txt:江口靖二 構成:編集部
バーチャルな飛行機の窓「Sky Scape」
バーチャルな飛行機の窓である「Sky Scape」が発売された。狭い部屋を拡張する試みとして、ディスプレイで飛行機の窓からの景色を再現するという発想が新鮮である。自宅でのリモートワークや、旅行がしにくい状況において、こうしたバーチャルウインドウのニーズが案外あるのではないだろうか。
まずこちらの動画を見ていただきたい。この事例では、コワーキングスペースと思われるロケーションにSky Scapeが設置されている。狭い空間を快適に過ごすために少しでも拡張したい。そこでバーチャルな窓を設置するわけだが、この時に普通の窓ではなく、飛行機の窓にしたという発想はなかなかユニークだ。もう一つの例である盆栽の方はこれまでにもあったアートフレームと同じだ。
ファーストクラスのバーチャルウインドウ
飛行機の窓と言えば、筆者はエミレーツ航空のファーストクラスのバーチャルウインドウを体験したことがある。体験と言っても実際のフライトではなく、あくまでも地上での体験だ。昨年六本木の「メルセデスミー東京」で、エミレーツ航空が羽田−ドバイ線に就航させているボーイング777-300ERのファーストクラスのシートが展示されていた。
エミレーツの「ゲームチェンジャー」と命名された新しい777のファーストクラスは全部で8席。1−2−1の配列が2列である。そうなると中央部の2席には当然ながら窓がない。そこでここにバーチャルウインドウを設置して、全席を窓側にしてしまおうということだ。
機体がボーイング777である以上、エミレーツと言えど独自に窓の大きさや間隔を変えることはできない。窓の大きさは21インチディスプレイほどの大きさで、ここに少し大きい24インチほどのディスプレイが埋め込まれている。ファーストクラスの場合は1席で窓3つあるのだが、窓3つ分で1面の大きなディスプレイを使っているわけではなく、窓ごとにディスプレイを使用している。
表示解像度は2Kなので若干眠たい気もするが、サイズが小さいのであまり気にならない。ディスプレイに表示されるものは、今回の展示では録画されたものであるが、実際には機体に設置されたカメラのライブ映像だ。実際に飛んでいる場所の外の様子が映し出されるのである。
実際に体感した感想は、極めてリアルであるということだ。飛行していないので振動も加速も感じられないが、バーチャルウインドウの映像は本当の窓からの眺めとほとんど変わらない。実際の飛行時においては、逆光やコントラストが高い時、あるいは夜間などでどれくらいカメラと画像処理が追いついてくるのか気になった。
バーチャルウインドウのニーズ
話をSky Scapeに戻そう。注目したいのは、風景配信サービスを行っているランドスキップと、JOLEDというディスプレイメーカーが商品化したことである。OLEDメーカー自らがディスプレイの新しい市場を開拓しなければならない事情が見え隠れする。これが50インチ以上の大画面だとLCDとぶつかり、競合メーカーも数多い。22インチクラスの4KOLEDであればJOLEDはそれなりのポジションを得られるだろう。
飛行機の窓として映像を表示する場合は、おそらく実際の飛行機に乗って外を見るよりも綺麗に見えるのではないだろうか。それはご存知のように飛行機の窓は特殊ガラスやプラスチック系のものなどで3重構造になっており、透明度も低くて汚れていることが多いからだ。
自宅でのリモートワーク中にSky Scapeで機上からの景色を見ることができれば、気分はもうファーストクラスで、仕事の効率も上がるのではないだろうか。飛行機の窓ではなく普通の窓であっても、窓の外の景色がきれいなビーチだったり、都会の街並みに変えられたらとてもいいように思う。
これらはできれば録画されたものでなく、ライブカメラの映像がいい。ライブ映像を表示することが重要なポイントのように思う。録画されたものは結局繰り返しになるので既視感が拭えないし、なにより録画ということがわかっているとテンションも上がりにくい。ライブ映像であればコンテンツは無制限に供給されるし、時間や天気、季節の変化を感じることができる。
移動しにくい状況下において、バーチャルウインドウという考え方は受け入れやすいのではないか。HMDでVR体験をするのもいいと思うが、どうしても非日常な体験となる。バーチャルウインドウなら自宅での日常に非日常がうまく溶け込んでくれるはずだ。
そう思って最近筆者は、湘南ビーチFMの富士山と江の島のライブカメラ映像を仕事中はいつも流しっぱなしにしている。