのような中で私が考えている課題としましては、発信する側が配信環境を整えるための機材や操作についてはまだまだハードルが高く、また受信側の環境についても、リテラシーが整っていないのではないかと思っています。
ここを弊社としても何かお役に立てないかと日々頭を悩ませており、今後の製品展開へと活かしていければと考えています。